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【銀閃の美鈴】


ギルド最深部、総帥執務室。一人の女性が窓辺に立ち、夕焼けを見つめていた。


「……つまり、彼らは断ったと?」

「はい、美鈴様。コウタ氏は『二人だけのパーティー』を貫くと」

「ふむ……」


瀬戸美鈴――表向きはDランクの新人ハンター。その正体は、数少ないSランクハンター『銀閃』であった。


ギルド総帥が厳しい表情で問いかける。

「美鈴、君はあの二人を囮にしようとしたのか?先日起きたあの特異なポータル事件の調査のために」


美鈴は軽く笑った。

「囮?違いますよ。本当の目的は……彼らが“あのポータル”を突破できる唯一の存在かもしれないからです」


机の上には、コウタとリアが体験した「感情をえぐるポータル」の調査報告書が広げられていた。


「総帥、ご存知でしょう。先日のポータルは通常の魔獣とは全く異なる。人間の深層心理を映し出し、精神を破壊する。これまでに挑んだ上位ランクのハンターたちが、ことごとく精神崩壊しています」


「しかし……彼らは生きて帰還した。しかも、より強い絆で結ばれて」

「彼らのあの尋常ならざる絆が、ポータルのメカニズムを無効化した可能性があります」


総帥は深く息をついた。

「つまり、君は……」


「ええ。私は彼らを守りながら、背後から真実を解明するつもりでした。でも……」

美鈴は窓の外を見つめ、柔和な表情を浮かべた。

「あの熱い断り方を見て、考えが変わりました。彼らは守られるべき存在ではなく、共に戦う『同志』かもしれません」


総帥は机の上の別の書類に目をやった。

「そういえば、あのポータルから回収した報酬らしきものの解析結果が出たが……全く役に立たなそうだったらしいな。ただのぬいぐるみだと」


美鈴は軽く笑った。

「ええ、聞いています。解析班も“戦闘や探知には一切使えない、ただの玩具”と評価したとか」

「しかしSランクが動けば、敵も警戒する」

「だからこそ、Dランクの美鈴として近づいた。しかし……」

ここで美鈴は少し自嘲気味に笑いながら付け加えた。

「……見事にふられちゃいましたけどね」


総帥は苦笑いした。

「では、今後は?」


「公認のまま、見守ります。ただし……」

美鈴の目に強い意志が光った。

「次に同種のポータル現象が起きた時は、たとえ正体を現しても彼らを守ります。あの二人は……この世界の希望ですから」


そう言い残すと、美鈴はSランクの証である銀の紋章をしまい、再びDランクハンターとしての姿で執務室を後にした。


街へ降り立つ彼女の背中に、夕日が長い影を落としていた。


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