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:リアの無意識下
闇の力がコアを破壊した後、リアはコウタの傍に力なく倒れ込み、深い眠りについていた。彼女は無傷であったが、その精神は肉体とは別の場所を彷徨っていた。
――無。深い、黒い水底。
幼い頃、誰も守ってくれなかった、あの冷たい闇の記憶。今度こそ、自分は完全に一人きりになってしまったのだと、リアの意識は絶望に沈もうとしていた。
その時、闇の中で一筋の光が差し込んだ。
光は文字の形をしていた。コウタが常に見ていた、クエストの文字。しかし、それは彼女の力(闇)によって拡張され、視覚的な映像となって彼女の心に流れ込んでくる。
彼女の無意識に、コウタの**「クエストの軌跡」**が再生された。
| クエスト名 | 目標 | 成功/失敗 |
|---|---|---|
| 【初クエスト】 | 迷子になりかけたリアをギルドまで送る | 成功 |
| 【日常】 | リアの夕食を作る | 成功 |
| 【隠蔽】 | 影に触れたリアの手の傷を隠す | 成功 |
| 【救助】 | 危機に瀕したリアに、真っ先に手を伸ばせ | 成功 |
| 【護衛】 | リアの笑顔を守る | 成功 |
| 【代償】 | リアの代わりに攻撃を受け、影から引き剥がせ | 成功 |
| 【究極の目標】 | リアを、何があっても無傷で帰還させる | 成功 |
無数の、無名の、ささやかなクエスト。そして命を懸けた、重大なクエスト。すべての映像に共通するのは、傷つきながらも、決して諦めず手を伸ばすコウタの姿だった。
リアの胸に、激しい感情の奔流が押し寄せる。それは、コウタの痛み、献身、そして彼女に対する絶対的な愛だった。
「――コウタ……」
眠りの中で、リアの目から一筋の涙が溢れ、枕に吸い込まれた。
彼女は知った。自分が守られていたこと。自分のために、彼が人生のすべてをクエストに変えていたこと。
闇の力は、その**「光の軌跡」**に触れた途端、静かに鎮静化していく。
光が消え、静寂が訪れる。リアの無意識は、温かく満たされた状態で、穏やかな眠りへと戻っていった
:その夜の決意
コウタは包帯だらけの身体を引きずり、リアのベッドの傍に座った。動くたびに痛みが走るが、彼女の傍にいたかった。
眠るリアの手を、そっと握る。掌に伝わる温もり。
「……ごめん」
声が震える。
「守るって、言ったのに」
失いかけた絶望が、どんな痛みよりも深く心に刻まれている。
「だから……もう二度と……離さない」
:リアの無意識下での共鳴
眠るリアの目元から、一筋の涙が静かに流れ落ちた。
闇の力がコアを破壊した後、リアの意識は深い眠りの中にあったが、その無意識は、コウタの**「クエスト視認」**の力と微かに共鳴していた。
彼女の精神に、コウタがこれまでクリアしてきた無数のクエストの記憶が、光の奔流となって流れ込んでくる。
コウタが隠してきた、痛みと努力のすべて。
彼が自分自身に課してきた、すべての**「目標:リアを守る」**という至上命題。
その膨大な、愛に満ちた軌跡を知った瞬間、リアの心は震えた。
「コウタ……」
眠りの中で、リアはただ彼の名前を呼んだ。コウタには聞こえない小さな声だった。
(コウタはリアの手を握ったまま、静かに眠っている)
コウタの献身を知ったリアの無意識は、力を鎮静化させ、満たされた安らぎの中で、穏やかな眠りへと戻っていった。
:翌朝、二人の誓い
翌朝。リアが目を覚ますと、自分の手を握ったまま眠るコウタの姿があった。
「おはよう、コウタ」
コウタがはっと目を覚ます。
「リア……無事で、よかった」
リアは小さく息をつき、包帯だらけのコウタの腕に視線を落とす。
「私を、守ろうとしてくれたんだよね。ありがとう。そして……ごめんね」
「謝るな。これは俺が選んだことだ」コウタがリアの手を握り返す。「だから、気にするな」
リアは涙を拭い、小さく笑った。
「……ずるいよ、そんなこと言われたら」
そう言って、リアはコウタの手を、ぎゅっと握り返した。
その時、コウタの視界にいつものようにクエストが表示される。
【日常クエスト:この手の温もりを忘れない】
目標:今日一日、彼女の手を離さない
報酬:共に過ごしたかけがえのない時間×1
コウタははっとしたが、リアには見えないことを知っているため、表情に出さない。
「どうしたの?」リアが不思議そうに見つめる。
コウタは首を振り、彼女の手を強く握り返した。
「何でもない。ただ……今日は、お前の手を離したくないなって」
リアの頬がほんのり赤く染まる。
「……もう、急に何言ってるの」
彼女は嬉しそうに笑ったが、その瞳の奥には、コウタのすべてのクエストを知った者だけが持つ、深く強い光が宿っていた。
リアは、コウタが知らないところで、彼のすべての献身を受け取ったのだ。
「じゃあ、今日一日、一緒にいよ?」
「ああ」
コウタが頷く。リアはその手を、ぎゅっと握り返した。
何が起きたのかは、コウタには分からない。
だが、リアは知っている。
これからも、どんな闇が来ても、この手は離れない。
二人はそう、心に誓った。
窓から差し込む朝日が、抱きしめ合った二人を優しく、深く照らしていた。




