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第28話:ふたりだけのマグカップ
ある朝、アパートのキッチンで。
「コウタくん、コーヒー淹れたよ」
リアがくまの絵の描かれたマグカップをテーブルに置く。
「お、サンキュー」
コウタはうさぎの絵のマグカップを受け取る。
この二つのマグカップは、小学生の時の図工の授業で作ったものだ。クラスで一番仲の良いコンビで作ろうという先生の提案で、コウタとリアは迷わずペアを組んだ。
コウタの作ったうさぎのカップは、耳が不釣り合いに長く、どこか愛嬌がある。リアの作ったくまのカップは、丁寧に描かれた模様が彼女の几帳面な性格を表していた。
それ以来、ずっと――
中学校の部活の朝練で、ココアを注いで。
「コウタくん、今日も頑張ろうね」
高校受験の勉強中に、お茶を入れ合って。
「リア、休憩しなよ。ずっとやってるじゃないか」
ハンターになった初日に、緊張した手でコーヒーを持って。
「コウタくん、私たち、できるかな」
「大丈夫だよ、二人なら」
デスストーカー討伐の後、震える手で温かい紅茶を。
「生きててよかった…コウタくんと一緒で」
今日も、二人はそれぞれのカップを持って食卓につく。
「このカップ、ずっと使ってるけど、コウタくんのうさぎ、相変わらず個性的だね」
「リアのくまは、昔から上手いよな」
コウタはカップの取手に、長年の使用でできた小さなヒビに指をなぞる。
「そういや、このヒビ、中一の時に俺が落としちゃったんだよな」
「それでもコウタくん、一日中謝ってたよね。でも、直してくれたし、全然気にしてないよ」
その夜、コウタは《クエスト視認》に表示された新しいクエストに目を見開いた。
【奇跡クエスト発生】
『永遠の約束の器』
達成条件:
1. 二人の揺るぎない想いを確認する(0/1)
2. 共有する大切な記憶を蘇らせる(0/3)
3. 未来への変わらぬ誓いを交わす(0/1)
報酬:マグカップが《永遠の絆の器》へ進化
難易度:★★★★★★★★★★
警告:クエストの存在を絶対に明かすな
(まずい…リアには言えない…)
【条件1:二人の揺るぎない想いを確認する】
「なあ、リア…」
コウタはそっとリアの手を握り、自然な流れで言った。
「俺はな、お前とずっと一緒にいたいんだ」
「私もよ、コウタくん。ずっと前から、ずっとこれからも」
(条件1 達成)
【条件2:共有する大切な記憶を蘇らせる】
コウタはカップを手に取り、さりげなく話題を振る。
「そういえば、このヒビ、中一の時に俺が落としちゃったんだよな」
「うん、だってコウタくんが必死で直してくれたから。それに…ハンターになった日、このカップで『二人ならできる』って乾杯したのもいい思い出」
「ああ、それにデスストーカーの後も…」
「生きていてよかったって、思ったね」
(条件2 達成)
【条件3:未来への変わらぬ誓いを交わす】
「ねえ、コウタくん」
今度はリアの方から言い出した。
「たとえ何十年経っても、朝起きたら真っ先にコーヒーを入れてね」
「もちろんだ。リアもずっと、俺の不器操作なウサギのカップを使い続けてくれ」
(条件3 達成)
【クエスト成功】
瞬間、二つのマグカップがほのかに輝いた。ヒビは消え、色は鮮やかになり、確かな温もりを放ち始める。
「わあ!コウタくん見て!カップが…なんだか綺麗になったよ!」
「あ、ああ…すごいな。きっと、俺たちの想いが通じたんだろうな」
リアが新しいカップでコーヒーを淹れる。香りが格段に豊かになり、一口飲んだだけで心が満たされる。
「なんだか、すごく美味しいコーヒーね」
「ああ…本当にそうだな」
【奇跡クエスト成功】
《永遠の絆の器》を獲得
効果:永遠の耐久性、想いを込めた飲み物の効果増幅
二人は光るマグカップを見つめ、手を握り合った。
(これから先、何十年経っても、このカップで朝のコーヒーを飲むんだ)
それは、ささやかで、しかし何よりも確かな幸せの形だった。
(第28話 完)




