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第26話:Eランクゲート、初挑戦
「おめでとう、リアちゃん!ついにEランクへの昇格が決まったよ!」
ハンターギルド・夕凪支部の受付で、職員がそう告げた。リアの手元には、新しいEランクの身分証が渡される。
「やった!コウタくん見て!Eランクだよ!」
リアは嬉しそうに身分証をコウタに見せた。
内心:(本当に良かった…彼女の努力が実って。でも、なんだか複雑だ)
「おめでとう、リア」
コウタは心からの笑顔で祝福した。
次の瞬間、コウタの《クエスト視認》が反応した。
【新クエスト】
『新たな一歩』
内容:リアのEランク昇格を祝福し、支えよ
報酬:絆の深化
リアの最初のEランク任務は、「緑苔の洞窟」での薬草採集だった。洞窟の入口で、コウタは足を止めた。
「ごめん、リア…Fランクの俺は、このゲートには入れないんだ」
リアの表情が一瞬で曇った。
「そ、そうだったね…コウタくんがいないなんて、久しぶりだよ」
内心:(一人で大丈夫かな…でも、もうEランクなんだから)
「大丈夫だよ」
コウタはリアの肩をポンと叩いた。
「お前は強い。できるさ。何かあったら、すぐに駆けつけるから」
その言葉に、リアは勇気づけられ、ゲートへと足を踏み入れた。
洞窟内は、青く光る苔に覆われ、幻想的な美しさに満ちていた。リアは他のEランクハンターたちと共に、指定された薬草を採集し始める。
「結構簡単だね」
とリアが呟いたその時──
「警戒!グリーンスライムの群れだ!」
チームリーダーの叫びと共に、ゼリー状の魔獣たちが四方から現れた。数は予想以上に多い。
「まずい、包囲された!」
リアは咄嗟に闇魔法を唱えた。
「《シャドウバインダー》!」
影の束縛がスライムたちの動きを封じるが、数の多さに圧倒される。魔力も急速に消耗していく。
一方、ゲート外で待つコウタは、不気味な轟音にハッと顔を上げた。
(警告!緊急クエスト発生!)
【緊急クエスト】
『ゲート内の危機』
内容:リアを救出せよ
制限:Fランクのゲート内進入は禁止
失敗ペナルティ:取り返しのつかない事態
「くそ…!」
コウタは一瞬躊躇った。規則を破るリスク、そして何よりリアを見殺しにするリスク。しかし、彼の決断は早かった。
「リアを守ると誓ったんだ!」
コウタはゲート警備員の制止を振り切り、中へと駆け込んだ。
「コウタくん!?」
窮地に立つリアの元へ、コウタが現れる。
「Fランクが来ても邪魔になるだけだ!」
とチームリーダーが叫ぶ。
「構わない!俺の役目は彼女を守ることだ!」
コウタは「守護者の誓い」を発動し、リアの前に立つ。リアの闇魔法とコウタの防御が絶妙に連携し、スライムの群れを次々と撃退していく。
「すごい…二人の連携、完璧だ」
と他のハンターたちも驚愕する。
戦いが終わり、洞窟内が静寂に戻った。
「コウタくん、ありがとう」
リアは涙ながらにコウタに抱きついた。
「コウタくんが来てくれて、本当に良かった」
ゲート外に戻ると、警備員から厳重注意を受けた。
「FランクがEランクゲートに無断進入とは、言語道断だ!」
コウタは深々と頭を下げた。
「すみませんでした。でも、もう一度同じ状況になっても、私は同じことをします」
その夜、アパートで二人は談笑していた。
「コウタくん、私Eランクになっても、やっぱりコウタくんが一番の相棒だよ」
「ああ、もちろんさ」
コウタの《クエスト視認》に表示された。
【クエスト成功】
『新たな一歩』完了
報酬:絆の深化を確認
次の目標:コウタのEランク昇格
リアはEランクとして新たな一歩を踏み出した。しかし、二人の絆はこれまで以上に強固なものとなったのだった。
第26話:Eランクゲート、初挑戦(続き・夜)
アパートの電気が消え、二人はベッドの中で今日の出来事を振り返っていた。
「コウタくん、寝る?」
「ああ、もう少しで」
しばしの沈黙の後、リアがふと疑問を口にした。
「ねえ、コウタくん…今日、私が危ないって、どうしてわかったの?」
コウタの心臓が一拍だけ早くなった。
(警告!警告!機密情報漏洩の危険!)
【緊急クエスト】
『秘密保持』
内容:クエスト視認の存在を絶対に明かすな
ペナルティ:システム強制終了
「それは…その…」
コウタは頭をフル回転させた。
「勘、だよ。なんとなく…リアが危ない気がして」
「勘?」
リアはきょとんとした声で繰り返す。
「あ、ああ…だって、お前のことはずっと見てきたからな。お前のピンチが、何となくわかるんだ」
内心:(ごめん、リア…嘘ついて)
「そっか…」
リアは納得したように呟いた。
「コウタくんの勘、当たってくれて本当に良かった。コウタくんが来てくれたから、助かったんだよ」
彼女はコウタの方に体を寄せ、温もりを求めるようにした。
「ありがとう、コウタくん。私のことを、そんなに気にかけてくれてて」
(クエスト『秘密保持』成功)
コウタは胸を撫で下ろすと同時に、罪悪感が胸をよぎった。
「もちろんだ。お前は…俺の大切な相棒だからな」
月明かりが窓から差し込み、二人を優しく照らす。コウタは誓った。
(たとえ嘘をつくことになっても、お前を守り抜く。これが、俺に与えられた使命なんだ)
そしてもう一つ、心に決めたことがあった。
(いつか、本当のことを話せる日が来ると信じて。それまで…)
「おやすみ、リア」
「おやすみ、コウタくん」
秘密を抱えながらも、変わらない絆で結ばれた二人の夜は更けていった。
第26話:Eランクゲート、初挑戦(続き・真夜中)
コウタの規則正しい寝息が寝室に響き渡る。彼は疲れていたのだろう、深く眠っていた。
…ふぅ…
その寝息を合図にするように、リアは静かに目を開けた。彼女はゆっくりと体をひねり、月明かりに照らされるコウタの横顔を見つめた。
(コウタくん…今日は本当にありがとう)
彼女の目は、闇夜の中で静かに輝いている。
(「勘」だって言ってたけど…どうして私がピンチなのがわかったんだろう)
リアの指が、そっとコウタの頬に触れる。熱はなさそうだ。
(もしかして…コウタくん、私に隠し事してる?)
この疑問が頭をよぎると、彼女の胸に少しだけ痛みが走った。しかし、すぐに彼女は首を振る。
(でも、それでもいいや)
彼女の口元に、柔らかな笑みが浮かぶ。
(コウタくんが何か隠してたとしても、きっと私を想ってのことだから)
コウタが寝言で「大丈夫…俺が…」と呟く。リアは思わず息を飲んだ。
(見て、やっぱり…寝ても私のことを守ろうとしてくれる)
彼女はこっそりとコウタに近づき、額に軽くキスをした。
(私ももっと強くならなきゃ。コウタくんを守れるように)
この想いが胸の中で強くなる。Eランクになったばかりだが、それだけでは足りない。コウタがあんなに危険を冒してまで自分を守りに来てくれるなら、彼女も同じことをしたい。
(次は私がコウタくんを守る番)
彼女はそっとコウタの手を握り、しっかりと目を閉じた。明日からは、もっと修行を頑張ろう。コウタくんと並んで戦えるように――
(コウタくん、おやすみ。愛してる)
月明かりが、変わらぬ愛に包まれて眠る二人を、静かに見守っていた。




