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第53話:剣 -
◆ 鍛冶屋前での再会
町の鍛冶屋の前で、コウタは懐かしい大きな背中を見つけた。
「オルセンさん!」
振り返ったオルセンは、相変わらずの無愛想な顔でコウタを見下ろす。
「お前か…どうした」
「オルセンさんみたいに、剣が使えるようになりたいんです!それで…」
オルセンの目が一瞬、鋭く輝く。彼はミスリル鋼を受け取り、じっと観察する。
「…で、今は何使ってる?」
コウタは腰の短剣を差し出す。「この短剣です」
「おい、カバンの中のそれよこせ。」
オルセンにミスリル鋼を渡す。
「昼に来い。」
オルセンはゲートへ去って行った。
地獄での鍛錬
オルセンは人気のないEランクポータルの前に立つ。片手にコウタの短剣、もう一方の手にミスリル鋼。
彼がポータルに足を踏み入れると、空間が歪み、世界は地獄と化した。
「ふん…今日も本気か」
オルセンは錆びた剣
を握りしめ、魔物の群れに立ち向かう。その動きは不格好だが、一つ一つの動作に無駄がなかった。
戦いながら、オルセンは短剣に込められたコウタの純粋な想いを感じ取る。
「ミスリル鋼…そしてお前の想い…全てを込めて」
◆ 創造の時
戦いが終わり、ポータル報酬が輝きながら現れた。オルセンはコウタの短剣とミスリル鋼を並べる。
「行くぞ」
ポータル報酬の光が二つを包み込み、融合し始める。短剣が伸び、ミスリル鋼が刃に溶け込む――見事な片手剣へと生まれ変わる。
「ふん、及第点だ。」
◆ 新たな旅立ち
昼時、ギルドの広場で待つコウタの元に、オルセンが現れた。
「ほら」
差し出された布包みを開くと、そこには美しい片手剣があった。刃にはミスリル鋼の星のような輝きが宿り、柄は彼の手に完璧にフィットする。
「お前の短剣とミスリル鋼…剣にした」
「オルセンさん…これは…!」
コウタは感激のあまり声が震える。まさか自分の短剣とミスリル鋼が、こんな見事な剣に生まれ変わるとは。
オルセンは去り際に振り返り、一言だけ言った。
「お前の想い…大切にしろ」
コウタは新たな剣を握りしめ、強く頷いた。
「はい!ありがとうございます!」
その叫び声は、もう遠くに行ったオルセンの耳にも届いただろうか。手にした剣は、仲間たちとの絆と、新たな師の想いを感じさせた。
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◆ 朝の訪れとともに
陽が昇り、ミミの裁縫店に新しい一日が始まろうとしていた。店の奥では、早くも魔法訓練の準備が整えられている。
「やあ小娘、準備はいいか」
「はい、ミミさん」
ミミは老婆の鋭い観察眼でリアを見つめ、深く頷く。
「ふむ…今日は基礎の反復だ。影の球を作れ」
◆ 繰り返される苦闘
リアが掌に影の球を浮かべる。しかし、またしても歪みが生じる。
「ダメだ。呼吸が乱れている」
「すみません…」
「謝るな」ミミの声は厳しい。「間違いを認め、修正するだけだ」
リアは深呼吸し、再度挑戦する。影は少しだけ安定するが、まだ完璧には程遠い。
「学校では、これを何年もかけて学ぶ」ミミが淡々と説明する。「お前はそれを数週間で習得せねばならん。苦しいのは当然だ」
◆ 進歩の兆し
三日目、ようやく小さな変化が現れた。
「…ほら、今日は少し長く保てたな」
リアの影の球が、これまでより数秒長く安定していた。微々たる進歩だが、確かな一歩だ。
「でも、まだ歪んでいます」
「気にするな。進歩していることは確かだ」
ミミは初めて、ほのかな笑みを浮かべた。
「魔法の道は、一進一退だ。昨日できたことが今日できなくても、落ち込む必要はない」
◆ 裁縫と魔法の相似
休憩時間、ミミは裁縫の道具を取り出した。
「見ていろ」
彼女は糸と針を手に、見事な縫い目を刻んでいく。
「魔法も裁縫も同じだ。一針一針、丁寧に進めるしかない。急げば糸は絡み、失敗する」
リアはその手さばきに見入る。
「あなたも、同じことをしなければならない。焦らず、一歩ずつだ」
◆ 新たな課題
「今日から新しい訓練を始める」
ミミが言い、小さな箱を取り出す。中には様々な形の木片が入っている。
「影でこれらの形を作れ。球体だけでは足りない。実戦では、様々な形を瞬時に作らねばならない」
リアはため息をつく。まだ球体すら完璧にできないのに、さらに難しい課題が加わった。
「道のりは長いぞ」ミミが言う。「だが、諦めなければ必ず到達できる」
夕暮れ時、疲れきったリアを見送りながら、ミミは呟いた。
「時間はかかるだろう…だが、あの子ならできる」
老婆の目には、長年の経験からくる確信が光っていた。




