月明かりの下で歌姫誕生 ――「推し変わりそうで怖い」
1.活気づく鉱山
溝付きカーブが増えたことで、
新型トロッコは今日も安定して走り続けた。
坑内では、いつものようにコージの鉱山節が響く。
「はい! はい! はいはいはい!!」
「ヨイショーーーー!!」
坑夫たちもすっかり乗り慣れたもので、
どこの坑道でも声がこだました。
事故は減り、作業効率は明らかに上がっていた。
ルークスでさえ、
「……まるで別の鉱山だな……」と呟くほどだ。
その活気の延長で、
今夜は自然と宴が開かれた。
2. コージの歌と笑い声
月明かりの下、坑夫たちは白パンを片手に、
薄い酒を回しながら焚き火を囲む。
「今日のパンは柔らかかったなぁ~!」
「たまにでいいから続けてくれよ!」
「ミツキちゃんありがとな!」
「いやいや、ミツキちゃんとハルトとディランのおかげだろ!」
「あ、あとコージ!!」
「ちょっ……俺はただ歌ってただけ……!」
コージは照れながらも立ち上がり、
坑夫たちの期待に応えるように歌い出した。
「♪ 力合わせて~今日も無事故~!
♪ うまい飯が食えるのは~みんなのおかげ~~!」
「はいはいはいッ!!!」
「よっしゃ行けぇ!! コージィ!!」
鉱山は今日も笑いに満ちていた。
3. そして――下働き娘の歌声
酔いも回ってくると、坑夫たちの声が上がる。
「おい、あんたも何か歌ってみろよ!」
「この前もちょこっと歌ってただろ!」
炊事場で働くあの下働き娘が横目で驚き、
頬を赤らめて手を振る。
「い、いえ……わたしなんて……」
「大丈夫! コージもいるし!」
「聞きてぇんだよ!」
コージも笑う。
「大丈夫、大丈夫!
僕も最初は緊張してたんだから!
みんな優しいよ!」
「……じゃあ、少しだけ……」
彼女は一歩前に出て、
両手を胸の前で静かに重ねた。
月明かりの下、彼女が一瞬輝いて見えた。
そして――
優しく息を吸った。
「……♪ 風の彼方に……祈りを授け……
歩む者らに……安らぎあれ……」
その瞬間、
坑道は水が流れるような静寂に包まれた。
声は澄みきっていて、
どこか品がありながらも、
聴く者の心を抱きしめるように柔らかかった。
(……な、なんだあれ……)
(すげえ……胸が震える……)
(声だけで、こんなに……)
コージでさえ言葉を失い、
目を潤ませていた。
「……ぐっ……この子……歌姫か……?」
歌が終わった瞬間、
坑夫たちは一斉に拍手と歓声を上げた。
「すげええええ!!」
「天使だ!!」
「鉱山の女神だ!!」
彼女は恥ずかしそうに頭を下げたが、
その頬はどこか嬉しそうに紅潮していた。
3. ディランとギルド員の気づき
その歌声を聴き、
宴の端でひっそり酒をすすっていた男が
そっと目を伏せた。
リバトーン商業ギルドの密命を受けて
鉱山内部に潜伏しているギルド員、エリアスである。
(……間違いない。
この声……王都の祝祭で一度だけ聴いたあの者の……)
冷や汗が背筋を走る。
一方ディランは、
焚き火を見つめたまま静かに呟いた。
「……まあ、いつかは誰かが気づくだろうと思っていた」
エリアスは驚きの目を向ける。
「……やはり、あなたは……」
「ここに来た初日から分かっていた。
――だが、あの娘が自分で言わぬ限り、
俺が声を上げることはない」
「……承知しました」
ディランは酒を煽り、
ため息とともに呟く。
「この鉱山の者たちは娘として見ている。
それで十分だ」
エリアスは深く頷いた。
4. 彼女、自分からエリアスに近づく
宴が終わりに近づいたころ――
彼女はそっと席を立ち、
エリアスのほうへ歩いてきた。
「……あなた、ギルドの方ですよね?」
エリアスは瞬時に直立した。
「……はい。
隠し通していたつもりでしたが、
気づかれていましたか」
「ディランさんが……少しだけ教えてくれました。
そして……わたしも……あなたが隠そうとしている目だと気づいていました」
その瞳には迷いのない光があった。
「……お願いがあります」
「はい」
「王都へ……
わたしを送り返していただけませんか?」
エリアスは息を呑む。
「ご自身から……?」
「はい。
この鉱山で……わたし、やりたいことが見つかりました。
でもそれを成すためには……
いまのままではいけない。
ちゃんと戻って、
残すべきものを片づけて……
わたしの意思で進みたいのです」
エリアスは静かに目を伏せた。
(……この方は、本当に……)
「身分は……伺いません」
エリアスは丁寧に頭を下げた。
「ですが……察しております。
あなたを連れ戻す手続きは、
すべてギルドが保証します。
王都までの送りも、護衛も。」
彼女は小さく、しかし確かに頷いた。
「……ありがとうございます。
では、明日……出発の準備を」
「承知しました」
エリアスは深く礼をした。
(……鉱山は、確実に変わり始めた。
そしてそれ気が付いたのが彼女……
ついに動き始める……)
5. 夜は静かに更けていく
焚き火の残り火を囲むハルト・ミツキ・コージは、
まだ余韻に浸っていた。
「……すごい歌声だったね」
ミツキがぽつりと言う。
「うん……プロのレベルだった……
僕、推し変わりそうで怖い……!」
コージが泣き笑いする。
「明日から……またいろいろ変わりそうだな」
ハルトは遠くを見た。
ディランは少しだけ微笑んだ。
(あの娘が動き出すのか……
大きくなったものだ)
こうして――
鉱山の宴の夜に、
誰も知らぬところで
未来の革命の火種が静かに灯った。
謎の歴女(サイリウム振りながら)
「彼女の歌声って、本当に癒やされるわ〜。α波が出てる」
コージ 「さすがわかってる―――。
……彼女にこの『安酒』じゃ合わない!もっとこう……」
謎の歴女 「そうね。もっと温かみがあって、とろっとしてて、
さらにこの白パンに合うのは……。そう、チーズフォンデュよ!
こんなエタノールみたいな安酒じゃなくて、
白ワインの風味とチーズのコクが必要よ!」
コージ 「また出たな、謎の歴女。
まだ本編に出てないのに食欲だけは一丁前だ」
ミツキ 「次回 歌姫革命譚
高級レストラン開店? 看板メニューはフォンデュ
……って、誰が作るの」
謎の歴女 「私食べる人、あなた達作る人」
三人「「「この世界に来んな」」」




