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第46話:孤高の剣と知識の糸 ~限界の朝から、誇りの一歩へ~


#### 朝もやの訓練場:

オルセンの孤高


朝もやが立ち込める訓練場。

オルセン爺さんは一人、

不格好ながらも力強い剣戟の音を響かせていた。


コウタが近づくと、

爺さんは一瞥して言った。

「今日は相手をする暇はねえ。ポータルに行く」


「でも、まだ教えてほしいことが…」

コウタの声に、わずかな焦りが混じる。


「自分で考えろ。

俺は誰の師匠でもねえ」

オルセンは錆びた剣を背負い、

孤独な足取りで訓練場を去っていった。


彼の目には、

深い闘志が燃えていた――

誰にも邪魔されず、

世界とだけ向き合うための。


コウタはその背中を見送り、

拳を握りしめた。

オルセンの不格好ながらも確かな剣捌き。

自分もあんな風に戦いたい。


(孤高の剣…いつか、俺も)


#### 武器屋の前:

憧れの限界


武器屋の前で、

コウタは足を止めた。

ショーウィンドウには様々な剣が並んでいる。


どれもが高価で、

Eランクの報酬ではとても手が届かない。


店主に相談すると、

「安いのでもいい、剣が欲しいんだ」とコウタが言う。

店主は苦笑いした。

「剣は高いよ、小僧。盾と短剣で我慢しとけ」


アパートに戻り、

コウタはため息をついた。

リアが心配そうに尋ねる。

「どうしたの、コウタくん?」


「いや…なんでもない」

彼は窓の外を見つめ、

オルセンの孤独な戦いを思い浮かべた。


あの爺さんは、

誰の助けも借りず、

己の剣だけを信じて戦い続けている。


(いつか、俺も…

お金がなくても、立派な剣がなくても、

信念だけを武器に)


その夜、

コウタはある決意を胸に眠りについた。

オルセンのように、

己の道を信じて進むことを。


【新たな目標】

己の道を見つけよ - 装備がなくとも、戦士たれ


#### 雑用の限界:

街路樹と迷子猫の朝


数週間後、

コウタは気づき始めていた。


(そういえば…街路樹の剪定依頼、最近見かけないな)


ギルドの掲示板には、

いつもの雑用クエストが張り出されていない。

街路樹の剪定はすでに市内全域が完了し、

新規依頼は来ていない。


下水道掃除に至っては、

コウタとリアがここ数週間で全ての区画をきれいにしてしまった。


「ねえ、コウタくん…」

リアが不安そうに言う。

「最近、迷子の子猫の依頼も減ってるよね。

私たち、探すのが上手くなりすぎたのかな?」


実際、街中の子猫はほぼ全て保護され、

飼い主が見つかった。

市民の間では「あのFランクのコンビがなんでもやってくれる」と噂が広まり、

逆に依頼が減っていたのだ。


ギルドの受付で聞いてみると、

「そうですね…街の雑用は一時的に需要が飽和状態です。

次の剪定シーズンまで、しばらく新しい依頼はないでしょう」


コウタはため息をついた。

剣を買うための資金稼ぎが、

思ったより早く行き詰まってしまった。


「どうしよう、コウタくん?

他の方法を考えないと」

「ああ…でも、俺たちにできるのは雑用だけだ」


その時、

掲示板の隅に目新しい張り紙を見つけた。


《臨時依頼》

魔力図書室整理

報酬:800G

条件:本の分類知識がある方


リアの目が輝いた。

「コウタくん、これならできるかも!

あなた最近ずっと本を読んでるし」


コウタはうなずいた。

オルセンから学んだ「知識の重要性」が、

意外な形で役に立つ時が来たようだ。


【新たな気づき】

雑用の限界を認識

次の一手:知識を活かした任務へ


#### 魔力図書室の整理:

知識の糸とコンプレックスの影


コウタとリアがやってきたのは、

街の外れにある古びた石造りの建物。

看板には《魔力記録庫》と書かれている。


中に入ると、

空中に無数の光る書物が浮かんでいた。

魔法で保存された記録や、

古代魔法書の写しなどが、ゆらゆらと漂っている。


「わあ…すごい」

リアが感嘆の声をあげる。


司書を名乗る老魔術師が説明する。

「最近、制御魔法が不安定で、

本たちが暴走し始めてしまってね。

同じ系統の魔法書を分類し、

安定した場所に収めてほしい」


コウタは最近学んだ知識が役に立った。

「火属性の魔法書は水属性の隣に置くのは危険ですよね。

魔力干渉を起こします」


「おや、よく知っているね」

「はい、少し勉強していまして…」


作業を始めると、

コウタの知識が存分に活かされた。


· 闇属性の書物は光属性から遠ざける

· 古代語で書かれた書物は特別な保護魔法が必要

· 騒ぎやすい予言書は静穏魔法で包む


リアも得意の細かい手先を活かして、

繊細な魔法書を丁寧に扱う。


「コウタくん、すごい…

こんなに知識が身についてたんだね」

「オルセン爺さんに会ってから、

勉強の大切さに気づいたんだ」


一日の作業を終え、

報酬の800Gを受け取る。


「また手伝ってほしいことがあれば、

君たちを呼ぶよ。

学校に行っていようが行っていまいが、

実力は本物だ」と司書は言った。


#### 別れ際の問い:

コンプレックスの影と温もりの光


老魔術師はコウタの的確な分類作業に感心し、

気さくに声をかけた。


「最近の学生さんはすごく優秀だね。

どこの高校だい?

魔法高校の生徒か何かかね?」


その言葉に、

コウタとリアは一瞬で表情を曇らせた。


「…高校は行ってません」とコウタが俯きながら答える。

「私たち、ハンターになるために…

中学卒業すぐにギルドに登録したんです」とリアが付け加える。


その声には、

わずかな悔しさがにじんでいた。


老魔術師はすぐに自分の不用意な質問に気づき、

慌てて謝る。

「お、おっと…すまない。

余計なことを聞いてしまったな」


一瞬、

気まずい沈黙が流れる。


「でも…」と老魔術師が再び口を開く。

「君たちの知識は本物だ。

学校に行かなくても、ここまで勉強するのは立派だよ」


その言葉に、

コウタは顔を上げる。

「オルセンさんという人に会って…

知識の大切さに気づいたんです」


「ふむ…オルセンというか。

あの頑固爺か」

老魔術師は懐かしそうに笑う。

「彼に認められるとは、君たちもただ者じゃないな」


夕日の中を歩きながら、

コウタが呟く。

「学校に行ってないって、やっぱり少し…悔しいな」


「うん…でも」とリアがコウタの手を握る。

「今の私たちの道も、悪くないよね?」


アパートに戻り、

リアはコウタの胸に顔を埋めたまま、

声を震わせて囁く。


「お願い…ちょっとだけ、このままにさせて…」


その言葉に、

コウタは優しくうなずき、

彼女をより強く抱きしめた。


彼の腕の中で、

リアの肩がわずかに震えている。


「いいよ…ずっとこのままでいい」


窓の外では夕日が沈み、

部屋の中は静かな闇に包まれていった。


二人は言葉を交わすこともなく、

ただ寄り添い続ける。


しばらくして、

リアがかすかな声で言う。

「コウタくんの温もりを感じてると…

どんなに怖いことがあっても、大丈夫な気がするの」


「バカな…俺なんかでいいなら、

いつだって抱きしめてやるよ」


コウタはそっとリアの髪を撫でながら、

心の中で誓った。

(たとえ世界が何と言おうと、お前を守り続ける)


月明かりが部屋の中に差し込み、

抱き合う二人の影を優しく照らし出す。


今日感じた後悔や不安は、

この温もりの中で少しずつ癒されていった。


【絆の深化】

無言の理解と安心感

お互いを受け入れる心の拠り所


【新たな気づき】

正規の教育を受けていないというコンプレックス

それでも前を向く二人の強さ


ソファの隅で、

ミミゾウが静かに「ぷぅー」と鳴く。

まるで、二人の絆を優しく見守るように。


(第46話 完)



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