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第十六話:満たされない絆
訓練場で、リアは楽しそうに闇魔法の練習を続けていた。
「コウタくん見て!《シャドウ・ボール》がまた少し大きくなったよ!」
彼女の手から放たれた闇の球は、確かに着実に成長している。その成果に、リアは満面の笑みを浮かべる。
内心:(もっと、もっと強くなって、コウタくんの力になりたい)
その瞬間──
「警告!警告!」
コウタの視界を、《クエスト視認》の赤い警告表示が埋め尽くした。
【システム異常】
絆が足りません
絆が足りません
対象:南雲リア
現在の絆レベル:576/100
危険水準:
「なに…!?」
コウタは目を疑った。数字は明らかに閾値をはるかに超えている。それなのに、なぜ「足りない」という警告が?
「コウタくん!私、もっと頑張るね!」
リアは笑顔で駆け寄り、コウタに抱きついた。
「警告!絆が足りません!」
「警告!致命的な不足を検出!」
視界の警告は激しく点滅し、むしろ音量が大きくなっていく。
「これからもずっと、コウタくんと一緒に魔法の練習頑張るから!」
リアは無邪気に笑いながら、抱きしめる力を強める。その抱擁は温かく、愛情に満ちているのに──
「緊急警告!絆が深刻に不足しています!」
「直ちに対処してください!」
コウタは混乱しながらも、必死に笑顔を作ってリアを抱き返した。
「ああ…もちろんだ。俺たちは永遠に一緒に頑張っていく」
その言葉とともに、警告が突然消えた。
「うん!約束だよ!」
リアは満面の笑みを浮かべてコウタから離れる。彼女の目は純粋そのものだ。何も知らない。
コウタは安堵すると同時に、深い戦慄を覚えた。
(この異常な数値…閾値を超えているのに足りないとは?)
(これはもはや、普通の絆ではないのか?)
(それとも…この「絆」というものが、別の何かを求めているのか?)
夕暮れの訓練場で、コウタは暗澹たる思いに駆られた。彼女を守るためには、この歪んだ「絆」の正体を暴かなければならない──
(第十六話 了)




