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第四話 異文化と母の温もり

ゆうかさんの視線の先はローザの母の形見。

ローザの世界ではそれをただの棒と呼んでいたけどこの世界では名前があるの?

初めてのお風呂とゆうかさんとの時間はかつての母を思い出す時間となった。

 




 ゆうかさんが驚いた顔で見ている視線の先は私の髪を結っていた棒。銀の棒に模様の入ったガラスの玉が付いている。これは8歳の誕生日に母が使っていた物を譲ってくれた形見である。




「エルフも簪を使うのね、全然気づかなかったわ」



「簪……これは簪って言うんですか?」



「そうよ。日本では着物っていう服装の時に使うことが多いんだけど……ローザちゃんの住んでいるところではよく使われているの?」



「エルフの女性はつけていることが多いです。街の人はつけてる人もいるけど……みんなが感じでは……それに私の簪は他のと違うんです」



「違う?」



「みんなは木を加工したものや金や銀などを使った棒でや加工した装飾だけです。ガラスの飾りはないんです。でも母の形見の簪にだけこの桜の柄のガラスがついていて……」



「日本には飾りがついている簪はいろんな種類があるけど、ガラスがついているのは結構普通というかよくあるデザインだわ」



「そうですか……」





 私はゆうかさんの言う簪のことを髪を結う棒としか呼んでいなかった。これに名前があるなんて……私がこの世界に飛ばされたことと何か関係があるの?さらに私の首にかけている鍵にも興味があるようなゆうかさん。




「とても綺麗な鍵ね。ローザちゃんのお家の鍵?」



「そうです。でも鍵は使うって言うよりかはこれも母の形見で。街の人の鍵はもっとシンプルだし」



「そうなの。真ん中のピンク色の石と桜の花の形の持ち手はなんだか魔法の世界って感じがするわ!鍵の先の文字はローザちゃんの世界の文字かしら?」



「この石はエルフだけが使える桜の魔法石が埋め込まれてるんです。文字は魔法を書く時に使う文字で、生活に使う言語の文字とはまたちょっと違うんですけど……」




 母の形見の簪は、この世界の物かもしれないと思った。しかし鍵はの方は珍しいようだ。桜の魔法石がこの世界にあるわけないもの。疑問と不安に駆られる私にゆうかさんは優しく声をかけた。




「とりあえずお風呂に入りましょ。裸のままだと風邪を引いちゃうわ」




 そう言ってさらにドアを開ける。中には水が溜まっている箱のような物が。そういえば街の人は桶に水を溜めて体を洗うんだっけ。確かにここは街なんだから川は無いのかもしれない。




「とりあえずローザちゃんは先にシャワーで体を流して湯船に浸かってちょうだい」




 そう言って変わった形のホースを渡されるとお湯が出てきた。たしか貴族は大きな桶に湯を張ってお付きの人が体を洗うって聞いたことがあるけどそういうこと?蒼は貴族なのかもしれない。



 言われた通りホースで体を流して桶に入る。足を伸ばせる広い桶のお湯は心地よかった。




「気持ちいいでしょう。ローザちゃんの入っている場所を湯船って言うのよ。私が頭と体を洗ったら交代しましょう」




 ゆうかさんが壺のような物の頭を押すと液体が出てきた。それを頭につけて擦ると泡がモコモコと立つ。そしてホースで頭の泡を流した。隣の壺を押すと今度はドロっとした液体が出てきて、ゆうかさんはそれを髪に馴染ませる。再びそれを流す、と白い塊の入ったネットで体を擦り始める。


 その白い塊を見たことがなかったが、たしか貴族が体を洗うのに使うのは灰汁と油脂を混ぜて作る石鹸という生成色の玉だと聞いたことがある。やはりこの家は貴族なんだ。思わず見入っているとゆうかさんは微笑みながらタオルで髪を巻いた。




「次はローザちゃんの番ね」




 私は湯船から出て小さな椅子に座る。ゆうかさんはこれがシャンプーと言い液体を私の頭につけて洗ってくれた。灰汁で洗うよりとても心地が良い。


 次にトリートメントという液体を髪に馴染ませるとサラサラになった。これならラベンダーの油を使わずとも髪を綺麗に保てる。そして予想通り石鹸と呼ばれる物で体を洗うと肌が柔らかく仕上がった。



 まるで子どもを洗うみたいに、ゆうかさんは丁寧に私を洗ってくれた。その姿が母に重なってなんだか懐かしい気持ちになった。きっと、私がこの世界のことを何も知らないからだろう。ぼーっとしている私の頭にタオルをかぶせ、ゆうかさんはドアを開けた。

 



 お風呂を出て先ほどの小さな部屋に戻り髪をタオルで拭く。化粧水と乳液というものを順番に肌に塗る。貴族とはこういうものなのだろうか?ゆうかさんから借りた下着とタンクトップを着て、蒼に借りたシャツとズボンを履く。



 いつものように魔法で熱風を起こし髪を乾かす。するとゆうかさんが、はしゃぐようにして私の手を握った。




「ローザちゃん!今のそれ魔法?どうやってやったの?」




 そう聞かれて無意識に魔法を使ってしまったことに気がづいた。蒼のように怯える様子はなかったが、蒼の言った通り捕まったとも言える。




「今のは空気を熱して風を起こしただけですが……ゆうかさんの髪も乾かしましょうか?」




 ゆうかさんは喜んで背を向けた。私よりも小柄なゆうかさんの髪を乾かすのはやりやすい。両手をゆうかさんの髪にかざして空気を温める。ゆうかさんの髪は細くさらさらと舞い上がりすぐに乾いた。




「ローザちゃん本当にありがとう!魔法だと一瞬で乾いて素敵ね〜」



「魔法を使わないで、どうやって乾かすんですか?」



「これはねドライヤーって言って電気を流して風を起こす機械なの。ただ髪全体をいっぺんに乾かせるほど大きくないからちょっと時間がかかるのよね」




 機械というものはいまいちわからないが、要は小さな雷で動かしているらしい。喜びが溢れたゆうかさんと部屋を出て大きな部屋に戻る。蒼はまた光る石を見ていた。



「蒼聞いてよ!ローザちゃんが魔法で髪を乾かしてくれたわ!」



 髪を手でなびかせながら自慢をするゆうかさん。蒼はちょっと驚いて席を立った。




「その光る石を見てたけど面白いの?」




 どうしても我慢ができずに聞いてしまった。




「これはスマホって言ってまあ電話したりメールしたりゲームしたり割となんでもできる機械かな」




 ゲーム以外の単語の意味が全くわからなかったが、これも機械というものらしい。蒼はスマホと呼んだ石を置いて「風呂」と言い残し部屋を出て行った。スマホをよく見ると石ではなく鉄でできているように見えた。




「じゃあローザちゃんのお部屋に案内するわ」




 手を引かれるままについていくと引き戸を開けて“じゃじゃーん”と言いながら楽しそうにゆうかさんはアピールした。低い机と床についているようなベッド。床は草のようなものでできている。




「このお布団を使ってちょうだい。あっ、お布団って初めて?」



「初めてです」



「いつもは何で寝ているの?」



「ベッドです」



「これは床にベッドの木の部分を使わずに床に敷いたものって言えばいいかしら?そしてこれが机ね。もし何か書き物をするなら明日蒼に買ってもらってね」



「この机は床に座って使うんですか?」



「そうそう、この座布団っていうクッションに座ればおしり痛くならないからね。それからこの押入れに使ってない引き出しがあるから、明日買った服はここに入れてね。あと必要なものあるかしら?」



「いえ、大丈夫です。何から何までありがとうございます」



「もし何かあったら私は階段を上がって右側のお部屋にいるからいつでも聞いてね!もちろん蒼に聞いてもいいわ」



「わかりました」



「じゃあ私はお部屋にいるね。おやすみなさい」




 ゆうかさんは手を振りながら部屋を出た。ドアが閉まり1人になる。まずは布団に横になってみる。意外と悪くない。そして座布団に座り机に向かってみる。変な感じはするけど大丈夫そう。


 何か手掛かりになるかもしれないし記録をつけよてみようかな。明日蒼に紙とペンを買ってもらおう。そう思っているとサーっとアが開いた。




「これ、ローザかばん忘れてる」




 蒼はかばんを片手、に髪は濡れており首にタオルをかけていた。気だるげに部屋に入ってきてかばんを床に置くと、その隣にすとんと座る蒼。




「髪、乾かしてよ」



「……髪?」




 突然の事態に意味がわからず、ひとまずかばんを部屋の隅に移動させる。




「母さんの髪乾かしたんだろ?……俺の髪も乾かしてくれよ」




 なぜか下を向きあまりこちらを見ない蒼。蒼には感謝しきれないほどの恩があるので、喜んで髪を乾かす。私は蒼の後ろに座り髪に手をかざして空気を温めた。蒼の髪は短くゆうかさんのように細めでさらさらとしている。遺伝だろうか?あっという間に髪を乾かして蒼の前髪を手で整える。




「あ、ありがとう」




 やはり下を向きこちらを全然見ない。何かしてしまっただろうか。蒼の言う通りにしたつもりだが、もしかしたら失礼なことをしてしまったのかもしれない。




「蒼、私何かしちゃったかな?」




 人を知ろうとしなさい。気持ちを想像しなさい。それでもわからなかったらきちんと聞きなさい。母はエルフにしては珍しく、エルフ以外の街の人々とも交流し交友関係が広かった。




「ち、違うんだ。その……魔法が珍しいからちょっとびっくりしちゃって」




 なんだか声がうわずった蒼だったがこちらを見てくれた。そして立ち上がったかと思えば私に向き合うようにして再び座る。




「寝る前に明日の作戦会議をしよう」




 私も素直に蒼の前に座る。




「まず明日やることは買い物だ。ローザは何も持ってないだろ?だから必要な物を揃える必要がある。ローザ、そのかばんには何が入ってるんだ?」




 かばんを指差す蒼。私は隅に移したかばんを蒼の前に置き直した。中に入っているのは、おさいふと額縁に入れた家族3人の肖像画の2つだけ。




「この絵はローザの家族か?」



「うん、8歳の誕生日に特別に書いてもらったの」



「そうか、良い絵だな」




 蒼は肖像画の額縁を指でなぞる。両親は最後に別れた日と顔が変わらないが、私は少し幼く今は短い髪もまだ長い。




「あと持ち物は着てた服と上着だけか?」




 お風呂場で外した簪と首に下げていた鍵を外す。

 



「えっと、これが簪って言うのはさっきゆうかさんに教えてもらった。これはお母さんの形見で、もう1つ形見の家の鍵が」



「エルフも簪つけるのか!この鍵も変わった鍵だな〜」



「これで全部」



「そうか、じゃあ明日はほんとに全部買わなきゃだな」



「うん」



「ただ問題はそれじゃない。明日はじいちゃんとばあちゃんが6時には起きてくる。つまりローザを受け入れてもらわなきゃならない」



「そうだ……」



「じいちゃんは母ちゃんも同じく多分ローザを受け入れる、と思う。問題はばあちゃんだ」



「何が問題なの?」



「んー、ボケてるわけじゃないと思うけど。神棚に祈ってばっかりだし正直よくわかんないんだ」



「あの棚ってやっぱり何か特別なの?ゆうかさんもお祈りしてるみたいだし」



「まあな。あんまり神棚のある家っていうのも多くはないけど、別に特別な訳じゃないと思うんだけどな」



「私は特別だと思う」



「そうかー?まあじゃあばあちゃんと気が合うかもね。あれに手を合わせたからどうなるとも思えないけど」



「蒼は手を合わせないって言ってたね。この世界の神様があそこにいるならお祈りしたほうがいいんじゃない?」



「……気が向いたらやってみるわ。とりあえず明日、ばあちゃんと仲良くやってくれ」



「わかった。起きたらリビングに行ったらいいかな?」



「あぁ、俺もできるだけ早く起きるつもりだ。……ただ俺朝弱いんだよ。だから起きれなかったらごめん」




 そういって蒼は私に手を合わせて申し訳なさそうな顔をした。まあなんとかなるだろう。蒼は「おやすみ」と言って部屋を出ていった。



 今日はいろんなことがありすぎて頭も体もすごく疲れている。初めて布団というものに横になったがよく眠れそうだ。この部屋独特の匂いはとても落ち着くな〜、なんて考えていたらそのまま眠ってしまっていた。







安心できる場所に思わず心地よくなり寝てしまったローザ。

ゆうかさんとは打ち解けることができたが、蒼の祖父母とは仲良くなれるのだろうか?

次回、朝起きたローザの行動とは。


ここまで読んでくださってありがとうございます!

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