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第五話:嘲笑と現実 ―Fランクパーティーの門出―
ハンターギルドの事務室。新規登録の窓口には、数組の新人ハンターたちが列をなしていた。
「次、どうぞ」
コウタとリアは緊張しながら窓口へと進み出た。
「新規登録をお願いします!パーティー名は…『リアルガーディアン』で!」
コウタは胸を張って宣言した。彼の目には、クエスト視認によって示された【ハンターへの第一歩】を達成するという意気込みが輝いていた。
「了解しました。では、簡単な適性検査を行います」
受付の女性が淡々と手続きを進める。コウタとリアは順番に、魔力感知の水晶に手をかざした。
水晶は微かに光ったが、それはごく弱い、ありふれた光だった。
「判定:Fランク。以上で登録は完了です」
女性の声には何の感情も込められていなかった。
「ふん、またFランクか」
「見た目通りの結果だな」
周囲から冷ややかな声が聞こえてくる。コウタは拳を握りしめたが、リアの手を握りながら平静を保った。
「次は任務受付です。Fランクに割り当てられる任務は掲示板の一番端にあります」
二人が指示された掲示板の隅を見ると、そこには他のランクの華やかな任務とは対照的に、地味で汚れた紙が数枚貼られていた。
「街路樹の剪定」「下水道の掃除」「迷子の子猫探し」
「な、なんですかこれ…」
コウタは思わず声をもらした。
「Fランクにできるのはこの程度です」
事務員はそっけない口調で答える。
「それとも、上のランクの任務に挑みますか?自己責任で」
「ちっ…」
コウタは唇を噛んだ。
「コウタくん」
リアがそっと彼の袖を引いた。
「私たち、まだ始めたばかりだよ。できることからコツコツやろう?」
彼女の優しい言葉に、コウタははっとした。彼女を守るために強くなりたい――その思いが空回りしていた。
「…そうだな。すまない、リア」
内心:(焦っちゃいけない。リアを危険にさらすわけにはいかない…)
彼は一番上の「街路樹の剪定」の伝票を掲示板からはがした。
その瞬間、視界に文字が浮かんだ。
【クエスト受諾】
『街の美化活動』
達成条件:指定区域の街路樹を剪定する
報酬:500G / 経験値+10
「よし…これが俺たちの第一歩だ」
しかし、その直後──
「おいおい、まさか『街路樹の剪定』かよ?」
「Fランクってやっぱり雑用専門だな」
「可愛い娘さん、可哀想にね」
近くにいたCランクくらいのハンターたちが嘲笑を浴びせた。
「てめえら…!」
コウタが怒りで前に出ようとしたその時、リアが彼の腕をしっかりと掴んだ。
「コウタくん、いいの」
彼女はコウタを見つめ、静かに首を振った。
「私たちのことは、私たちが決めるから」
その優しくも強い瞳に、コウタの怒りは少しずつ収まっていった。
「…ああ、そうだな」
二人は嘲笑の声を背に、ギルドを後にする。Fランクの勲章のように、質素な「街路樹の剪定」の伝票を握りしめて。
「ごめんよ、リア。こんなことになって…」
外の光の下で、コウタは俯き加減に呟いた。
「ちっとも!」
リアはコウタの腕にぴったりと寄り添った。
「コウタくんと一緒に、私たちの未来を築いていくんだから。最初は小さな一歩でも、きっと大きな未来に繋がるよ」
内心:(コウタくんがいてくれるから、私は強い。どんなに馬鹿にされても、この温もりがあれば大丈夫)
「リア…」
コウタは彼女の笑顔に、どれだけ救われているかを痛感した。
【新クエスト】
『たとえFランクでも』
内容:パーティー『リアルガーディアン』としての信頼を築く
報酬:絆ポイント大幅上昇 / 新スキル解放
このクエストは、誰にも見えない。コウタだけが知る、彼らだけの戦いの始まりだった。
「よし、やろうぜ!世界一幸せなFランクパーティーになってやる!」
「うん!」
二人の小さな決意は、壮大な嘲笑の街の中で、確かに灯り始めた。
(第五話 了)




