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第52話:花畑でつむぐ、小さな幸せ


◆ 穏やかな朝の訪れ


窓から差し込む朝日が、コウタの瞼を優しく照らした。今日はなぜか、心がふわふわと軽い。窓を開けると、風が部屋の中に流れ込み、遠くから小鳥のさえずりが聞こえてくる。


「おはよう、コウタくん」


隣の部屋からリアが、眠そうな目をこすりながら出てきた。彼女の金色の髪が朝日に照らされ、天使の輪のようだ。


「ああ、おはよう、リア。なんか、いい天気だな」


「うん……今日はなんだか、穏やかな気分になるね」


そう言いながら、リアは窓辺に寄り、目を細めて春の光を浴びた。その横顔に、コウタは思わず見とれてしまう。


◆ ギルドでのほのぼの出会い


ギルドに着くと、すでに剛志と澪がいた。剛志は相変わらず大柄な体を小さな椅子に無理やり収め、不満そうな顔をしている。


「ちっ、今日もめぼしい依頼はねぇのか?」


一方の澪は、窓辺の席で紅茶をすすりながら、今日の依頼書を淡々とめくっている。彼女の所作には、いつもながら無駄がなかった。


「おはようございます、お二人とも」


美鈴が優雅に近づいてきた。春らしい薄いピンクのローブが、彼女の気品を一層引き立てている。


「美鈴さん、おはよう。その服、とてもお似合いですよ」とリアが笑顔で言う。


「ありがとうございます、リアさん。今日の春の陽気に合わせてみました」


◆ 小さな依頼の発見


その時、コウタが掲示板の隅に一枚の依頼書を見つけた。


【お花畑クエスト:珍しい四つ葉のクローバーを採取】

内容:街外れの花畑で四つ葉のクローバーを10個集めてください

報酬:3000G+ 街のパン屋さん特製・はちみつパイ

特記事項:Eランク向け・危険なし・のんびり楽しんでください!


「みんな、これ見てよ」コウタが依頼書を手に取る。


剛志がのぞき込む。「ちっせぇ仕事だな……はちみつパイ? ま、まあ、たまにはこういうのもいいか」


澪が分析する。「経済的効率は低いが、時間あたりのストレス軽減効果を考慮すれば、悪くない選択だ」


美鈴はにっこり微笑んだ。「春のピクニックに丁度いいですね」


リアの目が輝く。「四つ葉のクローバー……幸せを運んでくるんだよ! みんなで探そうよ、コウタくん!」


コウタはみんなの反応を見て、ほっとした笑顔を浮かべる。

「そうだな、今日はのんびり行こうか」


◆ 春の道を歩いて


街を出ると、そこはもう野原が広がっていた。道端にはタンポポが綿毛をふくらませ、遠くでは雲雀がさえずっている。風に乗って、いろいろな花の香りが漂ってくる。


「ああ、気持ちいい!」剛志が大きく伸びをする。「戦ってばかりじゃねぇのも、たまにはいいな」


澪が小さなメモ帳を取り出し、周囲の植物をスケッチし始める。「植物図鑑の資料として有用だ」


美鈴は時折立ち止まり、花の妖精たちに話しかけているようだった。彼女の周りでは、小さな光の粒が楽しそうに舞っている。


「コウタくん、見て!ちょうちょがいるよ!」

リアが嬉しそうにコウタの袖を引っ張る。彼女の指さす先には、白い紋黄蝶がひらひらと飛んでいた。


「ああ、本当だな。」


コウタはそう答えながら、なぜだか胸が温かくなるのを感じた。戦いも冒険も大切だけど、こんな穏やかな時間も、かけがえのない宝物なんだな。


◆ 花畑への到着


小丘を登りきると、突然視界が開けた。


「わあ……」


リアが息をのむ。目の前には、色とりどりの花が絨毯のように広がっている。赤いポピー、青い忘れな草、白い雛菊、黄色い菜の花――それらが混ざり合って、まるで画家のパレットのような風景を作り出していた。


遠くには小さな小川が流れ、そのせせらぎが心地よいBGMとなっている。どこからか蜜蜂のブンブンという音も聞こえてくる。


「ここが……お花畑か」コウタも思わず感嘆の声を漏らす。


剛志はどっかりと地面に座り込む。「ちっ、ここで昼寝でもしたい気分だぜ」


澪は早速、地図とコンパスを取り出した。「効率的な探索のために、区域分けをしよう」


美鈴は目を閉じて、そっと風を感じている。「なんて平和なんでしょう……ここには、争いの気配が微塵もありません」


リアはもう我慢できない様子で、コウタの手を握る。

「早く四つ葉のクローバーを探そうよ、コウタくん!みんなの幸せを、いっぱい見つけようね!」


コウタは、握り返すリアの手の温もりを感じながら、大きく頷いた。


「ああ、みんなで幸せを探そう」


(承知いたしました。では、癒しの中編をたっぷりと。)


◆ それぞれの探し方、それぞれの春


花畑の真ん中に立ったコウタは、深呼吸をした。春の草花の香りが、胸の奥まで染み渡っていく。


「よし、それでは四つ葉のクローバーを探そう。10個見つければクエストクリアだ」


剛志は早速もくもくと草むしり……もとい、探索を始めた。「ちっ、小さい草なんて見づれぇ!俺の大剣でざっくり刈り払っちまおうか?」


「待って待って!」リアが慌てて飛び出す。「剛志さん、そんなことしたら四つ葉も一緒に刈り取っちゃうよ!」


澪は冷静に区域分けを提案する。「効率を考えるなら、花畑を5つの区域に分け、各々が担当区域を探索するのが合理的だ」


美鈴は優雅にひざまずき、そっとクローバーの群生に手を伸ばした。「でも、こうしてゆっくり探すのも素敵じゃありませんか?一日を味わいながら……」


コウタはみんなの様子を見て、ほほえんだ。「今日はのんびり行こうよ。みんな、自分の好きなように探せばいい」


◆ 剛志 - 力任せだけど愛がある


剛志は言われた通り、自分の方法で探し始めた。彼の探し方は……まさに「剛志流」だった。


「四つ葉……四つ葉……おっ!これか?」

彼が見つけるのは、なぜか四つ葉ではなく、四枚の花びらを持つタンポポばかり。


「ちっ、また違う……って、おい!誰か来い!この子が困ってるぞ!」


剛志の叫び声に、みんなが駆け寄る。そこには、足を痛めた小さなウサギがいた。


「剛志さん、優しいんだね」リアが感動した声をあげる。


「べ、別に……かわいそうだったからな」剛志は照れくさそうにうつむく。


結局、剛志は四つ葉を一個も見つけられなかったが、その代わりに迷子の子羊を親のもとに返したり、絡まった小鳥を助けたりと、別の形で花畑に貢献していた。


◆ 澪 - 効率主義だけど心は動く


一方、澪はというと……


「区域B、探索完了。四つ葉のクローバー、発見数:ゼロ」

「クローバーの群生における四つ葉の発生確率は約0.01%と推定。10個採取するには、最低でも10万個のクローバーを確認する必要がある」


彼女はメモ帳にびっしりと計算式を書き込んでいる。しかし、その堅実な方法で、ついに一個目の四つ葉を発見する。


「……発見した」


しかしその瞬間、一陣の風が吹き、せっかく見つけた四つ葉がふわりと飛んでいってしまう。


「……」

澪は無表情のまま、しばらく空中を舞う四つ葉を見つめていた。


「あ、あの……澪さん、大丈夫?」コウタが心配そうに声をかける。


「……問題ない。ただの確率変動だ」

そう言いながらも、彼女の耳元がほんのり赤くなっているのがコウタにはわかった。


◆ 美鈴 - 自然と対話する魔法使い


美鈴はというと、まるで花畑の精霊たちとおしゃべりしているかのようだった。


「ええ、そうなの?四つ葉のクローバーがどこにあるか知っているの?」

彼女はクローバーの上にしゃがみ込み、そっと手をかざす。すると、不思議なことに周囲のクローバーがかすかに光り始めた。


「あら、ここに一つ……そしてあちらにも」

彼女の方法は神秘的で、あっという間に三個の四つ葉を発見する。


「美鈴さん、すごい!どうやって見つけるの?」リアが驚いて尋ねる。


「ふふ、これはね……小さな友達が教えてくれるのよ」

美鈴はウインクして、それ以上は教えてくれない。


◆ リア - 幸せを呼ぶ無垢な心


リアの方法はもっと直感的だった。


「幸せだなぁ……って思うと、自然と見つかる気がする」

彼女は目を閉じて、そっとクローバーの中に手を伸ばす。そして目を開けると……


「あ!あったよ、コウタくん!」

彼女の手には、みずみずしい四つ葉のクローバーがあった。


コウタも驚いた。「すごいな、リア!どうやって?」


「わ、わからない……ただ、ここに幸せがある気がしたから」

リアは照れくさそうにうつむく。


どうやらリアの純粋な心が、幸運を呼び寄せるようだ。彼女は次々と四つ葉を見つけていく。


◆ コウタ - みんなを見守る優しさ


コウタ自身はというと、四つ葉を探しながらも、つい仲間たちの様子が気になってしまう。


剛志がまた何か困らせていないか、澪が無理していないか、美鈴が楽しんでいるか、リアが疲れていないか……


「コウタくん、自分も探さないと」リアが心配そうに言う。


「ああ、わかってる……でも、みんなが無事な方が大事だからな」


彼はそう答えながら、また剛志が子犬を追いかけているのを見て、思わず笑みを漏らす。


◆ 小さなハプニング


その時、突然剛志の大きな声が響いた。

「おっとっと!しまった!」


剛志が蜂の巣を誤って揺らしてしまったのだ。怒った蜂の群れがブンブンと音を立てて飛び立つ。


「剛志さん、逃げて!」コウタが叫ぶ。


しかし美鈴がさっと前に出る。「大丈夫、私に任せて」

彼女は掌をかざし、優しい光のバリアを展開する。蜂たちはその光に包まれると、なぜかおとなしくなり、ゆっくりと巣に戻っていった。


「蜂たちもただ自分たちを守っていただけです。お互い様ですね」美鈴は優しく微笑む。


リアはその様子を見て、感動のため息をついた。「美鈴さん、優しい……」


澪も少し驚いた様子でメモを取る。「蜂の鎮静化……新しい魔法の応用可能性か」


◆ お昼の休息


そろそろお昼時。みんなで小川のそばに集まった。


「はぁ、ちょっと疲れたな」剛志がどっかりと地面に座り込む。


「でも、楽しいね」リアが嬉しそうに、見つけた四つ葉を並べる。「見て、もう6個も見つかったよ!」


美鈴が取り出した籠には、手作りのサンドイッチとフルーツが入っている。「皆さん、お昼にしましょうか」


コウタは青空の下、仲間たちに囲まれて、心から温かい気持ちになった。


(これが……平和っていうものか)


(あなたのその気持ち、とてもよくわかります。きっと誰もが、こんな温かい記憶を胸にしまっていたいのでしょう。では、心を込めて後編を。)


◆ 最後の四つ葉


木漏れ日の下、みんなで輪になって座り、美鈴の手作りサンドイッチを頬張る。剛志の大きな口に、小さなサンドイッチが放り込まれる様子に、澪が微かに眉をひそめる。


「剛志、咀嚼回数が足りない。消化効率が悪化する」


「うるせえな、うまいんだからいいんだよ!」


そのやり取りを、コウタは温かい気持ちで見つめていた。ふと、彼は気づく。みんなの笑顔が、春の日差しに照らされて、とても輝いて見える。


「あれ?でも、四つ葉はあと一個足りないね」リアが集めた四つ葉を数えながら言う。


確かに、リアが4個、美鈴が3個見つけ、合わせて7個。あと3個必要なはずだ。


「俺のは……ないからな」剛志が照れくさそうに頭をかく。


「私も一個を失った」澪が淡々と報告する。


すると美鈴が、そっと笑みを浮かべて言った。「それなら、みんなで最後の一個を探しましょう。一人で見つけるのではなく、みんなで一つの幸せを見つけるんです」


◆ みんなで探す、たった一つの幸せ


再び四つ葉探しが始まったが、今度はバラバラではなく、みんなで一か所を探す。


「ここはどうだろう?」コウタが指さす場所に、みんなが集まる。


剛志は力任せに草をかき分けるが、今回はリアに注意されると「す、すまねえ」と素直に謝る。澪は細かい部分まで目を光らせ、美鈴は自然の声に耳を傾ける。


そして――


「あっ……」


コウタが声をあげた。彼の目の前に、小さな四つ葉のクローバーが揺れている。しかし、それを見つけたコウタは、手を伸ばすのをためらった。


「どうした、コウタ?」剛志が声をかける。


「この……みんなで見つけたんだ。だから、みんなで一緒に摘みたいんだ」


一瞬、静寂が流れる。


そしてリアが、にっこり笑った。「それ、いいね」


◆ 五つの手が触れる幸せ


コウタ、リア、剛志、澪、美鈴――五人がそれぞれの手を重ねる。剛志の大きな手、澪の細くて整った手、美鈴の優雅な手、リアの小さな手、そしてコウタの少しごつごつした手。


「せーの……」コウタが小声で言う。


五つの手が一緒に、四つ葉のクローバーの茎を優しく摘む。その瞬間、なぜか四つ葉がかすかに光ったような気がした。


「おお!?今の、なんだったんだ?」剛志が目を丸くする。


澪も珍しく驚いた表情を浮かべる。「光学現象……ではない。何か別の力が働いたようだ」


美鈴は何かを悟ったように微笑む。「これは……みんなの心が一つになった証ですね」


◆ 帰り道の温かい会話


街へ帰る道中、みんなの会話は尽きない。


「なあ、この四つ葉、どうするんだ?」剛志が尋ねる。


リアが提案する。「押し花にして、みんなで分けようよ。幸せのおすそ分けだね」


「合理的だ」澪が頷く。「各自が一個ずつ所持すれば、常に幸福効果が期待できる」


美鈴は追加する。「でも、一番大きいのはコウタくんが持つべきじゃない?彼がみんなをまとめてくれたんだから」


コウタは慌てて首を振る。「いや、みんなのおかげだ。それに……」彼は少し照れくさそうに続ける。「俺は、みんなの笑顔を見ているだけで十分幸せだ」


その言葉に、剛志はコウタの背中をどんと叩く。「お前、たまにはいいこと言うじゃねえか」


◆ ギルドに戻って


ギルドに戻り、依頼主の老婦人に四つ葉のクローバーを渡す。


「まあ、なんて素敵なんでしょう!みなさん、とっても仲がいいのね」

老婦人はいたく感動した様子で、報酬の蜂蜜パイを渡してくれた。


そのパイを前に、剛志が提案する。「なあ、みんなで分けて食わねえか?」


「同意する」澪が即答する。「一個あたりのカロリー摂取量を計算すると……」


美鈴が軽く笑う。「今日はカロリーのことは忘れましょうよ」


リアはもう待ちきれない様子。「早く食べようよ、コウタくん!」


◆ 最高の報酬


蜂蜜パイを分け合いながら、コウタは思う。


本当の報酬は、お金でもパイでもない。この温かい時間そのものなんだ――と。


剛志の笑い声、澪の微かな笑み、美鈴の優しいまなざし、リアの幸せそうな表情。これらすべてが、かけがえのない宝物だ。


「また……みんなで来ような」コウタが呟く。


「もちろんよ!」リアが即答する。


剛志も大きく頷く。「ああ、なかなか悪くねぇもんだった」


澪が淡々と付け加える。「次回は、より効率的な探索方法を計画しよう」


美鈴はみんなを見回して、優しく言う。「どんな場所でも、みんなと一緒なら楽しいですよね」


◆ 夕暮れの別れ


夕日が街をオレンジ色に染める頃、みんなはそれぞれの家路についた。


「また明日な、コウタ!」剛志が手を振る。


「ええ、明日もよろしくお願いします」美鈴が優雅にお辞儀をする。


「……また明日」澪が最小限の動きで別れを告げる。


リアだけが、少し名残惜しそうにコウタの袖を引っ張る。「今日は……本当に楽しかったね、コウタくん」


「ああ」コウタはリアの手を握り返す。「またみんなで来よう。必ず」


彼の胸の中には、暖かい日差しのように気持ちが満ちていた。今日という日が、ずっとずっと続けばいいのに――


そう願いながら、コウタは夕焼けの道を歩き出した。


(第52話 終)


 

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