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【34話:二人だけの絆と、もうひとりの選択 -】


ギルドのカウンターで、受付の女性が書類を見ながら、少し嬉しそうな顔をした。


「コウタさん、リアさん。あなたたちのパーティー『リアルガーディアン』について、良いお知らせがあります。ギルド内部での将来性評価が非常に高く、もし攻撃を得意とするメンバーが一人加われば、将来の推定ランクはCランクまで上がると予想されているんですよ」


コウタとリアは思わず見合わせる。Cランク――それは今の雑用中心の生活から、一気に実戦任務の世界に足を踏み入れることを意味した。


「二人だけでも十分に絆は強いのですが、戦力的な課題はありますよね。そこで…ちょうど良い人材がいるんです」


受付の女性が手にした書類には、『瀬戸美鈴』という名前と、Dランクながらも攻撃魔法における高い潜在能力を示す数値が並んでいた。


「彼女はDランクですが、潜在的な伸び率はかなり高いと評価されています。年もお二人と近いですし、パーティーにもなじみやすいと思います。実は彼女の方から、あなたたちのパーティーへの加入を希望する申請が来ているんです」


内心コウタ

(Cランク……!?俺たちが……? それに、加入申請まで来てるだと……?)

内心リア

(Cランクになれば、もっと役に立てるのに……。でも、知らない人が入ってくるの……?)


「ああ、ちょうどいいところに。彼女が来ていますよ」

受付の女性が手を振ると、黒髪を爽やかに束ね、瞳に強い意志を宿した少女が近づいてきた。その佇まいは、どこかクールで、しかし礼儀正しかった。


「初めまして、瀬戸美鈴せと みすずと申します」

彼女はいたって真剣な表情で、コウタとリアを見つめる。


「あなたたちの連携と、Fランクからここまで這い上がってきた実績に興味を持ちました。私が加われば、パーティーの攻撃力の問題は解決します。ギルドの予想通り、Cランクも夢ではないはずです」


その時、コウタの視界に、いつもとは違う《クエスト》が表示される。


【特別クエスト】

『二人だけのパーティーを守れ』

内容:美鈴の加入を断り、リアとの絆を証明せよ。

失敗条件:美鈴をパーティーに迎え入れる。または、リアを深く傷つける。

報酬:リアの信頼


クエストを見て、コウタははっとする。Cランクへの誘惑と、リアとの約定が胸の中で激しく揺れた。しかし、彼は深く息を吸い、美鈴に向き直った。


「瀬戸さん、はっきり言おう。このパーティーは、俺とリアだけのものだ」


美鈴は少し驚いたように眉を上げる。

「ですが、Cランクへの道も――」

「わかってる!」コウタは言い切る。「でもな、俺たちは二人でここまで来た。これからも、二人で強くなっていく。瀬戸さんみたいな実力者が加われば、確かにCランクにだって行けるだろう。でも、それじゃ……俺とリアが二人で積み上げてきたものの意味がなくなってしまう」


コウタは横にいるリアの手を握り、しっかりと彼女を見つめてから、再び美鈴に向き直る。

「だから、加入は断る。申し訳ありませんでしたぁ!。」


美鈴は一瞬、ぽかんとした表情を見せたが、やがてクスリと笑い声を漏らした。

「……ふふっ。まあ、ある程度は予想していましたけど……ここまではっきり、しかもこんなに熱く言われるとは思いませんでした」


彼女は笑みを浮かべたまま、二人を見つめ直す。

「これでますます確信しました。あなたたちは、まさに私が探していた『こちらの予想通りのパーティー』です。まぁある意味納得のいく結果です。」


「了解しました。正式なメンバーにはなりませんが、縁があれば協力しましょう。あなたたちの『二人だけのパーティー』が、どこまで強く成長するのか……楽しみにしています」


美鈴は一歩去り際に、もう一度振り返り、優しくも確かな眼差しを向けた。

「もしつまづいたり、立ち止まることがあれば……遠慮なく声をかけてください。いっしょに、次のポータルに挑みましょう」


そう言い残し、美鈴は軽く会釈すると、ギルドの喧騒の中へ消えていった。


【クエスト成功】

『二人だけのパーティーを守れ』を達成!

報酬:リアの信頼



その夜、アパートで。


二人で夕食を済ませ、ほっと一息ついた頃、リアがコウタの隣にぴったりと寄り添い、俯き加減で静かに口を開いた。


「……コウタくん。あの時、ギルドの人の言ってることは……私、ホントはわかってたんだよ」

「……え?」

「攻撃力が足りないこと。美鈴さんみたいな強い人が入ってくれたら、もっと難しいクエストもできるようになって、お金の面でも、今よりずっと楽になれるってこと……」


リアは自分の指をじっと見つめながら、言葉を紡ぐ。

「美鈴さん……あんなに強くて、かっこよくて、ひとりでなんでもできそうな、自信に満ちた人だよね……私……ちょっと、嫉妬しちゃったかも……」


コウタが慌てて言おうとしたのを、リアはそっと遮った。

「もちろん!コウタくんが私のこと見捨てるとか、別れるなんて思ってないよ!信じてるから! でも……でもね……」

彼女の声は、ますます小さく、かすかに震えた。

「3人パーティーで、毎日いっしょにご飯食べて、いっしょに笑って、いっしょに危険を乗り越えて……ずっといっしょに過ごしてたら……」


リアはようやく顔を上げ、涙で曇った目でコウタを見つめる。

「……未来の事なんて、誰にもわからないでしょ?いつの間にか……私じゃなくて、美鈴さんの方が……コウタくんのとなりにふさわしくなっちゃうかもしれない。そんなの、すごく……怖かったの」


コウタは言葉を失った。リアの口から、これほどまでに不安な本心が聞けるとは思っていなかった。


「バカ……そんなこと、ありえねえよ」


コウタは強くリアを抱きしめた。

「俺が一番守りたいのは、お前のその『ありのまま』だ。強がらなくたっていい、他人と比べなくたっていい。お前はお前で、世界で一番俺の心の支えなんだ」


その時、遅れて視界にクエストが表示された。

【緊急クエスト】

『お前の覚悟をリアに示せ』

内容:今この瞬間、リアへの変わらぬ愛を言葉で示せ

報酬:絆ポイント+1


(間に合わない……!もう言っちゃった後だ……!)


コウタは一瞬慌てたが、すぐに心意気を込めて言葉を続けた。

「俺の相棒は、世界中探してもリアだけだ。これからも二人で、小さなアパートで朝ごはんを作って、一緒にギルドに行って、どんなに小さなクエストも二人で成し遂げて……そうやって一つずつ、二人だけの幸せを積み重ねていきたいんだ」


彼女の手をしっかりと握りしめ、コウタは誓うように言った。

「たとえゆっくりでも、二人で歩いていけば、きっといつか大きな夢も叶えられる。庭付きの家だって、毎日温かいご飯だって、全部お前と一緒なら、それが一番の幸せなんだ。約束する」


リアはコウタの胸に顔を埋め、涙をこぼした。不安は、コウタの温もりと確かな言葉で、ゆっくりと幸せな安堵に変わっていく。


「……うん!二人でなら、何だってできるよね……!約束……!」


【クエスト失敗】

『お前の覚悟をリアに示せ』は達成できませんでした

理由:クエスト発生前に既に本心を語り終えていました

お詫び報酬:絆ポイント+10を獲得

説明:システムの指示を待たず、自らの心のままに愛を伝えました


月明かりが窓から差し込み、抱き合う二人を優しく包み込んだ。Cランクへの道は遠のいたかもしれない。だが、この「二人だけ」の絆が、どんなランクよりも確かな光を灯しているのだった。


(第34話 了)

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