ルークスの独白――「王妃との日々は、もう思い出せない」
1.変わる鉱山
あの下働きの娘を送り返した翌日。
鉱山はいつも通りの朝を迎えていたが、
その空気はどこか柔らかかった。
坑夫たちは無駄な怒号を飛ばさず、
声を合わせて作業に向かい、
今日もコージの奇妙な掛け声とともに
溝付きカーブを走り抜けていく。
「はい! はい! はいはいはい!!」
食事の列も乱れず、
炊事場からはパンの温かい匂いがかすかに漂う。
(……よくなったもんだな)
ルークスは腕を組み、
坑道に続く入り口から静かにその光景を眺めていた。
(ほんの数日前まで、
誰も笑わなかった場所だったのにな)
だが、その中心にいたのは――
ハルト、ミツキ、コージだけではなかった。
(……あの娘も、だな)
下働きしかできない、弱々しい娘。
あの日、泣きながら地べたに座り込んでいたあの娘。
実際に彼女が何か大きなことをしたわけではない。
だが、彼女の歌を聞いた夜――
あの地獄のような坑道が、一瞬だけ明るくなった。
(あれは……不思議な女だった)
自分でも理解できない感情が胸に残っている。
2. 王妃の記憶
ふっと、遠い昔の記憶が蘇った。
(……俺は元々、王妃様にあこがれて軍人になった)
誠実で、気高く、誰に対しても優しい人だった。
あの人の盾になれるなら……と軍に入ったようなものだ。
そして王妃が亡くなった後、
王の心は冷え、勢いを増した第一王子派閥
とルークスの確執が始まった。
ルークスははっきりと嫌われ、
やがて左遷を告げられ、鉱山へと左遷された。
(まあ、俺の口も態度も悪かったからな……
飛ばされても仕方ない)
だが、王室に残してきたものがひとつだけある。
赤子の時に一度だけ間近に見た王女。
(……あの子は、今どうしているやら)
ほんの束の間抱かせてもらった温もり。
あれからずいぶん時間が経った。
今では面影すらぼんやりだ。
(まあ……俺の知ったことじゃねぇな)
3. それでも、気になるものは気になる
視界の端で、昨日の下働きの娘の姿が浮かぶ。
深く頭を下げる癖
礼の仕方
声をかけるときの落ち着き
そして――あの歌声
(……いや、まさかな)
頭を振ってその思考を追い払う。
探索でも訓練でも、
身分を隠す者の空気なんて何度も見てきた。
だがあの娘は、
ただ真面目に働こうとしていた下働きにしか見えなかった。
(顔立ちが似ているかどうかなんて覚えてねぇしな……
俺は騙されやすいかわからんが、
あの子があいつ……ってわけは……)
そこまで言いかけ、
ルークスは自分で鼻で笑った。
「……くだらん」
4.結局、国は変わらない
ハルトたちが生み出した改善は見事だ。
鉱山が変わったのも事実だ。
あの娘が少しだけ明るくしたのも事実。
だが。
(……だからなんだ)
王妃がいない王家は腐り、
王子は愚かで、
軍は疲弊し、
国は傾いていく。
自分の人生も、左遷されてからずっとこんな場所だ。
いくら鉱山が良くなったところで――
「どうせ、何も変わりゃしねぇよ」
独り言のように呟き、
ルークスは坑道へ向かって歩き出した。
その背中は、
希望を信じるには歳を取りすぎて、
諦めるにはまだ誠実すぎる、
そんな中年軍人のものだった。
基本は書き終わっていますが、今、あとがきで遊んでいます。あとがきの創作意欲のためにもブックマークや評価お願いします。




