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### 第78話「戻りそうになる夜」
アプリを削除して3週間後。
夜中の2時14分。
俺は布団の中で目が覚めた。
胸がざわざわする。
指が勝手に、机の上のスマホを探ってる。
(……やばい)
冷や汗が出た。
Hunter's Netを消したはずなのに、
「今頃誰か投稿してるかな」
「俺のこと、もう誰も覚えてないかな」
「フォロワー0って、やっぱり寂しいんじゃ……」
頭の中で、昔のループが始まる。
リロード、リロード、リロード。
スマホを握りしめた瞬間、
指が震えて、画面が割れそうになった。
(ダメだ、また戻る)
俺は布団を蹴って立ち上がった。
裸足でリビングへ。
暗闇の中、親父が一人でテレビ見てた。
缶ビール片手に、釣りの番組。
「……剛志?」
俺は、震える声で言った。
「……親父、釣り、行かない?
今から」
親父は一瞬驚いたけど、
すぐに立ち上がった。
「……ああ」
夜中の3時半。
誰もいない堤防。
親父は無言でコマセを撒き始める。
俺はサビキを落とす。
魚は全然釣れない。
風が冷たい。
でも、
親父が隣にいるだけで、
胸のざわざわが、少しずつ収まっていく。
1時間後、
俺はぽつりと呟いた。
「……俺、また戻りそうになった」
親父は、コマセを撒く手を止めずに、
静かに答えた。
「戻ってもいい。
戻ったら、またここに来い」
俺は、泣きそうになった。
「何回戻っても、
俺はここにいるからな」
その言葉が、
10年間の穴を、
少しだけ埋めてくれた。
朝5時。
魚は0匹。
でも、俺は
初めて「戻っても大丈夫」って思えた。
家に帰って、
俺はスマホの電源を切ったまま、
机の引き出しにしまった。
鍵をかけた。
戻りそうになったら、
また親父と釣りに行く。
それでいい。
依存は、
まだ俺の中にいる。
でも、
もう俺を縛れない。
黒川剛志、18歳。
フォロワー0人。
でも、
夜中の堤防には、
いつでも親父がいる。
これが、
俺の「回復」だ。




