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### 第50話:闇炎の守護者 - 褒めの言葉
#### 迷宮の深淵、ミスリル鋼の輝き
鋼鉄迷宮の最深部は、霧のような魔力のヴェールに覆われていた。壁の鉄脈が青白く脈打ち、足元に散らばる破片が、俺たちの激闘の痕跡を物語る。ゴーレムの残骸が崩れ落ち、静寂が訪れた瞬間、俺は息を荒げて剣を地面に突き立てた。古い刃が、悲鳴のように軋む。
「はあ……はあ……やった、か……」
剛志が壁に寄りかかり、豪快に笑う。「はっはっ! 見たか、あのデカブツの崩れっぷり! お前らの闇炎コンボ、最高だったぜ!」
澪が弓を下ろし、無表情ながら息を整える。「……効率的でした。コアの破壊、完璧」
リアが俺の隣で膝をつき、影を収束させる。彼女の金色の瞳が、疲労と達成感で輝く。「コウタくん……みんな、無事でよかった。私の影、みんなを守れた……」
美鈴が後衛から歩み寄り、炎の残り火を指先で払う。クールな表情に、珍しく柔らかな笑みが浮かぶ。彼女の瞳が、俺とリアを交互に見つめる。
「お二人とも、がんばってらっしゃいますね」
その言葉が、迷宮の静寂に優しく響く。美鈴の声はいつも通り落ち着いているが、どこか温かみが加わった。リアがはっと顔を上げ、頰を赤らめる。
「え……美鈴さん?」
美鈴は軽く頭を下げ、俺たちに視線を注ぐ。「コウタさんの判断力と、リアさんの影制御……本当に、見事でした。あのゴーレムのコアを闇炎で溶かすコンボ、Eランクとは思えません。あなたたちの絆が、みんなを強くしているんですよ。がんばってらっしゃいますね、二人とも」
俺は照れ臭く頭を掻く。「そ、そんな……美鈴さんの炎がなかったら、影だけじゃ溶かせなかったよ。みんなのおかげだ」
リアが美鈴の手をそっと握る。「美鈴さん、ありがとう……。加入断ったのに、こうして一緒にいてくれて……私の影、暴走しそうだったけど、あなたの炎が、熱を吸収してくれて……がんばれたよ」
美鈴の目が優しく細まる。「ふふ、縁ですから。あなたたちの“二人だけのパーティー”が、こんなに輝くなんて……見ていて、羨ましいくらいです。リアさんの闇、ミスリル鋼で強化したら、どんな影になるか……一緒に、確かめてみましょうか」
剛志が割り込んでくる。「おいおい、感動の時間かよ! よし、ミスリル鋼取ったら、みんなで祝杯だぜ!!」
澪が淡々と頷く。「同意。効率的に、報酬を回収しましょう」
視界に、静かな達成表示が浮かぶ。
【クエスト完全達成:鋼鉄の絆】
報酬獲得:
・剛志の完全な信頼
・澪の認証
・リアの誇らしさ
・美鈴の同志認定
・リーダーとしての自覚
【特別報酬:真のチームワークの始まり / 闇炎連携スキル解禁 / 美鈴の褒め言葉ボーナス(絆+20)】
(美鈴の言葉……クエストの報酬より、心に響くぜ)
俺はみんなを見回し、笑う。「よし、ミスリル鋼を取って、帰ろう。みんな、よくがんばったな」
迷宮の深淵で、Eランクたちの絆が、鋼のように輝き始めた。美鈴の褒め言葉が、二人の背中を優しく押す。
#### 帰還の夜、ミスリル鋼の約束
ギルドに戻り、ミスリル鋼を鍛冶師に渡した頃、外は霧の夜だった。報酬の金貨が袋に重く、みんなの笑顔がそれを上回る。リアの影が、街灯に溶け込むように静かだ。
美鈴が俺たちに別れを告げながら、ふと立ち止まる。「コウタさん、リアさん……本当に、がんばってらっしゃいますね。次にポータル事件が起きたら、呼んでください。あなたの絆と、私の炎で……一緒に、守りましょう」
リアが頷き、俺の手を握る。「うん……美鈴さん、ありがとう。みんなで、強くなろうね」
剛志が大声で叫ぶ。「次は酒場でな! 俺のおごりだぜ!」
## まだ僕ら、未成年なんです
ギルドを出た後、剛志が大声で提案した。
「よし、みんなで酒場行くぞ!今日は俺のおごりだ!」
一瞬の沈黠が流れ、澪が淡々と指摘する。
「……剛志さん。私たち、全員未成年です」
「あ……」剛志が呆然とし、頭をかく。「そ、そうだった……じゃあ、どこで打ち上げすりゃいいんだ?」
美鈴が軽く笑う。「ふふ、では……甘味処はいかがでしょう?この街に、美味しい団子屋がありますよ」
リアの目が輝く。「わあ!それいい!コウタくん、行こうよ!」
俺はうなずく。「ああ、みんなで行こう」
団子屋の温かい灯りの中、Eランクハンターたちは今日の戦いを語り合った。苦い抹茶と甘い団子が、戦いの緊張を優しく溶かしていく。
「でもさ」剛志が団子を頬張りながら言う。
「大人になったら、ちゃんと酒場で飲みに行こうぜ!」
澪が微かに眉をひそめる。
「……まずは、Cランク昇格を目指しましょう」
美鈴が茶杯を置き、優しく微笑む。「それまでに、もっとたくさんの成功を祝えるといいですね」
窓の外、夕焼けが街を染める。未完成で、未成年で、まだまだ未熟な僕たちだけど──この瞬間は、誰にも邪魔されない完璧な幸福だった。
だって──
**まだ僕ら、未成年なんです。**
## 家路でのほのぼの
甘味処を出ると、街には夕闇が降りていた。剛志と澪、美鈴に別れを告げ、俺とリアはアパートへと向かう。
「今日は本当に楽しかったね」リアが嬉しそうに俺の袖を揺らす。「みんなで団子食べながら、あんなに笑い合えるなんて」
「ああ」俺も自然と笑みが零れる。「剛志の食べっぷり、すごかったな」
「澪さんがこっそり剛志さんに団子を分けてあげてたの、見た?」
「お前も見てたのか。あれ、意外だったな」
信号待ちで立ち止まると、リアがそっと俺の腕に寄りかかる。
「ふう……少し疲れた。でも、いい疲れだよ」
「お前、今日はよく頑張ったからな」
俺は彼女の頭をそっと撫でる。リアが気持ち良さそうに目を細める。
## アパートでのくつろぎ
アパートに着くと、ミミゾウが入口で待ち構えていた。
「ぷぅー!」(おかえり!)
「ただいま、ミミゾウ」
リアがぬいぐるみを抱きしめる。
部屋の中は、夕食の準備もしてないけど、何だかほっこりした空気に包まれている。
「そうだ」リアがふと思い出したように言う。「ミミさんから貰ったお茶、あるよね? それ淹れようか」
「いいな。俺はお風呂沸かすから」
別々の動きなのに、自然と役割分担ができている。数ヶ月前までは考えられなかったことだ。
## お茶と会話
湯呑みを持ってソファに座ると、リアが感慨深そうに呟く。
「コウタくん……私たち、確かに前に進んでるよね」
「どうした、急に」
「だって」リアが湯呑みを揺らしながら、「前に比べて、みんなと笑い合えるようになったし、コウタくんもリーダーって呼ばれるようになったし」
俺はお茶の湯気を見つめながら考える。確かに、少しずつだけど変わってる。
「お前もだ」俺は言う。「影の制御、ずっと上手くなっただろ」
「えへへ……それはミミさんのおかげだよ」
リアの頬がほんのり赤くなる。
ミミゾウが「ぷぅー」と満足そうな声をあげ、二人の間に座り込む。
「今日のみんな……」リアが遠い目をする。「また一緒に冒険したいね」
「ああ。次はもっとうまくやれるさ」
窓の外では月が輝き、部屋の中は温かいお茶と会話に満ちている。大きな冒険の後だからこそ、この小さな幸せが特別に感じられる。
## 嫉妬デレデレの向こう側
湯呑みを置き、リアがふと真剣な表情で俺を見つめる。
「ねえ、コウタくん……美鈴さん、すごくきれいだったね。あの炎の魔法も華やかだし」
「ああ、強いし的確だったな」
「それに澪さんも……かっこよかった。冷静で、あんなに正確に弓を扱えて」
リアの指が湯呑いの縁をなぞる。
「おい、どうした?」
「だって……」リアが俯き、声をひそめる。「コウタくんが、あんなにすごい女の子たちと自然に話してて……私、ちょっと……取り残されちゃうかもって」
「バカなこと言うな」俺は思わず笑う。「お前はお前だ」
「でも!美鈴さんがコウタくんを褒めてたとき、すごく嬉しそうだったじゃん」
「それは……お前の影のサポートがあったからだろ」
リアが突然立ち上がり、俺の前にしゃがみ込む。
「私だって!コウタくんに、もっとすごいところを見せたいんだよ!」
その目には、涙と決意が光っている。
「お前は……」俺は彼女の手を握る。「もう十分すごいぞ。今日だって、お前の影がみんなを守った」
「それじゃ足りないの!だって……」リアの声が震える。「コウタくんがどんどん輝いてくから……私も、もっと輝かなきゃ」
「おいおい」俺は彼女の頬に手を当てる。「お前がいるから、俺は頑張れるんだ。それで十分だ」
「違うよ!」リアが首を振る。「私、コウタくんの“相棒”でいたいから……対等でありたいから、もっと強くなるの!」
その瞬間、彼女の影がほのかに輝く。ミミの教えが、彼女の中で花開こうとしているのか。
「わかった」俺は微笑む。「じゃあ、一緒に強くなろう。お前のペースで、無理せずに」
「約束?」
「約束だ」
リアが突然、顔を上げて笑った。
「よし!それじゃあ……明日から特訓だ!ミミさんにもっと裁縫を教わって、影もっと精密に動かせるようにする!」
「お前、やる気満々だな」
「だって……」リアが少し照れくさそうに。「コウタくんが、私の成長を一番近くで見てくれるから」
ミミゾウが「ぷぅー!」と応援するように跳ねる。
嫉妬も、不安も、全部成長へのエネルギーに変えて──
**これが、私たちの、対等な恋の形です。**
明日も、きっと愛しい日になりますように
明日も、きっと良い日になりますように




