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過去:陽斗召喚 ――「滅びかけの魔術と、鉄オタの悲劇的召喚」

ようやく世界の設定が少し明らかになりました。

次回はあの人がこの世界に降り立ちます。

1.加賀見陽斗

 加賀見陽斗――普通の大学生で、しかし普通ではないほどの鉄道オタクだった。

 鉄道の構造、軌道、橋梁、鉄輪の摩擦係数、交通計画。

 地理オタクでもあり古地図を読み、地形を眺め、線路跡を追うのが生きがい。


 大学では土木工学を専攻し、地盤と交通の講義だけは異様に成績が良かった。

 そんな陽斗が異世界に来てしまった理由は、簡単で、そして絶望的だった。

 ――この国では、魔術がほぼ滅んでいた。


 

2. 魔術の残滓

 かつては大陸を覆ったという魔法文明も、今では伝承の中でしか語られない。

 魔術師と呼ばれる者はいるが、その技術は祖父の祖父の代から伝書を読み継いだだけの儀式屋にすぎない。


 使える魔術は、ほんのひとつ。

 《転生魔法(英雄召喚魔法)》関連だけ。

 それも本来の力の100分の1も発揮できず、

 失敗し、暴走し、対価(命)ばかり吸い取る危険な博打儀式だった。


 それでも王家はすがった。

 戦争の劣勢を覆す切り札として――。

 

3. 召喚の瞬間

 陽斗が召喚されたのは、王宮の地下に残された最後の儀式場。

 石壁は崩れかけ、魔法陣は欠けている。


 魔術師たちは古文書を震える手で読みながら、細々と儀式を続けていた。


 光が弾け、気づけば陽斗は魔法陣の上に立っていた。

「……え!? な、何これ!? どこ!? ここどこ!?」


「成功……したのか?」


「い、いや……どうだ……? 生きてはいるが……」


 魔術師たちの会話が不安すぎて、陽斗はさらに混乱した。


 その場にいた一人が、恐る恐る手をかざす。


「《英雄鑑定》……!」

 淡い光。


 しかし表示されたのは、ショボい文字列ひとつ。

「……え、えっと……“鉄オタ”…と出ております……陛下……」


 沈黙。


 王、第一王子、近衛、魔術師――全員が固まった。

「てつ……おた?」


「なんだそれは? 魔術か?」


「鉄を操る者か?」


「違うと思います……陛下……」


「じゃあ何だ!?」


 陽斗は震えながら説明した。

「あ、鉄道が好きで……日本のインフラが……レールを使って……」


「にほん?」


「いんふら?」


「レールとは?」


(やばい、何も通じてない……!)


 

4. 悲劇の鉄道講義、開始


 陽斗のオタク心が最悪のタイミングで火を吹く。

「あ、えっと、レールというのはですね! 鉄の棒を二本こう並べて――」


「二本並べて……?」


「で、その上を鉄輪が転がるんです! 摩擦が小さくて燃費が――」


「摩擦……燃費……?」


「路盤の強度が大切で、バラストを敷いて……!」


「ばら……すと?」


「曲線半径が小さいと遠心力で――」


「えんし……りょく?」


 魔術師はすでに泣きそうだった。

「陛下……わ、私にも理解が……」


 第一王子が焦れたように言う。

「結局、何なんだこいつは!?」


 陽斗は思わず胸を張った。

「鉄道オタクです!」


「……知らん!」


 

5. 王の最終判断


 王は頭を抱えた。

「魔術は滅び、鑑定は意味不明……

 連れて来たのは鉄の話しかできぬ者か……?」


「す、すみません……」


「鉄が好きなら……鉄の近くで働けばよかろう」


「え?」


 王は淡々と言い放つ。

「鉄なら鉄鉱山だ。そこなら少しは役に立つかもしれん。

 ――連れて行け。」


「いやいやいやいや!!」

 陽斗の抗議は、もはや誰の耳にも届かなかった。


「ただで飯を食わすわけにいかない、鉄の男よ、鉱山で働け。」


「鉄の男って何!?」


 そのまま陽斗は肩を掴まれ、

 強制的に馬車へ押し込まれた。


 揺られ、揺られ、

 辿り着いたのは黒い煙と硫黄臭の漂う崖の町――鉱山。


(……俺ただの鉄オタで地理と土木好きな大学生なのに……

 なんで鉱山に左遷されてるの……?)


 しかしこの滅びかけの魔術と間違った判断こそが――

 後に王国を変える革命の始まりになる。

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