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戻る王女とギルドの熟慮――「熱情は力だ。だが商人は現実で動く」

1. 鉱山の早朝――帰還手続き

 夜明けの冷たい空気が残る中、

 ギルド員エリアス・フェルムは鋭く目を光らせて鉱山入口に立っていた。


(……この娘、本当に彼女なのか……?

 だとすれば、大問題だ……!)


 彼の胸は、真面目さと緊張で固くなっている。


 だが表情に出るのが悪い癖だ。


 帰還手続きは驚くほど簡単だった。


「はいはい、下働き不適合・体調不良で返すんだな?

 書式はそこ」

 事務係は今日も投げやりだ。


 エリアスは丁寧に書き込みながら、

 横に立つ娘の横顔をそっと見る。

(こんなに丁寧な所作……

 それに……歌声……あれを聞いて気づかない者はいない)


 心臓がやたら忙しく脈打つ。

 だが――

 この場に別の男が現れ、空気が一変した。

  

「よう。帰るのか、嬢ちゃん」

 鉱山管理者ルークスが、片手を振って近づいてきた。


 相変わらずの無愛想で、無遠慮で、寝不足顔。

「ここは繊細な子が来る場所じゃねえ。

 死なずに済んだだけでも運はいいさ」


 それは優しさでも助言でもなく、

 ただの嫌味だった。


「……ありがとうございました」

 娘が深く頭を下げると、


 ルークスは一瞬固まり、視線をそらす。

「礼なんざいい。……王都でも気をつけろよ」


(あの態度……絶対気づいてない)

エリアスは少し脱力する。

(本当にこの場所は特別扱いする気がないんだな……

 ある意味、ここは……平等なのかもしれない)


 だが彼の表情には緊張が残ったままだ。

「ギルドのあんたも、気張れよ」


 ルークスがエリアスに目を向ける。

「ここの連中、妙に元気だ。

 ……余計なこと、しでかすなよ?」


「は、はい……」

 少しビクつくエリアスに、坑夫たちはくすっと笑った。


 真面目で情熱的なくせに顔に出る男。

 それが、彼の第一印象だった。



2. 商業都市リバトーン・ギルド本部

――報告と、現実主義者の言葉

 

リバトーン帰還後

 エリアスはギルド長ロッシュ・カーネルの前に立っていた。


「――つまり、鉄鉱山は明るかったと」


「はい」

エリアスは強く頷く。

「以前の報告にあった地獄の鉱山とは全く違いました。

 作業が早いだけではなく、

 空気そのものが変わっているんです。

 労働者の表情に余裕があり……

 互いの声が揃っていて……

 士気が――」


 ロッシュは片手を上げて言葉を止めた。

「冷静になれ、エリアス」


「……っ」


「鉱山の状況が変わったのは事実だ。

 だが、原因はまだ何一つ特定できていない。」


 エリアスは唇を噛む。

(自分だったらもっと動けるのに……!

 あの場所で何が起きているのか……

 確かめたいのに……!)


 その表情を見たロッシュは、

 深いため息をつきながら言った。


「商人はな、

 情熱だけで動くと破滅する」


「……!」


「だが、情熱がなければ、真実にも辿り着けない」


 エリアスは顔を上げた。


 ロッシュは続ける。

「ほうぼうに網を張れ。

 鉱山の物資、酒場の噂、兵士の動き……

 全部調べろ。

 だが――即断はするな」


 エリアスは息を呑んだ。


 ロッシュは椅子に深く座り直し、

 静かに断言する。

「まだわからん。

 だが何かが起きているのは、確かだ」


「……!」


「我々商人は、

 理解できる時が来たら動く。

 それまでは焦るな。

 熱情だけで決めるな、エリアス」


 その言葉は、叱責でも、否定でもなかった。


(……信じられているんだ)

 エリアスの胸に、小さな光が灯る。


「――はい。

 網を広く、冷静に……情報を拾ってきます」


「よし。それでいい」

 ロッシュは窓の外を見つめ、低く呟いた。

「鉄鉱山……

 本当に何かが変わり始めているのかもしれんな」


 その声を、エリアスは確かに聞いていた。

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