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:『サクラの願い』


夕食後、サクラがそっとオルセンの前に座り、古びた木箱を差し出した。


「オルセン、開けてみてください」


オルセンが蓋を開けると、中には整然と綴られた通帳と、彼がこれまでにもらった全ての勲章が並んでいた。


「これは…?」

「あなたの人生です」


サクラの声は静かだが、深い愛情に満ちている。


「40年間、あなたが一つひとつ稼いでくれたお金。そして、あなたが決して自慢することのなかった勲章たち」


オルセンは通帳の金額を見て目を見開いた。


「こんなに…?」

「ええ。もう十分です。私たち、残りの人生を穏やかに過ごせます」


オルセンはしばらく沈黙し、ゆっくりと首を振った。


「サクラ…でもな、これを辞めちまったら、俺は…」


サクラは優しく彼の手を握った。その手は長年の家事で荒れていたが、温もりに満ちている。


「オルセン、あなたはもう68歳です。この手を見てください。もう若くはない」

彼女の声が少し震える。

「毎朝、あなたが起きる時のうめき声を聞くたび、胸が痛みます。あなたの古傷が雨の日に疼くのを知っています」


オルセンはうつむいた。


「私は40年間、あなたの帰りを待ち続けました。最初は怖くて、でもそのうちに…ただあなたが無事であることだけを願うようになりました」


サクラの目に静かな涙が光る。


「オルセン、愛しています。だからお願いします…私のために、あなた自身のために、戦いを終わらせてください」


オルセンは深いため息をついた。


「53年もな…」

「ええ、十分に長い戦いでした。そろそろ…私の番を回してくれませんか?」


サクラの優しい笑顔に、オルセンの頑なな心が溶けていく。


「…わかった」

「本当に?」


サクラの目が喜びに輝いた。


「ああ。てめえがそこまで言うなら…」


オルセンは立ち上がり、物置から錆びた剣と盾を取り出す。長年の相棒たちにそっと触れながら、彼はつぶやく。


「親父…てめえがくれたこの相棒たち、よく頑張ってくれた。もう…休ませてやる時が来たようだ」


翌朝、オルセンはギルドに出向き、静かに引退の手続きを済ませた。受付の女性が驚くのも気にせず、彼は淡々と書類にサインした。


帰り道、最後に一度だけポータルの前を通った。かつては毎日訪れていた場所だ。


「さようなら、俺の戦場よ」


小声で別れを告げ、彼は振り返らずに家路についた。


家ではサクラが、オルセンの好きな料理をテーブルいっぱいに並べていた。


「お帰りなさい、オルセン。これからは、私があなたを幸せにします」


オルセンは初めて、肩の荷が下りたような気がした。戦う必要も、強くある必要もない。ただ、愛する妻と静かな日々を過ごせばいい。


「サクラ…ありがとうな。ずっと…俺を支えてくれて」

「いいえ、これからです。ゆっくり、老後を楽しみましょう」


窓の外では夕日が沈み、二人の新しい人生が静かに始まろうとしていた。53年の戦いを終えた老兵は、ついに安らぎを見つけたのだった。


:『新しい朝』


初めての引退後の朝、オルセンは習慣で目が覚めた。窓から差し込む朝日。長年、朝もやの中でポータルに向かうのが日課だった。


「もう…行かねえでいいんだな」


布団でゆっくり体を伸ばす。全身の関節が軋む。53年間の戦いの跡だ。


台所から味噌汁の匂いがする。サクラが起きているようだ。


「おはよう、オルセン。よく眠れた?」

「ああ…久しぶりに、のんびりと目が覚めたよ」


サクラの笑顔に、オルセンの心がほっとする。


「今日はどうする?街まで買い物でも行く?」

「そうだな…のんびり散歩でもするか」


朝食後、二人はゆっくり街へ向かった。これまでオルセンはいつも訓練場やポータルへ急いでいたが、今日は初めて周りの景色を見ながら歩く。


「オルセン、見て。桜が咲き始めてる」

「ほんとだな…きれいだ」


道ですれ違う近所の人たちが声をかけてくる。


「オルセンさん、今日はお出かけですか?」

「ああ、のんびり散歩だ」


昼過ぎ、二人は公園のベンチに座って休んでいた。遠くからコウタの姿が見えた。オルセンは軽くうなずき、コウタもそれに答えて去っていった。


「あの子、心配してくれてるのね」

「ふん…まあな」


サクラはオルセンの手を握った。


「あなたのことを思ってくれる人がいて、嬉しいわ」

「お前さえいれば、それで十分だ」


夕方、家に戻ると、オルセンはつい物置の方へ歩きかけた。かつては毎日、武具の手入れをしていた時間だ。


「もう、しなくていいのよ」

「あ…そうだったな」


オルセンは少し寂しそうな顔をした。サクラはそれを見逃さなかった。


「寂しいの?」

「まあ…な、53年も一緒だったからな」


サクラは優しく笑った。


「でも、これからは私と一緒に過ごす時間が増えるのよ。それに…」

彼女はオルセンを庭に連れ出した。


「見て、この庭。あなたがずっと手入れしたいって言ってたでしょう?これからはゆっくり家庭菜園を楽しめるわ」


オルセンは広い庭を見回し、ゆっくりとうなずいた。


「そうだな…」


その夜、オルセンは初めて、明日のことを心配せずに布団に入った。戦う必要も、早起きする必要もない。ただ、サクラと過ごす平和な日々が待っているだけだ。


「オルセン、お休み。愛しているわ」

「ああ…お前もな、サクラ」


窓の外では月が静かに輝き、二人の新しい人生を見守っているようだった。戦いを終えた老兵は、ついに本当の安らぎを見つけたのだった。


:『静かなる時間』


引退してから一週間が経った。オルセンは以前と同じ時刻に目を覚ますが、もはや急ぐ必要はなかった。布団の中でゆっくりと体をほぐし、サクラの寝顔をしばらく見つめてから静かに起き上がる。


台所ではすでにサクラが朝食の準備を始めている。


「おはよう、オルセン。今日は何かしたいことある?」

「んー…特にないな。お前と将棋でも指そうか」


午前中、縁側で将棋を指しながら過ごす。オルセンの指し手は相変わらず鋭いが、かつてのような切迫感はない。


「チェックメートだ、サクラ」

「まあ、また負けちゃった。オルセンは相変わらず強いのね」


サクラが笑いながら駒を並べ直す。その穏やかな時間が、オルセンの心を満たしていく。


昼過ぎ、二人は近所の商店街まで買い物に出かけた。魚屋の主人が声をかけてくる。


「オルセンさん、今日もご一緒ですか?大根、安くなってますよ」

「おう、一つくれ」


野菜を選びながら、オルセンはふと気づく。店の人たちの態度が、以前とは少し違う。もっと敬意を込めたものになっている。


「みんな、何か知ってるのか?」

「きっと、あなたが長年街を守ってくれたことを感じ取ってるのよ」


サクラの言葉に、オルセンは首をかしげる。


「でも、俺はただのEランクのじいさんだぞ」

「それでいいの。真実は私たちだけが知っていれば」


夕方、家に戻ると庭の手入れを始める。鍬を握る手は、剣を握っていた時と同じように確かだ。


「おや、オルセンさん。随分と上手ですね」

隣家の老人が声をかけてきた。


「若い頃、少しな」

オルセンは曖昧に返事する。実際には、戦いで培った集中力と観察眼が、庭仕事にも活かされていた。


夜、風呂から上がると、サクラがお茶を用意して待っている。


「オルセン、幸せ?」

「ああ…思ってたより、ずっとな」


オルセンは湯気の立つ茶碗を手に取り、ゆっくりと一口含む。


「戦ってた頃はな、いつ死ぬかわからねえと思ってた。でも今は…明日も、明後日も、お前と一緒にいられると思うと、なんだか不思議な気分だ」


サクラはそっとオルセンの手に触れる。


「これからもずっと、一緒よ」

「ああ…約束する」


月明かりが縁側に差し込み、二人の影を優しく照らす。戦いの記憶は遠くになり、平和な日々が確かに訪れていた。



:『無名の英雄、静かなる休息』


朝の光が床の間を優しく照らす。そこには、かつて錆びていた剣と盾が、美しく磨き上げられて飾られていた。


「おはよう、オルセン。今日もいい天気ね」

「ああ…相棒たちも、気持ちよさそうに眠っているな」


オルセンは床の間の剣と盾に挨拶するように呟いた。引退後、サクラの提案で武具を磨き上げ、家中で一番日当たりの良い場所に飾ったのだ。


午前中、オルセンは初めて書道を試してみた。長年剣を握ってきた手は、筆を持つと少し震える。


「うまく書けねえな」

「でも、とっても味がある字だわ」


サクラが温かく見守る。オルセンは何度も練習を重ね、ようやく「平和」という二字を書き上げた。それを床の間の武具の隣に飾ると、何だかしっくりきた。


昼過ぎ、近所の子供たちが遊びに来た。


「わあ!おじいちゃんの剣、きれい!」

「触っちゃだめだよ。でも…見るだけならな」


オルセンは子供たちに、武具にまつわる話をして聞かせた。もちろん、本当の戦いの話ではなく、でっち上げの冒険談だ。


「で、そのゴブリンをやっつけたのか?」

「ああ、でもな、本当に大切なのは強い剣じゃない。強い心だ」


夕方、剛志が訪ねてきた。


「やっぱりここに飾るのが似合ってるな」

「ふん、サクラがそうしろと言うからな」


剛志は床の間の剣をじっと見つめ、深くうなずいた。


「これでよかったんだな」

「ああ、これでよかった」


夜、オルセンとサクラは床の間に向かい合って座った。


「きれいに磨いたら、随分と立派な武具になったわね」

「ああ…でもな、サクラ。この剣の本当の価値は、見た目じゃない。俺と共に戦った53年間にあるんだ」


サクラは優しく微笑んだ。


「わかっているわ。でも、あなたの功績と同じように、きちんと輝く姿を見せてあげたかったの」


月明かりが床の間を優しく照らし、磨き上げられた剣と盾が淡く輝く。かつては錆に覆われていたが、今では美しい金属光沢を取り戻している。


「オルセン、あなたの選んだ道は正しかったわ」

「ああ…お前と過ごせるこの時間が、何よりの宝物だ」


二人の会話が静かに続く中、月の光を受けた剣がかすかに輝いた。まるで、長い戦いを終えた安堵の笑みのように。


 

「錆が消えたか」

 

【物語の結び】

「真の強さは、輝く武具にではなく、平穏な日常にこそ宿る――。」


こうして、オルセンとサクラの平穏な日々は続いていく。剣と盾はもはや戦うためではなく、平和の象徴として輝き続ける。





皆さん、こんにちは!暗黒の儀式でございます。


この物語は、私がずっと書きたかった「最強なんだけど、本人は全く気づいてない」というある種の狂気的なジジイの物語でした。


オルセン。この68歳のおじいちゃんこそ、私の「好き」を詰め込んだ最強の戦士です。


オルセンの狂ったスペック:


· 初期装備(両親の形見)を使い続ける→気づけば世界最強の神器に進化

· 装備マジカルパワーと工夫で68歳の肉体を超越→老眼と腰痛はそのまま

· 毎日世界を救うレベルの戦いを3回こなすタフさ→本人は「ただのゴブリン退治」

· 圧倒的経験と知識→すべて「勘」と「根性」で片づける

· 最強の大和撫子を妻に→サクラの狂愛的な献身

· 家族に囲まれて幸せ→本人は「ただのEランクじいさん」と自称


「継続は力なり」という言葉を、ここまで狂った形で体現するジジイも珍しいでしょう(笑)


無自覚の狂気:


· 全身ボロボロでも「最近のゴブリンは元気がいいな」で済ませる

· 次元を歪める一撃を「ちょっと強く振りすぎた」と表現

· 53年間、自分が世界を守り続けていることに気づかない


この「訳わからない玉ねぎ剣士」こそが、私の作りたかったキャラクターでした。


読者の皆様には、この狂ったじいさんと、彼を支える愛すべきキャラクターたちの物語を楽しんでいただけたなら、作者としてこれ以上の喜びはありません。

最後に、オルセンの名言で締めくくりましょう。


「強さなんて、形じゃねえ。毎日続けることだ。……てめえも、明日からゴブリン退治、毎日三回行ってこい!」


(一同、引っ込みつかず)


── 作者より ──

 

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