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(医務室を出て、夕焼けの路地。)
コウタは剛志の横を歩きながら、
ずっと黙ってた。
剛志は俯いたまま、
「……悪いな、付き合わせて」
って小声で言った。
コウタは、
ため息一つ吐いて、
ようやく口を開いた。
「……剛志」
声が、
震えてた。
「俺、もう……引くに引けなくなってるんだよ」
剛志が顔を上げる。
コウタの目が、
真っ赤だった。
「9時間12分って聞いて、
数千回リロードって聞いて、
お前が『一人取り残されるのが怖い』って言った瞬間、
俺、もう……どうすりゃいいかわかんなくなった」
コウタは、
拳を握りしめて、
声が裏返りそうになりながら、
続けた。
「怒るのも、泣くのも、
止めるのも、全部遅すぎる気がして……
でも、黙って見てるのも、もう無理なんだよ」
「俺、
お前がそんな風に壊れてくの、
見てるしかできない自分が、
クソすぎて……」
コウタは、
剛志の肩を掴んだ。
強く、震えながら。
「だから、頼む……
少しでもいい、
減らしてくれ……
俺が、代わりに一緒にいるから」
剛志は、
初めて、
コウタの目を見て、
言葉を失った。
コウタの涙が、
一滴、
地面に落ちた。
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「俺、もう……引くに引けなくなってるんだよ」
剛志は顔を上げた。
コウタの目が、真っ赤だった。
(……え?)
剛志の頭が、一瞬空白になる。
「9時間12分って聞いて、
数千回リロードって聞いて、
お前が『一人取り残されるのが怖い』って言った瞬間、
俺、もう……どうすりゃいいかわかんなくなった」
コウタの声が裏返りそうになりながら、続ける。
(……コウタが、泣いてる?)
剛志の胸が、ズキンと痛んだ。
今まで、誰にも見せたことのない部分を、
初めて、
見られた気がした。
「怒るのも、泣くのも、
止めるのも、全部遅すぎる気がして……
でも、黙って見てるのも、もう無理なんだよ」
コウタは拳を握りしめ、
震える手で剛志の肩を掴んだ。
「俺、
お前がそんな風に壊れてくの、
見てるしかできない自分が、
クソすぎて……」
(……俺が、壊れてる?)
剛志の脳裏に、
今までの9年9ヶ月がフラッシュバックする。
小3で作ったアカウント。
母親が最初のフォロワーだった日。
深夜4時に充電ケーブルに首を絞められて目覚めた朝。
ジップロックに入れたスマホを風呂蓋に置いてリロードした夜。
通知0の画面を、数千回スワイプした指の痛み。
全部、
自分で選んだはずだった。
でも、
コウタの涙を見た瞬間、
初めて、
(……俺、壊れてたんだ)
って、
胸の奥で、
小さな、
でも確かに、
何かが、
ひび割れた。
「だから、頼む……
少しでもいい、
減らしてくれ……
俺が、代わりに一緒にいるから」
コウタの涙が、一滴、地面に落ちた。
剛志は、
震える手で、
ポケットの中のスマホを、
ぎゅっと握りしめた。
まだ、
離せなかった。
でも、
初めて、
「離しても、
死なないかもしれない」
って、
ほんの少しだけ、
思えた。




