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### 第49話:集え、鋼の戦士たち -Eランクの結束- (書き直し版)
#### ギルドの朝、霧に包まれた呼び声
ギルドの朝は、いつもの喧騒と熱気に満ちていた。炉の火が揺れ、鉄が焼ける匂いが鼻をつく。その音と匂いのなか、俺――コウタは受付カウンターに依頼書を差し出しながら、深く息を吐いた。霧のような朝靄が窓から差し込み、依頼書の文字をぼやけさせる。
「これ、本当に俺たちEランクで行く依頼なのか……?」
隣でリアがこくりと頷く。金色の瞳を不安げに揺らしながら、依頼内容を見つめる。彼女の指先から、かすかな影が霧のように揺らめく──闇属性の気配だ。最近、ミミの裁縫指導で制御が安定し始めたが、まだ不安定な影が、朝の光に溶け込むように。
> 【依頼:鋼鉄迷宮の最深部より“ミスリル鋼”を回収せよ】
> 推奨ランク:E
> 危険度:D
> 参加人数:3〜6名
「……どう考えても場違いだよね、これ。リアの影が暴走したら……」
「うん。でも鍛冶師ギルドが“Eランク限定枠”を出したんだ。きっと何か理由があるよ。私の闇、ミスリル鋼で強化できるかも……」
視界がかすかに青く光った。はっと目を細める。
(……ちっ、またか)
金色の文字が浮かび上がる。
【新規クエスト:鋼鉄の絆】
内容:鋼鉄迷宮で出会った仲間たちと信頼関係を築け
目標:チーム全員の生存を守り、共にミスリル鋼を回収せよ
報酬:チームメイトの信頼 / リーダーシップの芽生え / リアの闇制御強化
※このクエストは失敗できません
(でも、今回はちょっと嬉しいかも。リアの影を、みんなで守れる)
俺が言い終わるより早く、背後から響きわたるような声が降ってきた。
「よォッ! あんたらもこの依頼、受けにきた口か?」
どすん、と床を踏み鳴らして現れたのは、巨大な大剣を背負った男だった。日本人特有の黒髪、だが体格は完全に熊。肩幅がドアより広い。
「黒川剛志! 大剣使いだ! 俺もEランクだが、腕っぷしならDにも負けねぇ!」
……なんか“力こそ正義”って生き方をしてそうな人だ。
リアが俺の袖を引っ張る。
「コウタ……この人、絶対突っ込むタイプだよ。私の影が絡まったら、困る……」
「わかる。見ればわかる。でも、リアの闇で援護できるかもな」
そこへ、今度は柔らかな足音が近づく。黒髪をサイドで束ねた和風美人――だが背中には長弓。無駄な動きが一切ない、鍛えられた狩人の歩み。
「如月澪です。あなたたちと組みます。Eランク限定枠……参加人数不足。効率を優先しましょう」
淡々とした声。感情が薄い。だがその黒い瞳の奥は鋭く、迷宮の闇すら射抜きそうだった。
「よし! これで四人揃ったな!」剛志が豪快に笑う。
……待て、四人? 俺とリアの二人に、剛志と澪で四人。誰だよ、もう一人?
その疑問を吹き飛ばすように、受付の女性が微笑む。「美鈴さんも、ちょうど到着しましたよ。Eランク限定枠の追加申請、承認済みです」
視界の端に、黒髪を爽やかに束ねたクールな少女が現れる。瀬戸美鈴──あの時、加入を断ったはずの彼女だ。Dランクの攻撃魔法使いとして、ギルドの喧騒を切り裂くように歩いてくる。霧の朝に、彼女の炎のような瞳が輝く。
「初めまして……じゃなくて、再会ですね、コウタさん、リアさん。如月澪、黒川剛志――よろしく」
美鈴の声は落ち着いていて、しかしどこか楽しげ。俺は思わず言葉を失う。
「美鈴さん……? なんでここに?」
彼女は軽く肩をすくめ、依頼書を指差す。「ギルドの限定枠に興味があって。あなたたちの“二人だけのパーティー”が、どう成長したか……見てみたくなったんです。リアさんの闇属性、ミスリル鋼で強化したら、面白いかもね。縁があれば、協力しましょう?」
リアが少し身を縮め、俺の袖を握る。美鈴の視線に、微かな嫉妬の影が差すのを、俺は見逃さなかった。あの時の断りが、彼女の心に残っている。だが、リアの影が美鈴の炎に反応するように、かすかに揺らめく──相性の良さを感じる。
剛志が豪快に笑い、美鈴の肩を叩く。「おお、いいね! 魔法使いか? 攻撃特化なら、俺の盾で守ってやるよ! リアの影も、俺が受け止めるぜ!」
澪は無表情で頷く。「戦力バランスが取れた。効率的。闇と炎の連携、興味深い」
こうして、奇妙な日本人中心の5人パーティが誕生した。美鈴の再登場が、クエストの「仲間たち」を超えた予感を俺に与え、リアの闇をチームの影として輝かせる。
#### ◆ 鋼鉄迷宮 入口 ― Eランクたちの試練
迷宮の入口は、黒鉄でできた巨大なアーチ。古代技術で造られた“ポータル”で、魔力によって内部の空間が安定している。霧の朝靄がアーチに絡みつき、リアの影が自然に溶け込む。
リアが小さな声で呟く。
「ここ……C級の魔物も出るって噂だよ……? 美鈴さんもいるけど、大丈夫かな……私の影、暴走しないかな」
美鈴が穏やかに微笑む。「心配いりません。私が後衛から炎で援護します。あなたたちの絆が、前衛を支えるんですから。リアさんの闇、ミスリル鋼で強化したら、どんな影になるか……楽しみです」
「心配すんなって!」剛志が胸を叩く。金属音が鳴った。心臓じゃなくて鎧の音だ。
そして彼は、何の躊躇もなく鉄扉へ歩き――。
「男は細かいこと気にしねぇんだよッ!!」
「やめ――!」
ガンッ!!
拳で扉を殴った瞬間、天井の魔法陣が真紅に輝いた。
澪が無表情のまま呟く。
「……罠が起動しました。予想通り」
「予想してたなら言ってよ!?」俺が叫ぶより早く、壁の隙間から――矢の嵐。
「コウタ!」リアが飛び込み、俺を押し倒す。彼女の影が瞬時に広がり、矢を飲み込むように吸収する。
矢の風切り音が頭上をかすめ、壁に突き刺さる──が、リアの影が一部を浄化し、無力化。
「た、助かった……リアの影、すごい!」
「こんなの剛志さんのせいだよ!!」リアが悲鳴を上げるが、頰に満足げな笑みが浮かぶ。
美鈴が冷静に手を差し伸べ、炎のバリアを展開。「みんな、下がって! リアさんの影と私の炎で、残りを焼き払います」
炎と影が絡み合い、矢の嵐を溶かすように無効化。霧の朝靄が、戦いの余熱で蒸発する。
剛志は立ち上がり、頭を掻く。「悪ぃ悪ぃ! 罠なんてぶっ壊せばいいんだよ! でも、リアの影と美鈴の炎、いいコンビだな!」
「……黙れ」澪の一言は氷のように冷たかったが、口元に微かな笑みが。
剛志は肩をすくめたが、懲りた気配はない。この人、絶対にまたやらかす──だが、リアの影が彼の突撃を影で受け止める姿を見て、チームのバランスを感じる。
#### ◆ 最初の戦闘:鉄衣狼
矢の罠を抜けた先、ガチャガチャと鉄の脚音が響いた。
ガルルル……
金属の外骨格をまとった狼――アーマーウルフが三体。霧の残り香が、狼の装甲に絡みつく。
「くるぞ!」俺が剣を構えた瞬間、
「任せろォォ!!」
剛志がまた突撃。なんでだよ。
「突っ込むなって言ったばかりでしょ!!」リアが悲鳴を上げるが、影を広げて援護態勢に。
案の定、アーマーウルフのタックルをモロに食らい、剛志は横転。
「ぐぬぬっ……てめぇら、よくも!」
澪はすでに矢をつがえていた。その動きは無駄がなく、息すら乱れない。
「足関節、破壊します」
シュッ――鋼の隙間を、一本の矢が正確に射抜く。
痺れたように狼が崩れ落ちる。
「リア、補助頼む!」
「うん!」リアが光の魔力を俺の剣に注ぐが、影の闇が剣を包み、青黒い輝きに変える。
美鈴が後衛から炎の矢を放つ。「隙を作ります! リアさんの影と合わせて、装甲を溶かしましょう」
炎が狼の装甲を炙り、リアの影が溶けた隙間を吸収。闇と炎の連携が、狼の動きを止める。
「はぁぁっ!」俺の剣が強化され、連撃で二体目を仕留める。
残った一体も剛志が大剣で真っ二つにした。
戦いが終わると、剛志が大の字で倒れ込みながら叫んだ。
「なんで俺だけこんなにダメージ受けてんだよ!!」
澪が無表情のまま言う。「無策で突っ込むからです。理解力に乏しいのですか?」
美鈴がくすっと笑う。「剛志さん、熱いのはいいけど、少し計画的にね。あなたの実力、みんな認めてるんですから。リアさんの影が、あなたの突撃を支えてくれてるんですよ」
リアが頰を赤らめ、微笑む。「美鈴さんも……一緒にいてくれて、嬉しいよ。影が、みんなの熱を吸収して、強くなれた気がする」
#### ◆ 鋼鉄の巨人との遭遇
暗い迷宮の風が、まるで警告するように吹き抜けた。その時、深部から重い金属音が響く。
**ゴゴゴ……**
「!? またか!?」剛志が飛び起きる。
現れたのはスチールゴーレム。剛志ですらその大きさに目を見開いた。霧の残滓がゴーレムの装甲に絡み、リアの影が反応する。
「で、でけえ……逃げる?」澪が淡々と提案。
「いや、待て」俺が言う。「弱点があるはずだ」
リアが目を細める。「あの胸の部分……光ってる。コアかも。私の影で、探ってみる」
美鈴が頷く。「コアを狙いましょう。私の炎で装甲を溶かします。リアさんの影と合わせて、闇炎の浄化を」
剛志が大剣を振りかざす。「よし、ぶっ壊すか!」
「待って!」俺が叫ぶ。「正面からは無理だ。別の方法を……」
だが剛志はもう突撃している。「男に逃げ道はねぇ!」
**ドカーン!**
大剣がゴーレムの脚に命中するも、ビクともしない。逆に振り払われ、剛志は壁に激突。
「ぐはっ!」
視界が赤く点滅する。
【クエスト更新:緊急!】
警告:パーティメンバー「剛志」が危機!
指示:仲間を救え!チームワークで突破口を開け!
「剛志さん!」リアが悲鳴。影を広げ、ゴーレムの注意を逸らす。
ゴーレムが剛志めがけて踏み潰そうとする。
「リア、囮を頼む!」
「うん!」リアが光の粒子を撒き散らし、影を絡めてゴーレムの脚を遅らせる。「こっちよ、でっかいさん!」
美鈴が炎の矢を連射。「装甲を弱体化! リアさんの影、完璧です!」
ゴーレムの注意が逸れたすきに、俺は剛志の下へ滑り込む。
「重いな……っ!」
「コ、コウタ……?」
「後で謝れよ。今は動くぞ!」
俺たちを避難させると、澪が動いた。
「15秒だけ動きを止めます」
矢を放つ――ゴーレムの関節部を正確に射抜く。
「今だ、コウタ!」
俺は剣を構える。でもどう攻めれば……?
「コウタくん!」リアの声が響く。「あの光る部分、魔力で弱らせられるかも! 私の影で、闇を注いで!」
美鈴が援護。「私の炎で道を開きます! 闇炎のコンボ、試しましょう」
炎がコアを炙り、リアの影が溶けた隙間を吸収。闇と炎が融合し、青黒い渦を形成。
「わかった!」
俺は剣に魔力を込める。リアの影と美鈴の炎が剣を包み、青黒く輝く。
「光よ……闇よ……力を貸せ!」
剣が青黒く輝く。ゴーレムの動きが戻る――もうすぐだ。
「コウタ!」剛志が起き上がる。「俺が盾になる! お前は攻撃に集中しろ!」
「でもお前の体が……」
「気にするな! これで借りは返す!」
剛志が大剣でゴーレムの注意を引き、澪が矢で援護。リアが魔力のサポート、美鈴が炎で弱体化。
そして俺は――走り出す。
「はあああっ!」
一跳び。剣をコアめがけて突き刺す。闇炎の渦がコアを飲み込み、爆発。
**ガガガ……キーン!**
ゴーレムが停止し、崩れ落ちる。
視界に静かな表示が浮かぶ。
【クエスト進行:信頼構築中】
進捗:剛志の信頼+50% / 澪の認証+30% / 美鈴の協力+40% / リアの影連携+50%
報酬:一時的なリーダー地位を獲得
「や、やった……?」
剛志がどや顔で近づく。「見たか、俺たちの連携! リアの影と美鈴の炎、最高だぜ!」
澪が微かに笑う。「……まあまあ、でした。闇炎のコンボ、効率的」
美鈴がリアに手を差し伸べる。「あなたたちの絆が、私の魔法を強くするんですよ。リアさんの影、完璧でした」
リアが頰を赤らめ、握り返す。「美鈴さんも……一緒にいてくれて、嬉しいよ。影が、みんなの熱を吸収して、強くなれた気がする」
#### ◆ 武器の限界と新たな脅威
剛志が俺の肩を叩く。「おい、ミスリル鋼が手に入ったら、新しい武器を作ろうぜ。リアの影強化剣とか、美鈴の炎弓とか!」
澪がうなずく。「同意です。あなたの実力なら、もっと良い武器がふさわしい」
リアが嬉しそうに微笑む。「コウタくん、みんな信頼してるよ。私の影も、みんなのおかげで……」
美鈴がクールに付け加える。「このチームなら、Cランクも夢じゃない。……縁があれば、ね。リアさんの闇、ミスリルでどう輝くか、楽しみです」
剛志がにやりと笑った。「で? リーダー、次はどうする?」
「え? リーダー?」
「ああ、お前の判断が的確だったからな。闇と炎のコンボ、俺の盾で守り抜くぜ!」
視界に最終的な達成表示が浮かぶ。
【クエスト達成:鋼鉄の絆】
報酬獲得:
・剛志の完全な信頼
・澪の認証
・リアの誇らしさ
・美鈴の同志認定
・リーダーとしての自覚
【特別報酬:真のチームワークの始まり / 闇炎連携スキル解禁】
俺は古びた短剣を見つめながら、静かに笑った。
「……よし、じゃあまずは休憩だ。みんな、傷の手当てをしよう。リアの影で、みんなの疲れを浄化しようぜ」
クエストの報酬なんかより、この瞬間の方がずっと価値があった。




