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第二十三話:温かな応援
《クエスト視認》に新しい表示が浮かび上がる。
【家族クエスト】
『現状報告』
内容:リアの両親に、二人の現在の生活状況を報告せよ
達成条件:両親からの祝福を得よ
報酬:家族の絆強化
週末、二人はほっこりとした雰囲気のリアの実家を訪れる。
「おかえり、リア、コウタくん」
リアの母親が温かい笑顔で迎える。
「お母さん、私、Eランクに昇格したんだよ!」
リアが嬉しそうに報告する。
「まあ!よかったわね!」
母親はすぐにコウタの方に向き直り、
「コウタくんも、いつもリアのことを支えてくれてありがとう。子供の頃から、あなたがそばにいてくれるのが一番安心なのよ」
内心:(お母さん、相変わらず温かいな…)
食卓で、リアの父親がコースターを置きながら、にっこり笑う。
「私たちはね、二人のことが子供の頃からずっと大好きなんだ。ハンターは大変だろうけど、お互いを大切にしながら頑張ってくれればそれで十分だよ」
「お父さん…」
コウタは胸が熱くなる。
突然、母親がいたずらっぽくウインクした。
「それでね、できれば早く孫の顔を見せてほしいのよね~」
「お、お母さん!」
リアの顔が真っ赤になる。
内心:(まさかそんなこと言うなんて…でも、コウタくんとの子供か…)
父親も優しく付け加える。
「でも、無理はするなよ。もしハンターの仕事が辛くなったら、いつでも辞めて帰っておいで。お前たちの幸せが一番だからな」
【クエスト成功】
家族の深い理解と祝福を獲得
新スキル『温かな応援』を習得
効果:家族の愛に支えられていると感じると、すべての能力が一時上昇
帰り道、リアがコウタの手をしっかり握る。
「お父さんとお母さん、本当に私たちのことを理解してくれてるね」
「ああ…こんなに温かく見守ってくれる両親がいて、俺たちは本当に幸せ者だ」
月明かりの下、二人は並んで歩く。コウタは《クエスト視認》の表示を見つめながら思う。
(この温かさこそが、俺たちの最大の強みなんだ)
(どんなに強力な魔法やスキルよりも、この絆が俺たちを支えてくれる)
今日という日は、二人の未来がより確かなものになった、大切な一日となった。
:母のクエスト
それは、コウタとリアがハンターになりたての頃、初めてリアの実家を訪ねた日のことだった。
居間で、リアが緊張しながら宣言した。
「パパ、ママ、私…コウタくんと一緒にハンターになります」
瞬間、居間の空気が張り詰めた。誠一郎が眉をひそめ、口を開こうとしたその時──
(警告!警告!緊急クエスト発生!)
玲子の視界に、血のように真っ赤な警告表示が炸裂した。
【緊急クエスト】
『娘の決意を確認せよ!』
危険!危険!危険!
失敗ペナルティ:------が目覚め、あなたと誠一郎が死亡します
危険!危険!危険!危険!危険!
(なに…!? 死ぬ…!?)
玲子は必死に平静を装う。20年以上前に誠一郎を手に入れた時に使っていた《クエスト視認》が、娘の未来を守るために再起動したのだ。
「おい、リア…ハンターは──」
誠一郎が反対の意見を言おうとした瞬間、玲子の視界がさらに真っ赤に染まる。
(危険!危険!アドバイス実行:リアの決意を聞き出してください!)
(危険!危険!危険!危険!危険!)
「ちょっと待って、お父さん!」
玲子は誠一郎の腕を握り、必死の表情でリアに向き直った。
「リア…あなた、本当にコウタくんと一緒にハンターになりたいの? どれだけその気持ちが本物なのか、お母さんに教えてくれる?」
(危険!危険!危険!危険!危険!)
玲子の心臓が激しく鼓動する。この警告は本物だ。娘の答え次第で、彼女と夫の運命が決まる。
「私…」
リアはコウタの手をしっかりと握りしめ、目を上げた。
「コウタくんがいない世界なんて、考えられないんです。たとえどんなに危険でも、貧しくても…コウタくんのそばにいるのが、私の幸せなんです」
その瞬間、玲子の視界の警告が弱まり始める。
「それに…」リアの声に力が込もる。「今度は私がコウタくんを守りたい。ずっと守られてばかりじゃなくて、私も彼の力になりたいんです」
(危険レベル低下…)
(決意の深度を確認中…)
玲子は息を呑んだ。娘の目に宿った強い決意──それはかつての自分そのものだった。
(この子は本当に本気なんだ…)
誠一郎は複雑な表情で二人を見つめ、深く息をついた。
「…わかった。お前たちの気持ち、本当にわかったよ」
玲子の視界から、警告表示が完全に消えた。
【第一段階 完了】
リアの決意を確認
緊急事態は一時回避
次の指示を待て
その夜、玲子はこっそりと《クエスト視認》に呟く。
(あの------ってなに?どうして私たちの死が…?)
しかし、答えは返って来ない。ただ一つ確かなのは、娘の恋を応援することが、彼女自身の生死にかかわるということだった。
(このクエスト…絶対に成功させなければ)
コウタとリアが見送られ、家を出て行った後、居間の空気は再び緊迫した。
「玲子、本当にそれでいいのか?」
誠一郎が深くため息をつき、ソファに腰を下ろす。
「ハンターはともかく…せめて高校くらいは行くべきだろ。あの子の成績ならできたはずなのに」
(警告!警告!危険!危険!危険!)
玲子の視界が再び真っ赤に染まる。前よりもさらに切迫した警告が炸裂する。
【最終段階クエスト】
『誠一郎を心の底から納得させろ』
危険!危険!危険!危険!危険!
失敗ペナルティ:このままでは-------が暴走します。あなたと誠一郎が死亡します
危険!危険!危険!危険!危険!危険!
(まずい…これは本当にやばい…!)
玲子は冷静を装い、誠一郎の隣に座る。
「お父さん…わかるよ、あなたの気持ち。私だって、娘にはできるだけのことをしてやりたい」
(危険!危険!説得を続けろ!)
「でもね」玲子は誠一郎の手を握る。「私たちが娘に一番与えなきゃいけないもの、それはなんだと思う?」
「…なんだ?」
「失敗する権利よ」
誠一郎は驚いたように玲子を見る。
「もし私たちが反対して、無理に高校に行かせて、リアが不幸せになったら? それでも『言うことを聞かせて正解だった』って思える?」
(危険レベルが低下… 続けろ!)
「でも玲子、ハンターは危険だ! もしものことがあったら…」
「それでも、本人が選んだ道なら納得できるじゃない!誰かに決められた人生で失敗するより、自分で選んだ道で失敗する方が、ずっとマシだわ!」
玲子の熱意に、誠一郎は少し押され気味になる。
「…それにね」玲子の声が柔らかくなる。「あの子たち、私たちに似てると思わない? 私たちも周りに反対されても、愛を選んだじゃない」
誠一郎はしばし沈黙し、そして深く息をついた。
「…わかった。もう反対しない」
「本気で?」
「ああ。お前の言う通りだ。失敗する権利か…それも親の愛なんだな」
瞬間、玲子の視界から警告が完全に消え、穏やかな表示に変わる。
【緊急クエスト 成功】
誠一郎を心の底から納得させた
-------の暴走を回避
報酬:なし
その夜、寝室で玲子は《クエスト視認》に静かに問いかける。
しかし、答えは返って来ない。ただ、娘の恋を応援することが、家族全体の命運を握っていることだけは、確かなのだった。
(第二十三話 了)




