第七話 離れに眠るもの
いよいよ陰陽師の謎に近づきます。蒼の家の離れには雑多に積まれた箱や骨董品だらけ。ついつい無意識に魔法を使うローザに「感動×驚き」と複雑な心境の蒼。2人がそこで発見したものとは…
大量の荷物を持って家に帰ってきたのは、お昼の12時だった。紙袋から洋服を取り出し、ついているタグをハサミで切り取る。ゆうかさんは買ってきた服を見て、「蒼が選んだの?」とニヤニヤしながら蒼の腕をこづく。
「今から洗濯したら明日には全部乾くかな。下着は乾燥にかけるから今日の夜には使えるよ」
ゆうかさんは山盛りの洋服を抱えて部屋を出た。私はどうやって洗うのかが気になり、くっついて行った。お風呂に入る前に服を脱いだ部屋に入り、穴のあいた大きな箱に中に洋服を詰め込む。そして小さな引き出しを開けて、液体を流し込んだ。
ボタンを押すその箱はとゴト…ゴト…。ガタガタ……。ブゥゥゥン〜と音を立てて揺れ始めた。
思わずビクッとなった私に、ゆうかさんは洗濯機というのだと教えてくれた。なんと水でゆすぎ石鹸で洗って、水を絞るところまでしてくれるという。もうこれは魔法なのでは?
「おいローザ、離れ見に行くぞ」
蒼に手が廊下で手招きしている呼んでいる。そうだ、うめさんの言っていたものを探さないといけない。私はリビングに戻る。
「ばあちゃん、離れの鍵ってどこにあんの?」
うめさんは神棚の中央の飾りをどけて、小さな扉を開けて鍵をくれた。
「そんなとこにしまってたのかよ。初めて見たけど若干錆びてんな」
「なんか小さいね」
私たちは家を出てすぐ左にある、小さな建物の前に立つ。その扉には、中央に桜の絵が入った黒い錠がかかっていた。鍵はさびていたが、ピタリとハマり錠が開いた。
蒼が左側の扉を引くとギギギ……と音を立てながら開く。中は暗くあまり見えない。私は左手で杖を出して光を灯す。
「なっ……それ杖か?」
無意識に使った魔法に蒼が驚いたのを見て、やってしまった感に襲われる。蒼以外に見てた人はいないと思うから、捕まりはしないと思うけど……。
「なぁ、それが杖なのか聞いてるんだけど」
「あっごめん、私の杖。マズいよね。今しまうね」
「いや」
「えっ?」
「俺しか見てないから大丈夫だ。それより……お前どうやって杖を出したんだ?」
なんだか興奮気味に喋る蒼が、起こっているわけじゃないとわかってホッとする。杖は、私の手の届く範囲に目に見えない粒子として常に散らせてある。使う時は杖をイメージして手元に形成し、使わない時は再び離散させる。
「めっちゃ魔法じゃん……俺、感動したわ」
「そう?とりあえずうめさんの言っていたものを探そうか」
「そ、そうだな!おっ、なんか高そうなツボがあるぞ」
蒼は手当たり次第、目についた物を手に取った。私は目を閉じて何か感じられないか気配をたどった。やはり魔力とは違う、霊力というものなのかわからないが、上から何か力を感じる。
「蒼、多分上に何かある感じがする」
「上か?じゃあハシゴがいるな。この長さがあれば足りるだろう」
そういって鉄のハシゴを、2階の穴に向かって立てかけた。蒼はそれに足を掛けると軽く跳ねて「大丈夫そうだ」と言い上って行った。初めてハシゴを実際に使っている人を見た。なるほど、ああやって登るのかと私は眺めていた。
「どうした?こいよ。ってか、ローザが来ないと上暗くて見えないんだけど」
確かにと思い、杖に力を込めて上へと舞う。2階へと頭を出していた蒼の横の床に座り、全体を見渡す。1階と比べてすっきりとしていて、部屋の隅には低い机があった。
「……な、なぁ、ローザ。その杖使えば俺も飛べるのか?」
「私の杖で?まあ魔力があればできると思うけど、蒼は魔力がないからどうだろう」
「だ、だよな〜。よし、探すか」
ハハっと笑った蒼は、わざとらしくゴソゴソと探し始めた。私は机の横にある、赤い札の貼られた小さな木箱が気になった。そっと蓋を開けると紙に包まれた何かが3つ入っていて、その下に本のような物があった。
「お、ローザ、なんか見つけたか?ってそれ昔の書物じゃね?でも読めねえな」
蒼は表紙に貼られた紙を指でなぞった。
「土御門さくら」
「なんだそれ?名前か?」
「わからない。でもそう書いてある」
「書いてあるって、ローザ。お前、それ読めるのか?」
「読める。お母さんに習ったパンシュ語……蒼の言う日本語の文字はこれだ」
「えっ、それっていつの時代の文字だよ。江戸時代とか鎌倉時代とかじゃないの?めっちゃ昔じゃん」
「え、マズいかな……」
おそるおそる1冊の本を手に取って、そっと中を開いてみた。蒼の言う時代の名前はわからないが、昔の物って意味だろう。中に書かれた文字は読みにくいところもあるが、まあ読めないことはない。
「蒼、私ここに書いてあることだいたい読めるけどさ……意味がわからない」
「どういう意味?読めるのにか?」
「うん、まず寛永?って書かれてるけど、その言葉の意味を私は知らない。今日も父が相手にしてくれないって書いてあるところは、意味がわかるんだけど」
「あー、俺も寛永が何かはわからないが、まあ想像はついた。それは元号だな」
「元号?」
「ローザの世界では国ができて何年って数えるか?」
「数える。生まれたのはブルーメン6104年って言う」
「おぅ……それとは別に、その時代の偉い人が考えた年?の名前があるんだよ。例えば今、この世界は2024年だ。でも元号で言うと、令和6年って数える」
「つまり世界ができてからじゃなくて、偉い人がつけた“名前が書いてあるってこと?」
「多分な。しかも多分ローザが読めないところは、ローザの世界にはない物なんだろう。例えば携帯って書いてあっても、お前が携帯を知ったのは昨日だろ?つまり知らない物はわからない」
「そっか……でもこれが陰陽師?ってやつと関係あるかはわからない」
「ローザ、そこから何か力は感じるか?」
「んー、感じないかも。どちらかというと、この箱の方に感じる」
蒼は箱から本をすべて取り出した。そして残りの9冊をペラペラとめくる。すると、挟まっていた1枚の紙が滑り落ちた。蒼はそれを拾い上げて目を丸くした。
「ローザ、これはお前か?」
渡された紙には、2人の女性が描かれている。片方の女性はかんざしをつけていて、この世界の昔の人という印象。
問題はもう1人の方だ。耳は普通の人というにはちょっと尖りすぎている。いや、まあこういう人がいたのかもしれない、が珍しい。目も私と同じ赤とは言えないが、限りなく赤みががかった黒。髪は黒くとても長い。
「この人……エルフに見える」
「俺にもそう見える。耳のエルフというには丸い感じがするが、日本人にしては尖りすぎた。目も黒くないし……それに、お前になんだか似てる気がするんだよな」
昔の日本にはエルフがいた?いや、そもそもエルフと断言できないほどの耳が気になる。まさか幻影魔法?そんなはずない。ただ1つ確かなことは、この紙から魔力を感じるということ。これは絶対に霊力ではなく魔力だ。
「ローザ。俺はこの人をやっぱりどっかで見たことある気がするんだよな〜」
同感だ。私も見たことある気がする。ただエルフはみんな顔が似てるから、それだけなのかもしれない。
「なぁ。もしかしてローザの母ちゃん、ってことはない?ローザの持ってた家族写真?絵?で見た人と似てる気がするんだけどどう?」
そう言われると、確かにお母さんに似ている気がしなくもない。でもお母さんは、森で生まれてエーデルワイスで育ったはずだ。そんな話聞いたことない……でも
「蒼さ、さっき言ってた時代って何年ぐらい前なの?」
「400年とか500年とか?関係あるのか?」
わからない。ただお母さんは2000年近く生きたエルフだ。わからないが、少なくともその時代にお母さんは生まれている。
「とりあえずその絵と入ってた箱ごと、本を持って帰ろう。あと気になるのはあるか?」
「ずっと、何かに見られてる感じがするの」
「えっ、怖い話?」
2階に上がってから感じる魔力。この箱もそうだけど、もう1つきちんと魔力だと認識できる力がある。机とは反対側。たくさん積まれている箱をどかしながら探していると、小さな木箱が出てきた。
「これか?」
蒼がその箱を開けると、また紙に包まれている。
「これ、ローザの簪?」
中からでてきたのは、私の簪と同じもの。透明なガラスの中に、小さな桜がたくさん閉じ込められている。ゆうかさんはよくあるデザインと言っていた気がするけど。
「お揃いかはわからない。よくあるデザインなのかもしれない。ただ、それなりの魔力を感じる」
「ということはやっぱり、何か関係あるのかな」
「そうかもしれない。ただこの魔力は……」
「なんだ?」
「……お母さんの魔力を感じる」
2階で見つけたのは古い書物とエルフの肖像画、そして簪。ローザと母の思い出の中にヒントがあるのか。2人はある1つの謎にたどりつきます。
最後まで読んでくださってありがとうございます!
次回は10/18 18:00更新です。
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