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【第一話:守護者の誓い】
――俺は、死を覚悟した。
「離れるな、リア!」
エリアボス級魔獣・デスストーカー。
Fランクの俺たちが勝てる相手じゃない。
それでも、俺はリアの前に立ちはだかった。
『守護者の誓い』を発動し、全身で彼女を守る。
デスストーカーの爪が、俺を襲う。
「ぐはっ!」
一撃で吹き飛ばされる。
肋骨が軋む。
それでも立ち上がる。
「くそ…もっと…もっと強く!」
再び突進。
再び跳ね飛ばされる。
「がっ!」
【クエスト進捗】
リアへの攻撃を2回防いだ
スキル『不屈の守護者』を習得
「コウタくん!やめて!もういいから!」
リアの泣き叫ぶ声が響く。
「逃げる…んだ…!」
――しかし、デスストーカーの一撃が、
俺の胸を貫いた。
「ぐああっ!」
【クエスト達成】
『デスストーカーからリアを守れ』成功
報酬:守護者の経験値+300
――だが、俺はその報酬を知る由もなく、
血の海に倒れ込む。
意識が、遠のく。
視界が、暗くなる。
(リア……ごめん……守れ、なかった……)
最後に聞こえたのは、
リアの、絶叫だった。
「コウタくん―――ッ!!!」
そして――
俺の意識は、完全に途絶えた。
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「……ん……?」
気がつくと、俺はギルドの治療院にいた。
胸を貫かれたはずなのに、傷一つない。
ユニフォームだけが、大きく破れていた。
「目が覚めたか?奇跡的な生還だな」
治療師が立っていた。
「リアは…!?」
「相方の女の子なら、あちらで眠っている。無事だ」
ほっとする。
でも、すぐに疑問が湧く。
「デスストーカーは…どうなったんです?」
治療師が首をかしげる。
「それがね…君が倒したんじゃないのか?
デスストーカーの死体が君たちのそばにあった」
「僕が…?」
そのはずがない。
確かに、俺は死を覚悟した。
胸を貫かれた感覚がある。
その後の記憶は――ない。
数日後、退院した俺たちは、
デスストーカーの死体を売却し、臨時収入を得た。
「コウタくん、すごいね!デスストーカーを倒したんだよ!」
リアは目を輝かせて俺を見つめる。
「きっとコウタくんの真の力が覚醒したんだよ!」
しかし、俺の視界には、
《クエスト視認》の文字がはっきりと表示されていた。
【クエスト失敗】
『絶対に守り抜け』は達成できませんでした
――守れなかった?
クエストは失敗したと表示されている。
ということは、俺はリアを守れなかったはずだ。
では、誰がデスストーカーを倒したのか?
「私、気が付いたらコウタくんのそばで倒れてたんだ」
リアは恥ずかしそうに言った。
「コウタくんが私を守ってくれて、それで…
きっとコウタくんの中に眠ってた本当の力が目覚めたんだね」
「…そうかもな」
俺は無理に笑顔を作った。
内心では混乱が渦巻いていた。
クエストは失敗。
でも、デスストーカーは死んでいる。
もしかしたら、本当に俺の中に未知の力が…?
いや、違う。
何か、見落としている。
何か、重要なことを。
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――これは、Fランクの俺が、
幼馴染の少女・リアと共に歩む物語。
しかし、この時の俺はまだ知らなかった。
あの日、何が起きたのか。
彼女が、何者なのか。
そして、この《クエスト視認》が、
俺たちをどこへ導くのか。
すべては、数週間前から始まっていた――




