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決戦前夜――「静かに、運命は流れ始める」

1.上流:ハルトとミツキの堰作業

 夕暮れの山間を、冷たい風が吹き抜ける。

 上流の堰では、ハルトとミツキが最終点検をしていた。

「……土嚢の積み方、もう一度見るぞ。

 斜めになれば破片が飛ぶし、

 堰が壊れたら農民たちの戻す手間が倍かかる。」


 ミツキは図板を抱え、連続イラストで説明する。

「紐を引く力はこれくらい。

 時間は太陽の位置で判断します。

 三つ目の図が引く瞬間です!」


「おお……これなら誰でも分かる……!」


 ハルトは頷き、堰の水面を見る。

「命の水だ。

 一滴も無駄にはしない。

 生活用水は全部、この細い分水路に流してある……

 農民たちの飲み水と家畜用だけは絶対確保するぞ。」


「うん……。

 もし勝ったら、この堰をもっと丈夫に作り直そう。

 作戦のためじゃなくて、

 生活のための堰に。」


「ああ。

 俺たちの仕事は、壊すだけじゃない。

 未来を作ることだからな。」


 風が、二人の横を静かに吹き抜けた。



2.下流:アヤ、ダリウス、コージの陣地


 オルド河原に面した前線陣地では、

 アヤが地図に距離計算を書き込み、ダリウスが確認していた。

「上流で堰を落とせば、

 水が到達するまで十二時間弱。

 真夜中に、敵の陣地は完全に水浸しになるわ。」


「合図はどうする?」


「光よ。

 ただしのろしや火は使わない。

 山道で迷った騎馬が出す反射光に見せかける。」


「……敵に悟らせず、味方だけが気づく光か。」


「この戦は情報戦よ。

 敵が理由を理解しないうちに、

 敗北したと悟らせるのが最善。」


 そのすぐ近くでは、

 コージが太鼓チームにリズムを叩き込んでいた。

「ワン、ツー、タッ、ドン!

 このテンポで投石器を回すんだ!

 お前らぁ、オーケストラのつもりでやれ!!」


「なぜだ!?」


「息が揃ってる軍隊は強いって歴史が証明してるんだよ!

 あと気持ちよく戦える!!」


 アヤがこの話を聞いてひとり呟く

「……軍楽隊って、本当にあったのよね。

 でもここまで有能なのは聞いたことないわ。」


 ダリウスはあきれ気味ではあったが顔にそれは出さなかった

(コージ……お前は天才なのか馬鹿なのか……)


 しかし兵士たちの動きは、

 確実に滑らかになっていた。



3.ルークスへの密命


 前線の少し離れた場所で、

 ダリウスがルークスを呼び寄せた。

「……例の件、頼む。」


「ああ。高々50騎では正面突破は不可能。

 だから――分かっております。」


「決戦の最終局面で動け。

 それまでは沈黙だ。」


「了解しました。」


 二人の言葉は短い。

 だが、この密命が翌日の勝敗を決める。


4.アリアの決断の翌朝

 堰の操作を依頼したあと――

 アリアはすぐさま馬に乗り、

 数名の護衛を伴って村へ向かうことをアヤに告げた。

「殿下、どちらへ……?」

「……お願いをしたのです。

 なら、次は感謝を伝えないといけません。」


 その言葉に、誰も反論できなかった。

 アリアが訪ねた村は三つ。

 そして、どの村でもまったく違う反応が返ってきた。



 ● 最初の村:沈黙の村

 最初の村は、

 昨日水を止める決断をしたばかりの村だった。

 アリアは深く頭を下げた。

「……あなた方の覚悟に救われました。

 必ず国を、そしてあなた方の畑を守ります。」


 村人は最初こそ怯えたが、

 やがて柔らかく微笑んだ。

「殿下……。

 こんなに丁寧に言ってくださるなんて……

 何十年ぶりかもしれません。」


「……ありがとうございます。」


 ● 二つ目の村:涙の村

 次の村では、

 一人の老農婦がアリアを出迎えた。

「殿下……

 わしの息子は徴収されて……帰らんかった……

 どこで斃れたのかもしらされておらん。

 でも、殿下みたいな方が……

 国を導いてくださるなら……

 それでええ……」


 アリアは思わず手を取り、

 震える声で言った。

「……私が、国を変えます。

 息子さんのような犠牲が……次に活かされるような、

 無駄死とならないような国にします。」


 老農婦は泣きながら頷き、

 アリアの手をぎゅっと握った。


 ● 三つ目の村:笑顔の村

 三つ目の村は、明るい雰囲気だった。

 子どもたちが元気に走り寄り、

 アリアの馬を囲む。

「お姫さま! 昨日の花、まだ持ってる?」


「ええ。ちゃんと胸元に挟んでいますよ。」

 子どもたちは歓声を上げた。


 村長は、穏やかな笑みで言った。

「殿下。

 投資の話、忘れとらんぞ。

 未来を楽しみにしておる。」


「必ず……必ずお返しします。」


「ほっほ、楽しみにしとるわい。

 もちろん、ライブとやらもな。」


 護衛は頭を抱えた。

(殿下のライブ巡業……もう止まらん流れだ……)

 だが、それは間違いなく民の本心だった。



4.決戦前の静寂――すべての布陣が整う


 二日後。

 村々をまわり終えたアリアは、

 疲れを見せずに前線へ戻ってきた。


 前線の兵たちはその姿を見てざわめいた。

「殿下……! 本当に、村を回ってきたのか……」

「頭を下げたって……本当だったんだ……」

「俺たち、こんな人のために戦えるのか……!」


 その空気をアヤは確かに感じた。

(……これが人の和。

 彼女は、軍を自分の力ではなく

 民の信頼で動かしてる……

 これこそ王の器……)


 ダリウスも静かに呟いた。

「殿下の背中を見て……

 動かぬ者はいない。

 これで……勝てる。」


 すべてが整った決戦前日の陽が最も高く上がったころ

 本陣では緊張が走り始めた。


 アヤは陣地図を折り、

 深く息を吐いた。


「……これで、準備はすべて整ったわ。」


「上流は?」


「ハルト殿とミツキ殿が、最終点検中です!」


「よし。

 あとは……知らせを待つだけだ。」



5.上流:決戦のスイッチ

 同じころハルトとアヤは緊張の面持ちで紐を握っていた。


「……ハルト君。

 もうすぐあの位置だよ。」


「ああ。

 紐を引くのは……

 国を守るための、最初の一手だ。」


「……でも、全部終わったら……

 堰も水路も直しに来ようね。」


「もちろんだ。」


 太陽が合図の位置に重なる。

「――引け。」

 ハルトとミツキが紐を引く。

 土嚢がゆっくりと、

 しかし確実に崩壊していく。

 そして水がただ確実に、下流へと静かに、

 だが勢いを増し流れ始めた。



6.下流:光が走る。


 アヤが、遠くの山からの光を見た。

「……来たわ。」

「全軍――明日決戦を決行する。

 今晩はしっかり休め!明日朝早いぞ!」


 コージ達の歌声は動きを悟られないよう最小限になった。


 ハルトの水が動き出し、

 アヤの戦略が走り出し、

 ダリウスの軍が動き出し、

 ミツキの図が兵たちを導き、

 ルークスが密かに影へ消える。


 そして――

 王子たちの陣営の誰もが気づかぬうちに、

 オルド河原の運命は流れ始めた。

ここまで読んでくださってありがとうございます。

基本は書き終わっていますが、今、あとがきで遊んでいます。

もし時間があればブックマークや評価があれば私は喜びます。

たとえしていただけなくても、今後もお楽しみいただければ幸いです。

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