鍛冶場の格闘 ――「説明が下手すぎて、試作品が七回折れた」
いよいよハルトの能力が発揮され始めます
1.鍛冶場にて
鉱山の端にある鍛冶場は、
昼でも薄暗く、鉄と煤の匂いがこびりついた空間だった。
カン、カン、カン……。
鉄を打つ音が、洞窟内に一定のリズムで響く。
「で、ハルト。さっきのをもう一回説明してくれ」
鍛冶場の職人――分厚い腕の中年男が腕を組む。
ハルトは喉を鳴らし、必死でしゃべり始めた。
「えっと……車輪に軸が通ってて、その間に……こう……薄い板を……丸くして……あの……摩擦が……減って……」
「……ああ?」
「だからその、車輪の穴と軸の間に……ひとつ薄い……何か……」
「何かってなんだよ」
「うっ……!」
後ろで見ていたデイランが、静かにため息をつく。
「ハルト、落ち着け。
薄いなにかを挟むことで摩擦を減らすということだけ言え」
「は、はい!」
ハルトは図を描こうと地面に小石で線を引く。
だが――
「それは……丸か?」
「三角みたいになってんぞ」
「いや、ここは丸です!」
「丸にしては角が立ってるが?」
「ぐっ……!」
またひとつ試作品が折れた。
職人はあきれ、しかし楽しそうに笑った。
「お前さん……説明下手すぎないか?」
「す、すみません……!!」
ハルトは汗だくで試作品に向き合う。
(どう言えば伝わるんだ……!?
頭では分かるのに、言葉にした瞬間ぐちゃぐちゃになる……!)
焦りで手が震えると、横から大きな手が伸びた。
ディランだ。
「ハルト。まず“何がしたいか”だけ言え。
細かい仕組みは、俺と職人が読み取る」
「……何がしたいか……?」
「そうだ。お前はどういう状態になればいいと思っている?」
「……車輪が軽く回ってほしいです。
今より、ずっと……誰が押しても疲れなくなるように」
それを聞いた瞬間、鍛冶場が静まった。
職人が鼻をならし、ニヤリと笑う。
「そりゃいい。
なら軽く回る仕組みを作りゃいいだけだ。
細かい形は後だ後!」
ディランも頷く。
「目的が分かれば、作り方はいくらでもある」
「は、はい……!」
そこから――
ようやく話が通じ始めた。
2. 試作品:失敗その1
「じゃあ、薄い輪っかを木で削ってみるか」
「はい!」
「……って、穴の位置ズレてんじゃねぇか!」
「す、すみませんっ!」
バキッ。
「おい! 折れたぞ!」
「あぁぁ……!」
3. 試作品:失敗その2
「金属の板を丸くしてみよう」
「ありがとうございます!」
「金槌貸せ! ――ちょい待て、打つ場所違う!」
ガンッ!
「穴がつぶれたぁぁぁ!!」
「うぉい新人! 落ち着けよ!」
4. 試作品:失敗その3
「よし、軸に通してみろ」
「はい! ……あれ?」
「逆だ逆!!」
「ぎゃあああ!!」
ボトッ。
床に転がる部品。
「ハルト、お前……」
ディランが額を押さえる。
「これは……説明以前の問題だな……」
「ぐほっ……!」
陽斗は膝をつきながら涙目になる。
5.いよいよ
それでも少しずつ前進し
日が傾き始める頃。
三人は、汗と煤にまみれながらも、なんとか完成した“木製軸受けパーツ1号”を見つめていた。
歪んでいる。
厚みも均一じゃない。
寸法も怪しい。
でも――
「……回った……!」
トロッコの車輪が重たげに、それでも確かな手応えで回った。
「おお……!」
「まじか……!」
職人の目が丸くなり、ディランが深く頷く。
「不格好だが……軽い回転にはなっている。
ハルト、お前の言っていたことは、本当に正しかった」
「……よかった……!」
ハルトはその場で座り込み、涙がこぼれそうになる。
(伝わった……図にできなくても……
言葉が下手でも……
誰かが理解してくれた……!)
その喜びは、胸の奥で静かに熱く広がった。
6. しかし、喜びは長くは続かない
後日。
軸受けを付けたトロッコは「直線だけは」魔法のように軽かった。
だが――




