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第八話 母の魔力と新たな生活の始まり

離れで見つけた桜模様の簪からはお母さんの魔力を感じる。でもなぜなのか?


見つけた肖像画に写っていた人はやはり母なのか?

だとしたらなぜ?この本に書かれているのか?

そもそもローザはなぜ転移したのか?

増え続ける謎を解く鍵は「文字は力になるから覚えなさい」という母の口癖。


2人はここで何かヒントを見つけるかはできるのか?






 ずっと感じていた。もしかしたら……いや、絶対と言えるほどにお母さんの魔力を感じる。11年間、ずっとそばで感じ続けてきた魔力だから間違いない。





「魔力って、そんな誰のものかわかるもんなの?」



「そうじゃない。けど、家族ぐらい親しい相手ならわかるよ……やっぱり、あの絵の女の人はお母さんかもしれない」



「これはさ、ただの推測だけど。ローザがここに転移したことと、お母さんが昔日本に来てたかもしれないと――関係あるんじゃない?」




 確かに……私はなぜ転移したのかわからない。あの場に召喚者と思われる人はいなかった。

 


 でも蒼は陰陽師の末裔で、その陰陽師とお母さんが繋がっていたとしたら……。蒼からは魔力も霊力も感じない。でも、あの場に蒼が居合わせたのは偶然じゃないかもしれない。


 そして思い出した言葉がある。





「文字は力になるから覚えなさい」




「ん?なんて?」



「文字は力になるから覚えなさい、お母さんは口癖みたいに言ってた……まさか」



「どういうことだよ。もしかして魔法の世界に文字はないのか?」



「いや、エーデルワイスの公用語のエディー語。それには文字もあるし、みんな読み書きを習う。でも、エルフだけが話せるパンシュ語。蒼の言う日本語には文字がない」



「日本語には文字がないって。でもローザ、お前はさっき読めるって――」



「私だけが読める」





 興奮気味に話す私に驚く蒼を無視して言葉を続ける。





「エルフは日本語を第二言語として話せる。でも読み書きはできない……なぜなら文字がないから。エルフは日本語を呪文的な感じで覚える。だからそもそも誰も疑問に思ってない」



「じゃあなんでローザは――」



「家族3人だけの秘密だってお母さんが……文字は力になるから覚えなさいって言うのに。私は日本語の文字を知っているはずなのに、なんで文字が読めないのかわからなかった」



「つまり、ローザがここにきた理由が関係ありそうっていうことか?」



「私の世界でも文字は時代によって多少の変化はある。新しい単語が生まれ、古い言葉が使われなくなることもある。そして私が知っているのが昔の日本語の文字ということは……」



「じゃあローザの母ちゃんが文字を知ったのが、その紙に書かれた文字の時代ってことか?」



「その可能性がある。もしお母さんも過去に転移していて、文字がわかるなら納得いく。それなら他の人に内緒なのも……」



「内緒にする必要はあるか?」



「私の世界で召喚魔法は一般魔法じゃない。召喚ができるのは、ほんの一握りの魔法使い。そして何よりも、人を召喚することはできないというのが一般常識」



「えっ、人って召喚できないの?」



「できない。生き物は召喚できない」



「えっ……」



「魔法っていうのは、目には見えない粒子を塊として出したり、そのエネルギーをぶつけたりすることで発生させてるもの。召喚はする時も同じ。でも生き物はそもそも粒子まで細かくしたら、死んでしまう」



「でもローザは生きてるよな?」



「でも3つだけ召喚できる生き物がいる。魔物、魔族、妖精。人間とは違って存在が魔力の塊だから、粒子に分散させても死なない。だから召喚できるけど、魔族と妖精には強い意志があるから、召喚を拒否されたらできない」



「お前は何の話をしてるんだ?」



「陰陽師なら召喚できるかもしれない。魔法ではできなくても、霊力なら……朝うめさんが、ある陰陽師が霊力を使い何かを成し遂げたって言ってた。もし成し遂げたことがお母さんの召喚なら……」



「陰陽師は実在した。それはわかってるけど……陰陽師が具体的に何ができたかはわからないからなんとも」



「じゃあやっぱりこの本を読むしかないかな」



「まあそうだな。ただ、問題はどうやって読むかだな」



「読めるけど意味がわからないんじゃ……」



「それもそうなんだけどさ、ローザ今の日本語の読み書きできないじゃん?」



「あっ……」



「もしローザがこの本を今の日本語に書き換えられれば、俺でも何か手助けできそうなんだけどさ」



「じゃあこの本の解読のためには、今の日本語の勉強からしなきゃってこと?」



「そうだな。これは母さんか、ばあちゃんに頼んでみるよ」



「うん」



「とりあえず、この木箱と簪を持って家に戻ろうか」



「そう、だね」





 私は簪の入ってきた小さな箱を左手で持ち、蒼は本の入った木箱を両手で持った。それじゃあハシゴを降りられないだろうと思い、杖を右手に手繰り寄せる。1階へと続く穴に飛び込み、蒼も浮かせて一緒に床へ着地した。




「おい……そういうのは、何か声をかけてからやってくれ」





 なぜかその場に座り込み震えている蒼。さっきの感じだと魔法で飛びたいのかな、って思ったんだけど違ったようだ。




「えっと、ごめん。ハシゴを降りるのは大変かと思って」



「まあうん、ありがと。ただ急に魔法を使われると心臓に悪いんだよ」



「あ、そっか。今度は声かけてから飛ぶね」



「んー、まあそういう……うん」




 蒼は昨日から時々、ブツブツ言いながら頭を抱えている。魔法が珍しいとはいえ、蒼はちょっと変わった性格なのかもしれない。



 家に戻り、私の部屋に木箱を置くと、「俺の部屋に来いよ」と蒼に言われた。私は簪の入っている木箱を机に置き、蒼についていく。


 

 蒼の部屋に入り、床の上に座る。蒼は机の上の棚をゴソゴソとしあさった。

 



「ノートとボールペン、これを使ってくれ」




 薄く柔らかい紙。なめらかな質感で、薄いからかたくさんのページがある本。羊皮紙とは全然違う。




「このペンはどうやって使うの?」



「ボールペンを知らないのか?ここを押すと書けるんだ」




 蒼は机の上の小さな紙に、くるくるとペンを走らせて見せてくれた。ガラス製のペンに比べとても軽い。インクが内蔵されているなんてとても便利だと驚いた。

 



「まずはひらがなの勉強だな。ローザ、暗記は得意か?ひらがながわかれば、あとは自分で勉強できると思うんだけど」



「得意だよ。お父さんは魔力学者だったから、よく勉強を教えてもらった」



「魔法の世界にも学者っているんだな。じゃあまず50音を頑張って覚えようか」



「50音?」



「そうだ。ひらがなは50個あって、それさえ読み書きできればこっちでの生活はなんとかなるさ」



「50個しかないの?」



「そうだ」



「なら、すぐ覚えられるね」



「そもそも、ローザの知ってる日本語にひらがなはあるのか?」



仮名かなはあるよ。私は女手おんなでを主に使うけど、男手おとこでもある程度は書けるよ」



「……女とか男とか関係あるのか?」



「関係はないかも?私も文字として覚えただけだから、意味とか由来は知らないや」



「まあ、とりあえず俺が50音書いて見せるわ」




 蒼は「あ」とか「い」とか言いながら、ノートに文字を書き始めた。正直私の知らない字体が多いが、読める文字も多い。50個の文字を書き終えた蒼は、こちらを見て「どうだ?」と聞く。私はそっと文字を指でなぞった。




「覚えた」



「そうか、これで……覚えた?」



「覚えたよ。50文字、書ける」




 私は蒼からボールペンをスッと取り、紙の端に小さく「ろーざ」と書いた。相変わらず蒼はポカンとしており、私としても反応に困った。




「ローザ、お前は天才か?」



「まあ、村でよく言われた」



「あっ、本当に天才なのね」



「こうして文字を指でなぞれば覚えられるよ。蒼の発音もちゃんと聞いてたから」



「え、そんなんで覚えられるの?マジ魔法みたいだな」



「うん、魔法だから」



「……魔法って万能だな、正直引くわ」



「うん、よく引かれた」



「ん?」



「たった1回読んでもらっただけ、書いてもらっただけで。それで文字を覚えられるのは、ほんの一握りの魔法使いだけだよ」



「ガチの天才か」



「私のお母さんには遠く及ばないけどね」



「そっか。でもとりあえずこれで、ひらがなは完璧だな!次はカタカナでも覚えるか」



「カタカナ?」



「カタカナはひらがなと同じく50音あって、ひらがなとペアになってるって言うのかな」




 するとまた蒼は再び「ア」とか「イ」と言いながら、ノートに文字を書き始める。本当に50個しかない。私は再び指でなぞる。


 


「俺はさ、もっとこう、苦労するもんかと思ってたんだが……簡単に覚えられる分にはいいか。ローザの世界に勉強って概念はなさそうだな」



「勉強はみんなはするよ。魔法を覚えるより先に文字を学ぶし」



「じゃあいつ、その文字を覚える魔法を使うんだ?」



「この魔法は文字を覚えるっていうよりも、呪文を覚える時に使うんだよね」



「やっぱり魔法って呪文を唱えるのか」



「まあ規模やパワーが強くなるほど、詠唱が必要になるのが一般的かな」



「ローザが使ってたやつ。髪を乾かしたり、光を出したり、飛ぶのに呪文を言ってなかったよな」



「あれぐらいは日常的に使う物だから。いちいち詠唱はしないんだよ。もちろん子どもが魔法を使う時とか、その系統の魔法が苦手だったら詠唱することもあるけど」



「じゃあめっちゃ長い呪文とかあるの?」




 魔法の話になってから、蒼はワクワクしている様子だ。「こういうのはあるのか?」「ああいうのはあるのか?」と、とにかく魔法について知りたがった。一応聞かれたことは答えたが、蒼の質問は終わる気配がなかった。




「……蒼、また魔法については教えるから。私、文字を勉強したいんだけど」



「あっ、ごめん。つい興奮しちまった。改めて、この本の解読方法について会議しよう」



「そうだね。まず、この本の内容を現代の日本語でノートに写す。もし漢字や対応する文字がわからなければ、そのまま写す」



「そうだ、わからないところはばあちゃんに聞こう。最初の数ページだけでも分かれば、この本の手掛かりがわかるはずだ」



「うん。まずは蒼の先祖がしたことと、お母さんが来ていたかどうか。この2つの手掛かりを探そう」



「オーケー。ちなみにローザ。昨日、俺が言ったことを覚えてるか?」



「えっと、なんだっけ?」



「俺は3日後から学校に通うんだ。だからローザができるようにならないといけないことのリストを作るのはどうだ?」



「リスト、か。でも、私は何をできるようになったらいいのかわからない」



「それは俺が考えてやるさ。そしたらその本を書き写すのと別に、もう1冊ノートいるか?そこにリストも書いたらいいよ」



「ありがとう。でもそんなにもらっていいの?」



「いいよいいよ。そうだ、俺のお気に入りのノートをやるよ」

 



 蒼がくれたのは「杖を持った男の子とドラゴン」の絵の描かれたノート。これは、魔法使いとドラゴンの友情が描かれた漫画の絵だと教えてくれた。漫画とは絵がメインで描かれた本のことらしい。



 娯楽の本がそんなにあるなんてと驚いたと同時に、この世界の紙は安いのかもしれないなと思った。蒼はリストを箇条書きで書いていく。




【がんばるリスト】

・ひとりでかいものをする

・でんしゃとバスにのる

・けいたいをつかう

・じかん と とけいをおぼえる

・ようびをおぼえる

・かでんをつかえるようになる




「とりあえずまずは携帯が必要だよな」



「それって必要な物なの?」



「必要だよ。昨日話した通り電話もできるし、離れていてもメッセージを送れる。地図も入ってるし、基本的になんでもできる」



「……魔法よりも便利だね」



「かもな。ただ契約しないといけないんだよなぁ」



「誰と契約するの?」



「あー、まずこの機械を買うだろ?そんでこれを使うためには、会社と回線契約しなきゃいけないんだよね」



「なんか……おおごとじゃない?それにお金もないし」



「まあ、もろもろ母さんと相談だな」




 蒼はその日のうちにゆうかさんと話をつけてくれた。携帯を明日契約しにいくこと。お金はゆうかさんが払ってくれることになった。



 また明日は乗り物に乗るので、その時乗り方を教えてくれると言われた。蒼が学校に通う間は、ゆうかさんが面倒を見てくれるらしい。

 




 ーー私はこの世界でやるべきことをやろう。






いよいよ手掛かりを見つけ解読することになったローザと蒼。


しかし3日後には蒼の学校が始まってしまう。

ローザには携帯の使い方から日本での生活方法。覚えなくてはいけないこともたくさんある。


次の回からは日記の解読=母の謎に足を踏み入れることに。


ぜひブクマ・評価よろしくお願いします。

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