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第五話 伝承の残響

目が覚めたローザは魔法を使い蒼の祖父母の気配を探る。

ばあちゃんはローザを見て優しく笑い、慌てて起きてきた蒼はまたしても作戦会議はなんだったのかという行動。ばあちゃんのする話とは…。






 カーテンから漏れた光で目を覚ます。誰かもう起きているだろうか?布団から出てドアに耳を当ててみるが音は聞こえない。



 手に力を込めて杖を出す。この世界でも杖は出せるようで安心した。私はリビングの入り口を中心に、この部屋を半径とする円を描くように魔法を張る。誰かが足を踏み入れれば感知できる仕掛けだ。





 鳥の鳴き声が聞こえ始めた頃、誰かが魔法の中に足を踏み入れた。ドアに近寄り聞き耳を立てる。しかし音は何も聞こえない。





 杖を消してドアをそっと開けるが誰もいない。キッチンだろうか?足音を立てないようにしてリビングを覗くと、白髪混じりの女性がお茶を入れていた。





「ん、おはよう。お姉さんは蒼の友達かい?」



 微笑むその顔は、全てを見透かしているように感じた。




「お、おはようございます。あの……昨日からお世話になっている、ローザです」




 何を言ったら良いのかわからず、口からでたのは名前。カチコチの私をしっかりと見つめ、ゆっくりとした返事をくれた。




「ローザちゃんもお茶を飲むかい?」



「お茶……ありがとうございます」




「椅子にかけたら?」と勧められ、とりあえず腰を下ろす。どんな顔をしたらいいのかわからず、思わず視線を落とした。女性はお茶を目の前に置くと、向かいの椅子に腰掛けた。




「私は蒼の祖母です。ローザちゃんはどこから来たんだい?」




 そう言ってお茶をすする女性。彼女が蒼の言っていたばあちゃんなんだとわかった。しかし、どこから来たのか正直に言ってもいいのかわからず、返事に困る。そしてたじろいでいると、階段をドスドスと降りる音がした。慌てた顔で入ってきたのは蒼だった。




「おはよう、ばあちゃん。あっ、ローザもう起きたのか」




 はあはあしながら蒼は私の隣の椅子に座ると、私の前に置かれたお茶を飲んだ。そして立て続けに口を開く。




「その、ちゃんと聞いて欲しいんだけど……ローザはいわゆる魔法使いってやつで?その迷子なんだよ。だからこの家に住まわせて欲しくて、あの、母さんは良いって言ってるんだけど」




 言いたいことを言い切ったのか、蒼は上目遣いで女性を見る。昨日の作戦はどこへいったのか、あまりにも行き当たりばったりな蒼に思わず視線を送る。すると女性がため息をつきながら話し始めた。




「蒼、私はローザちゃんと喋っていたんだけど、いきなりなんだい。ねぇローザちゃん。この孫は失礼だよ」




 そう言って笑った。




「ローザちゃんはどこから来たんだい?」




 繰り返された質問にひっそりと小声で答えた。




「……魔法の世界です」



「じゃあローザちゃんは魔法が使えるのかい?」



「はい、使えます」



「ローザちゃんはお花は好きかい?」



「はい?」




 ゆっくりとした声、なのに突拍子もない質問をされたので思わず声がうわずった。




「うちはね、神棚っていうあそこの棚にお花を供えるんだよ。満月の夜に必ず」




 そう言われて目を向けると、昨日は気にならなかったが、そこにはピンク色の花が供えられていた。




「満月の夜に花を供えると何かが起こる。この家ではそう言われてるんだよ。ローザちゃんはきっと、この世界の人じゃないんだろうね。でもお花が好きならきっと大丈夫さ」



「ばあちゃん、どういう意味だよ?ていうかローザこの家に住んでいいってこと?」



「蒼、落ち着きなさい。ほら、おじいさんも起きてきたじゃないか」




 すると年配の男性が部屋に入ってきた。そしてそのまま蒼の向かい側に腰掛けると、「おはよう」と言った。




「おじいさん、この子はローザちゃんと言うの。今日からこのお家に住むそうよ」



「そうかい、困ったことがあったらなんでも言うんだよ」




 突然すぎる展開に、私も蒼もポカンとなる。




「あの、なんでそんなに私のことを……普通に受け入れてくださるんですか?私、何も話していないのに」



「ばあさんが言うなら大丈夫だ」



「私の勘は外れないからね。ローザちゃんはきっとこの家と縁があると感じたから」





 そう言って2人は笑った。





「私のことは、蒼と同じように“ばあちゃん”って呼んでもいいし、うめさんでもいいよ」



「わしは、じいさんがいいな」



「えっと、うめさんもおじいさんもありがとうございます。あの……ゆかりさんも話していたんです。この家の血筋は、私と何か関係しているんですか?」



「そういえば母さんもそんなようなこと言ってたな。うちはただの地主じゃないのかよ」



「じいちゃんは婿養子だからこの家のことはわからん。が、ばあさんは大事にしてるな〜」



「そりゃそうですよ。そして蒼、あなたが人の話を聞いてないということがよくわかりました」



「昨日そっくりそのまま母さんに言われたわ」



「ローザちゃん、この家の十代ぐらい前の世代の人たちは、陰陽師と言われる仕事をしていたの。陰陽師と呼ばれる人の仕事は、暦を作ることや吉凶を占うこと、祭祀を行うこと、天災や疫病を予測・祓うことと言われてるわ。その中でもこの家の陰陽師が一番力を入れていたことは、邪を払うことや霊力を扱うこと」



「霊力とはなんですか?」



「目に見えない神秘的な力のこと。魂を感じたり、その力を使えば人間にできないようなことができた。そう言われてるわ」



「魔法みたい……」



「そうね。ただ霊力がある人はほとんどいないの。あったとしても、何かを感じるだけ。何かをできるほどの力がある人はごく稀なのよ」



「でも、うめさんは霊力ありますよね?」




 蒼は驚いた顔でこちらを見た。昨日ゆうかさんから感じた力や神棚から感じた力、そしてうめさんからも感じる。これは魔力のようでそうじゃない。




「驚いた、ローザちゃんは霊力を感じることができるの?」



「霊力かはわかりません。ただ魔力に近い何かを感じます。それが多分霊力――」



「ばあさんの勘がいいのはそういうことだ」




 おじいさんは腕を組んで誇らしげである。蒼は横でため息をつき、顔を覆うようにしてうなだれている。




「さっき言ったこと。神棚にお花を供えるのは、この先祖である陰陽師の言い伝え。満月の夜に花を供えることが、誰かのためになるって言われてるの。実際何か起きたことはないけれど、やるべきことだと思ってるわ」



「他にも、何か言い伝えはないんですか?」



「ある陰陽師が霊力を使い何かを成し遂げた。その陰陽師がいたのは江戸時代って言ってね。400年ほど前のこと。ただその人は当時、関わってはいけない外国人を匿った上に、謀反を企てたとされて死刑になったそう」



「外国人ってなんですか?……謀反?」



「ようは自分の国の人じゃない人と、王様に反逆しようとしたってことね。普通はそうなると家族みんな死刑になる。しかしその人の夫は出家といって、家を捨てて修行する人になり、子どもはよそに預けられたと言われてるわ」



「それとお花を供えることは、関係があるんですか?」



「わからないわ。ただ、陰陽師っていうのは国の人が認めた特別な職種なの。だから私の考えだけど、殺されるようなことをしたとしたら、霊力を使って成し遂げたことが原因じゃないかと思ってるの」



「成し遂げたことを守るためにお花を添えてるんですか?」



「ローザちゃんは察しがいいのね。少なくとも私は、ゆうかまで代々みんなそう信じてるの。そして満月の夜が明けて、私の前に魔法使いの女の子が現れた。何か関係があるんじゃないかと思ったの」



「ばあちゃん、俺そんなに話聞いてなかった?頑張ってここまで黙って聞いてたけど……そんなの初耳なんだけど」



「普段から話を聞いていない子に、こんな話をするわけがないでしょう」



「ということは、俺にも陰陽師の血が流れてて、霊力があるってこと?」



「わしにはないがな!」




 おじいさんは笑い、蒼は興奮しているように見えた。そして両手を組んで、お祈りをするようにこちらへと熱いまなざしを送る蒼。




「なあローザ。俺からもその、霊力感じるのか?だからあそこで出会ったのか?」




 正直、蒼からはなんの力も感じない。出会ったのだって偶然だ。でもその偶然が回り回ってここに繋がっている。まあそう考えると絶対関係ない……とは言えないかもしれない。




「蒼ごめん、なんの力も蒼からは感じないや。でも何か縁はあるのかもしれない」




 蒼はガクッと項垂れたが、それを見たおじいさんはさらに声を出して笑った。




「ローザちゃん、この家は母屋といって、みんなが住む場所なの。それとは別に離れと呼ばれる、人は住んでいないけれど物置として使っている建物があるわ。そこには昔書かれた書物や、骨董品なんかがあるの。私は若い頃、離れから何か見つかるんじゃないかって調べたんだけどね、とても昔の字で読めなかったわ」



「つまり離れになにかヒントがあるってことか?」




 今度は興奮して立ち上がった蒼。




「わからないわ。でも調べる価値はあると思う。ローザちゃんならわかる何かがあるかもしれない」



「そうね!ローザちゃんの魔法を使えば一瞬で何かわかるかも!」




 そう言いながらゆうかさんが部屋に入ってきた。どこから聞いてたのかはわからないが、うめさんとゆうかさんは雰囲気が似ている。2人は親子だったのか。霊力とされる力的にも近い雰囲気がする。




「おはようございます、ゆうかさん」



「みんな朝早いのね〜。まだ7時よ」




 キッチンでお茶を準備するゆうかさん。そういえば気になっていたことがある。




「あの、時間ってなんですか?」



「えっ……ローザ、お前時間知らないのか?日付とかないのか?」




 蒼が信じられないと言った顔でこちらを見る。




「日付とか年齢はあるけど、時間っていうのは知らない」



「時間がないのにどうやって日付がわかるんだよ」



「朝陽が昇って、夜陽が沈んだら1日だよ。365回それを繰り返したら1年でしょ。こっちだと違うの?」



「いや、それは同じだ。時間っていうのは1日を24個に分けたもんだ。そんでその24個に分けた1つを、さらに60で割ったやつを1分って言う。さらにその1分を60で割ったのを1秒って言うんだ」



「そんなのどうやって覚えておけるの?」



「時計って、そこの壁に数字が丸く並んだやつがあるだろ?そこに針がついてて、その先が指してるところが時間だ」




 そんな便利なものがあるのかと驚いていると、蒼が「後で勉強しような」と言って肩に手を乗せた。この世界には知らないことがたくさんある。私がこの世界に来た謎も、うめさんの言う陰陽師の謎が何かわかれば解決するのだろうか。

 


「まあとりあえず、朝ごはんにしましょうか。今日はローザちゃんがいるので、パンだけではなく目玉焼きとベーコンもサービスしまーす」



 おじいさんにお茶を出しながら、ゆうかさんは朝食のメニューをおどけて発表した。昨日蒼が食べていたものは知らないメニューだったが、パンも目玉焼きもベーコンも知っている。




「あの、ご飯作るの手伝います」



「ほんと?助かる〜」




 キッチンに入ると、ゆうかさんに目玉焼きとベーコンを焼いて欲しいと頼まれた。ゆうかさんは小さな棚を開けると、中から冷気が出てくる。これは冷蔵庫といって物を冷やしておける物らしい。魔法もないのに便利な世の中だ。




「卵を5つ割ってくれる?」




 袋に入ったベーコンと卵を受け取る。フライパンに卵を割り入れる前に.火をつけようとして気付いた。魔法もないのにどうやって火をつけるのか?ゆうかさんはそれに気付いてくれたのか、小さなつまみをひねる。一体どういう仕組みなのかと思いながらも、卵とベーコンをフライパンにいれる。

 



「蒼〜お皿出してちょうだい」



「はいよ〜」




 蒼は手のひらより大きなお皿を5枚並べた。ゆうかさんは焼けた四角いパンをお皿に並べていく。私も焼けた卵とベーコンをお皿に乗せていった。




「「いただきます」」




 皆で挨拶をして食べる。この世界でも「いただきます」って言うんだな、なんて思いながら食べるパン。カリカリふわふわで貴族が食べるようなパンだった。あまりに美味しくてびっくりしたのがバレたようで、蒼は茶化すようにして腕をつついてきた。




「「ごちそうさまでした」」




 私と蒼で流しにお皿を下げる。蒼は時計を見て、今は7時45分だと教えてくれた。お店が開くのは10時で、歩いて20分の距離だと言う。20分がどれくらいかわからなかったが、蒼も20分の説明が浮かばないようだった。


 


「とりあえず問題はその耳だよな〜」



「私はエルフだけど人間のハーフでもあるから、純血のエルフよりは小さい耳なんだけどね」



「ローザはハーフなのか?」



「うん、お父さんは人間だよ」



「ん?というか魔法の世界の人間の寿命ってどれくらいなんだ?」



「200年ぐらいかな。250まで生きたらすごいね」



「まじか〜って話が逸れたな。その耳魔法で隠せたりしないのか?」



「できるよ」




 そういって両手で耳に向かって魔力をかける。実際に人間のような小さな丸い耳になったわけじゃないが、見ている人がそう見えるように幻影魔法をかけた。




「すごいな、それなら大丈夫だ」




 おじいさんやうめさん、ゆうかさんもすごいすごいと拍手してくれた。




「あとは髪の毛をこのままおろして、服はとりあえず俺の――」「スカートは私が貸してあげる!」




 そう言ってゆうかさんが、黒いプリーツのスカートを貸してくれた。私は蒼から昨日借りたグレーのフード付きの服に着替える。かばんは生成色のトートバッグを蒼が用意してくれた。まあそこに入れる物は、ハンカチしかないのだけど。



 家を出るのは9時30分だと言われ、その時間まであと1時間半もあると言う。まったくもって、それがどれくらいかわからない。しかし時間まで蒼がこの世界のことを教えてくれると言った。


 



 昨日教えてもらった“スマホ”。それは電気という力で動いているらしい。電気が何かは説明しても難しいから、「そういう力があると思っておいて」と蒼は言った。




 蒼の話を聞いていてわかった。多分蒼は使っている物の仕組みが、いまいちわかっていない。昨日乗ったキャビンは、車という機械の1つだという。他にも世界には国がたくさんあって、ここは日本という名前だとか、人種も数えられないほどいることなども教えてくれた。


 そして家の中に目につく物や、これからどんなところに行くのかも説明してくれた。





 なんだかんだ、教えてもらっているうちに時間になったというので家を出る。私の履いている黒いブーツは、この世界でも比較的普通らしい。キョロキョロしながら歩いていると「ちゃんと前見ろよ」と蒼に注意された。




 私は置いていかれないように蒼の手を掴む。すゆとビクッとして振り返る蒼。昨日は手を繋いでくれたのになんでかな?と思ったが、蒼は手をほどかなかった。







少しずつこの世界を知り始めたローザ。

生活に必要な物を買いに行こうと蒼と出かけるが蒼の様子がちょっと変?

次回、ローザが東京の街を歩きます。


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