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第三話 神棚の祈り

蒼の家に入ると出迎えてくれた女性。

初めて着るお洋服に見たことのない食事。

作戦会議をするもなんだか頼りない蒼と勢いに任せて住まわせてくれないかお願いするローザ。

ローザは無事生活する場を築けるのだろうか。




 扉の先は、やはり私の住む世界とは少し違う気配がした。



「まあ靴でも脱いでよ」


 

 そう言って白い革靴のようなものを脱いだ蒼は、目の前の段に上がった。寝るわけでもないのにと思いながらも、私もブーツを脱いで家の中に上がる。


 室内は街の人の家に近いが、なんだか入り組んでいるような感じもする。開いているドアを覗くと、女性が棚に向かって手を合わせていた。



 

「ただいま」


 

「おかえりなさい。後ろの女の子が電話で……外国の子かしら?」


 

「んーまあそんな感じ?でも日本語も普通にわかるから大丈夫」


 

「まるで魔法使いの格好みたいね」

 


「ま、まあな。そういう趣味なんだ」

 


「こんばんは」

 


 そう言って私の顔を覗きこんだ女性は、確かに蒼に似ている。しかも、この女性からはほんの少し魔力のような力を感じた。あの桜の木のように、本当に微量ではあるが。



「お、おじゃまします」

 


「まあゆっくりしていって。部屋はあるんだから」

 


「お名前は何ていうのかしら?私のことは、ゆうかさんって呼んでちょうだい」

 


「ローザです。よろしくお願いします」


 

「ローザちゃんね。ご飯は食べたの?」

 


「あ、はい。済ませました」

 


「そうなの。じゃあ蒼の分だけ用意するわね」

 



 ゆうかさんは奥のキッチンと思われる場所に向かった。

 



「俺らとりあえず着替えてくるわ」

 



 ゆうかさんに向かって蒼は声をかけると、「ついてきて」と言い部屋を出た。蒼に続いて階段を上り、手前の部屋に入る。そこにはベッドと机、本がぎっしり並んだ棚が置かれいた。

 



「さすがにその格好のままってわけにはいかないだろうし、俺の服で申し訳ないけど適当に着てくれよ」



 

 蒼は引き出しから、蒼が着ているようなフードのついているグレーの上着と、紺色のズボンを取り出した。

 



「俺ドアの前にいるから、着替え終わったら呼んで」

 



 そう言って部屋を出る蒼。ローブを脱ぎ、腰のリボンを解く。ワンピースを脱いで借りた服をかぶる。フード付きの上着はボタンのないローブに近い。紺色のズボンはパジャマのようにやわらかかった。


 着替え終えて内側からノックする。蒼はドアを開け、似合わねえなと笑った。クローゼットからハンガーを2つ手渡され、ワンピースとローブをかけると掛ける。

 



「とりあえず、そこ座りなよ」

 



 そう言って蒼は床に座り、私も向かいに座った。

 



「まず状況を整理しよう。いちばん大事なことは“ローザは魔法の世界に戻りたい”、そうだろ?」


 

「うん」

 


「でも、まったくもって原因がわからない。だから方法もわからない」

 


「うん」

 


「とりあえず帰る方法は探すとしても、しばらくはここにいることになる。そんなに簡単だったら今困っていないからな。だから、この世界の文化に慣れて生活できるようになる必要がある。どう思う?」

 


「確かに。今の私じゃ、怖くて1人じゃ外に出られない」

 


「だろ?それから住む場所。ここに住めるかは俺が母さんに聞くとして、とにかく生活の基盤を作ろう」

 


「ありがとう」

 


「それと、俺はもうすぐ学校に通わないければならない。学校は知ってるか?」

 


「知ってるけど、通ったことはないかな」

 


「そうか。ローザ、俺はお前を学校には連れてはいけない。つまり、俺ないない時間は母さんやばあちゃん、じいちゃんと過ごすことになる」

 


「うん」

 


「だから、今から母さんに“ここに住む”許可をもらうこと、そして何より仲良くなること。迷ったら俺を見ろ。そしたらなんかいい感じに助ける」

 


「わかった」

 



 作戦会議にしては綿密ではない。つまり行き当たりばったりだ。それでも蒼が助けようとしてくれているのはわかる。私もできるかぎりの努力しなくては。失敗すれば、私は行き先を失ってまた迷子だ。


 なぜ蒼はこんなに優しくしてくれるか、わからないけれどこれにすがるしかない。


 


 先ほどの部屋に戻ると、テーブルには見たことのない料理が並んでいた。お米だけは見てわかった。

 


「ローザちゃんにはココアを用意したんだけど、どうかな?」

 


 チョコレート色の湯気の立つ飲み物が置かれた。お礼を言って椅子に座る。ゆうかさんは向かい側に、蒼は隣に腰を下ろした。

 


「蒼、ローザちゃんの耳は本物に見えるけど?」

 


「……本物だ」

 


「私は漫画やアニメをあまり見ないけど、エルフのように見えるわ」

 


「まあ、そういうことになるかな」

 


「どこから来たの?あなた、今日上野に行ったんじゃなかった?」

 


「上野から帰る途中に会ったんだよ」

 


「ローザちゃんは上野のどこに?」

 


「あの神社のとこ」

 


「ローザちゃんはどうやって神社に?」

 


「わからない」

 


「じゃあ、迷子なのね?」

 


「そうなるね」

 


「蒼は、ローザちゃんを助けたいのね?」

 


「そうだね」


 

「お母さんも助けたいわ」

 


「…マジで?」

 


「大真面目。正直母さんはローザちゃんを見た時にピンと来たのよ」

 


「まさか……魔法使いってわかったのか?」

 


「こんなに可愛い子を蒼が放っておくわけがないって」

 


「……ん?」

 


「いや、ローザちゃんかわいいじゃない?そんな子が困ってたら、ね〜?連れて帰りたくもなるわよ」

 


「あ、えっとそういうことじゃ」

 


「それに血筋的に似たようなものも感じるし?」

 


「血筋?」

 


「あなたは母さんの話を聞いていないということがよくわかりました。なのでローザちゃんに聞きます。ローザちゃんうちに住まない?」


 


 蒼が上手くやると言っていたのに全くもってダメダメだったが、願ったり叶ったりな提案が出てきた。

 



「ぜひお願いします!助かりました!」

 


「なんか、俺いらなかった?」

 


「母さんがこんなに可愛い子を放っておけるわけないでしょ。1階の和室を使ってもらいましょう。あ、来客用のお布団出さなきゃだわ」


 


 そう言ってゆうかさんは部屋を出て行った。なぜ私を受け入れてくれたのかわからない。しかしとりあえずなんとかなった。私はいただいた飲み物を口にした。甘くておいしい。




「いや〜、なんとかなったな!」




 そう言って蒼は笑いながらご飯を食べ始めた。確かになんとかなったし、蒼には感謝している。しかし若干の頼りなさを感じた私は間違っているだろうか?




「なんか母さんはローザに甘そうだし大丈夫だろ。俺来週の月曜入学式。ということで明日から3日間は休みだし、とりあえず必要な物でも買いに行くか?」



「……えっと」



「なんだ?」



「月曜ってなに?それと、私のお金使えるかな?」



「あー、曜日も知らないのか。そんで、お金は多分使えないな。お金の単位は円じゃないだろ?」



「円じゃない。シャープとガルべ」



「まったく聞いたことないな。まあ、お金は俺の貯めたおこづかいがあるからなんとかなるさ」




 知らない単語を全て聞き返していたら会話が進まない。なのでとりあえず聞かれたことだけ答えることにした。


 ただ、お金が使えないという事実は、私の心細さが増した。とにかく蒼が学校に行くまでの明日から3日間、一人でも外に出られるようにならなくては。転移したあの場所に何か手掛かりがあるなら、そこまで行けるようにならないといけない。蒼がご飯を食べ終わる頃にゆうかさんが戻ってきた。




「和室にお布団敷いて、布団乾燥機かけてきたわ。歯ブラシも用意したし、お洋服は明日買いに行く?」



「ありがとう。明日、必要そうな物買いに行こうかなって思ってる」



「お金はあるの?」



「まあ、おこづかいで払おうかなって」



「女の子の一式はお金がかかるのよ?母さんが出すわ、ね?ローザちゃん!」



「すみません、ありがとうございます」




 そう言うと、ゆうかさんは小さな紙を5枚くれた。この紙の価値がどれくらいかはわからないが、きっとなんとかなるだろう。私はカバンからお財布を出した。




「ローザ、その財布は珍しいからお金は俺が預かるよ。あと鞄も変わってるから明日買おうな」



「そうなの?」



「ああ。あと母さん、こんなにいいのか?」



「5万円もあれば一式買えるんじゃないかしら?靴や帽子までならそれぐらいは必要ね。足りなければそれは蒼が出してあげなさい」



「わかった」




 5という数字はわかる。50ガルべなわけはないから50シャープぐらい?もらってばかりでは申し訳ない。私は自分の財布から50シャープ硬貨を取り出した。




「あの、この世界では価値がないことはわかっているんです。でもよかったら受け取ってください」




 ゆうかさんに手渡した50シャープコインは銀でできていて、中央には杖の模様が入っている。この世界に銀があるかもわからないが、少しぐらいは価値があるかもしれない。




「これがローザちゃんのお金なのね。ありがたく頂戴するわ。せっかくだし、神棚に置こうかしら」




 部屋の角の飾られた棚にコインを置くゆうかさん。よく見ると、私が転移した場所にあった金色に光っていた建物に似ている気がする。




「あの、その棚を見てもいいですか?」




 そう聞いたのは棚からも魔力を感じたからである。正確に言うと違うのだか、魔力に似ている何かを感じる。




「もちろんどうぞ。手を合わせる?」



「手を合わせる場所なんですか?」



「神様へお祈りする場所よ。家の中の神社って感じかな」




 近づくほどに力を強く感じる。ここにも「神様」がいるのなら、ヘルローサ様の桜と似ているのだろう。




「蒼はあんまり手を合わせないけどね」




 ゆうかさんは笑い、蒼は気まずそうに目をそらした。私は素直に手を合わせて目ををつぶる。その瞬間、頭の中に一瞬「映像のように」ある景色が見えた。



 それはぼんやりとしているがエルフのような女の人の顔と、ピンク色の光。暗くてはっきりはわからない。ハッしてと目を開けると、その景色は一瞬にして消えてしまった。もう一度目を閉じたがもう何も見えない。




「さあ、もう遅いしローザちゃんはお風呂どうぞ」



「お風呂ってなんでしょうか?」



「ローザは体を洗う文化がないのか?」



「体を洗うことをお風呂っていうの?川で体を布でこするけど、そんなの3日に1回度ぐらい」



「それじゃあローザちゃん。私と一緒に入りましょ!お風呂の使い方を教えてあげるわ。下着は嫌だと思うけど私のを使って。蒼、パジャマのシャツとか出してあげなさい」



「わかったよ、今持ってくる」




 蒼は部屋を出て行き、ゆうかさんもパジャマと下着を取りに行った。


 私はもう一度神棚を見つめる。頭の中に景色が流れたのはこの棚の魔力のせい?何より不思議なのはこの棚に背を向けている時に感じる魔力は0に等しい。それでいて、見つめると魔力が自分に向かってくるような感じがするのだ。




「何見てんの?」




 振り向くと白い洋服を持った蒼が立っていた。




「なんでもない」



「ズボンはそれ、パジャマにしてるからそのまま履いてよ」




 そう言って蒼は白い服をくれた。今着ているグレーの服から今度はフードを無くしたような形。男性の着る一般的なシャツとは若干形が異なりボタンがない。まあ蒼は男性だからこんなのを着るのかな?と思い自分を納得させた。




「ローザちゃんお待たせ!」




 ゆうかさんに手招きされ、小さな部屋の中へ入る。ドアを閉めるよう言われたのでパタンと閉じる。



「じゃあ全部お洋服脱いで、髪もほどいてちょうだい」




 目の前で服を脱ぎはじめるゆうかさんに続き、先ほど受け取った白い服を床に置いて私も服を脱ぐ。髪を結んでいた棒を取るとゆうかさんが声をあげた。

 







無事ひとまずの寝床を見つけたローザ。

神棚という不思議な力を感じる場所に疑問を感じながらも、ノリノリなゆうかさんに押される形で初めてのお風呂へ。

次回、脱衣所でゆうかさんが声を上げた理由とは。


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