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第二話 桜吹雪の裂け目と迷子の行き先

目を開けると広がるのは見たことのない街。不安に思っている中声をかけてきたのは蒼という男性。

初めて見る人、見たこともない乗り物、すべてが魔法のように見えるこの世界に驚きが隠せないローザ。





 桜の花びらに包まれ、目も開けられないほどの強い光に覆われたーと思った次の瞬間、私は全く知らない場所に座り込んでいた。





 目の前には桜と思われる花をつけた木があるが、奇跡の桜よりも明らかに小さい。何より樹を触っても魔力をほとんど感じない。母の血を引いている私も魔力探知能力が高いから感じられるが、普通のエルフならわからないのではないかというぐらいのささいな魔力である。


 地面は土でヘデラは生えてない。代わりに周りには目の前と同じ木が何本も生えている。見たこともない建物の中央は金色に光り月夜を受けて輝いていた。





 私の知らない村なのか森なのか……いや、桜の木がヘルローサ様の宿るあの森以外にあるなんて聞いたことがない。つまりこの木は偽物なのか?あの魔力の薄さからは魔法でできた木ではないことはわかる。




「そこ、入ったらマズいんじゃね?」



 

 突然の低い声に驚いて肩が跳ねる。振り返ると男性がコチラを見ていた。



 

「あ〜、外国人か。俺英語できないんだよな」



 

 ため息混じりに腕を組んだ男性が悩んでいるのがわかった。だが外国人とはなんだろうか?英語って言葉は「語」とついたのだからどこかの街の言葉?エルフのように何か特別な言葉を持つ人がいるということ?疑問の嵐に私もつい唸ってしまう。



 

「ここバツ、ソト、デル」



 

 男性は手をクロスさせ同じ言葉を繰り返す。



 

「外に出るってその門を超えてあなたの方に行ったらいいの?」

 



 男性は手を叩き



 

「なんだ日本語わかんのかよ。そこはもう営業時間終わってるから入っちゃダメなんだ。だからあなたは不法侵入になる。つまり誰か他の奴がくる前にそこから出ないと怒られるぞ?」




 

 男性は加えて手招きをした。意味のわからない言葉ばかりに頭の中には「?」が浮かぶ。でも、ここにいてはいけないということだけは理解できた。カバンを持って立ち上がり走って門を飛び越え男性の前に着地する。男性は驚いた様子で後退りをした。

 



「おいおい、この門を飛び越えるやつがいるかよ。お前と身長と変わらないぞ。というかその服装なんだ、魔法使いみたいだけどコスプレか?」



 

 私はこの男性が言っていることは聞き取れるが意味が全然わからない。というかこの男性の見た目がどこの民族の人なのかもわからない。服装ですら見たことがない。



 

「え、日本語わかるんだよな?なんか返事してくれよ」

 



「あ、えっと魔法使いっていうのは魔法を使う人のことですよね?魔法を使わない人なんていないですし……だから魔法使いかと聞かれたらそうですけど聞くようなことですか?」



 

「……ん?えっと、出身はどこなんだ?」

 



「ヴァーゲの森……あなたこそどこの街?村?の人なんですか」

 



「森が出身なやつなんてやばいやつだろ……関わるんじゃなかった」




 

 あまりに小声で聞き取れなかったが頭を抱えている。

 



「あなたの出身はどこですか?」

 



「東京生まれ東京育ち。だけどとにかく俺はその中に入るのは不法侵入だからやめとけって伝えたかっただけだから」

 




 そう言ってどこかに行こうとする男性。思わず手を掴んだ。

 




「東京って何?エーデルワイスじゃない?ここはどこなの!?」

 




つい声を荒げてしまった。そういえばそもそもここがどこかわからないしこの人の言っていることは意味がわからない。とにかく私は家に帰らないといけない。

 



「え、迷子?どうやってここに来たんだよ」



 

「迷子?……迷子か。私はお祈りをして桜に包まれたと思ったら周りが光って、気づいたらあそこにいたんだけど……」

 



「つまりどうやってここに来たのかわからないと言っているのか?」

 



「……そういうことになりますね」

 



「さっき魔法使いだって言っていたけど魔法で飛んできた……という可能性はない?」

 



「魔法を使った記憶はないし、転移魔法なんて魔法陣書いたり色々用意しないといけないから私が偶然使ったとは思えない」



 

「ほんとうに魔法使いなら何か魔法を見せてくれたりする?」



 

 あまりに不思議がる男性が魔法を知らないと嘘をついているようには見えなかった。私は男性を掴んでいた手を離し、手のひらを上に向けるとエーデルワイスの花を咲かせた。

 



「花が……出てきた?浮いてるのか?これ、触っても大丈夫なのか?」

 



 この人が驚くと同時に私も驚いた。魔法を使うのに力が必要だ。いや、魔法を使うには魔力を込めないと使えないのはそうだけど、いつもより10倍は魔力を込めないとできない。本来無意識レベルで使える花を出す魔法ですらちょっと意識をしないと出せない。

 



「あ、触ってもいいよ」

 

 


 固まってしまった男の人に声を掛ける。私が手を目の前に出すと男性は恐る恐る花をつまんだ。表と裏をまじまじ見たかと思うと次はコチラを見て目を丸くしている。



 

「本当に魔法使いなのか!?その辺に生えてる花にも見えるが俺の知らない花だし」



 

 風が吹いてローブのフードが脱げた。男性はさらに目を丸くしてこちらを見ている。

 



「エルフ……なのか?」



 

 男性は私の耳を見て気づいたのだと思う。エルフの耳が尖っていることは周知の事実。もともと数の少ないエルフを見たことがない人も多いだろう。

 



「エルフです、それに魔法使いです」

 



 なんだかあまりに驚く男性に私はどんどん不安になってきた。魔法を使うのもなぜか力をたくさん込めないとできないし目の前の人は見たこともないような種族の人。

 



「……今気づいたんだけどさ、なんで日本語わかるの?少なくともエルフなんて伝説の生き物だし日本語がわかるなんて思えない。魔法が使えるやつは他の言語がわかるようになっているのか?」

 



 そこで私も気づいた。私は公用語のエディー語ではなくパンシュ語を話している。つまり本来エルフしかわからない言語をこの人は話しているのだ。少しずつわかってきた。この人はパンシュ語のことを日本語と言っている。でも日本語という単語を私は聞いたことない。

 



「あなたの言う日本語?は本来エルフにしか話せない。そしてエルフは人間に比べたら圧倒的に数少ないけど伝説でもなんでもない。私があなたの言っていることがわかるのは代々民族の言語として言葉を学んでいるから。魔法使いだからと言ってエディー語以外をわかるようになるわけじゃない」

 




 つまりこの人はエーデルワイスの人ではない。そしてここはエーデルワイスではないのだ。私の全く知らない世界に転移してしまったのだと理解した。私は続ける。

 



「私は多分ここではない世界から転移したんだと思う。理由はわからないけど。」

 



「つ、つまり魔法の世界から意図せずここに飛ばされたってことか?」

 



「多分……」

 



「こんなの漫画の世界じゃねえか。え、どうしたらいいんだ。俺はただの人間で何かできるとは思えないんだが」



 

「私もわからない……とりあえず魔法を使ってどこか休めるところを探さないと「ダメだ!」

 



 男性は大きな声をあげて私の声を遮る。

 



「この世界には魔法なんてない。俺は魔法を目の前で見たにも関わらず正直目を疑ってる。つまり魔法を使ったのを誰かに見られたら……下手したら捕まるんじゃね?」

 



 確かに魔法を知らない人が魔法を見たら驚くかもしれない。でも私は他に方法が浮かばなかった。

 



「とりあえず俺の家にくるか?地主ってやつで敷地内に離れがある。とりあえず俺は関わっちまった以上お前をほっとけない。親に電話するからちょっと待ってて」

 



 そう言って男性は光を放つ石のようなものを取り出して耳に当てた。よくわからないがこの男性が私を助けてくれようとしているように見える。耳に当てた石に向けて何かを話している。そして少ししてそれをポケットにしまった男性。

 



「母ちゃんがお前を連れてきていいってさ。俺の家に来るだろう?」

 



 この人が良い人が悪い人かはわからないがついていく他ない。黙って頷くと男性は私にフードを被せた。

 



「いいか、絶対にそのフードを取るなよ。そして多分だがお前の知らない物ばかりをこれから見ることになる。驚くとは思うが騒ぐと目につくから静かについてこい。わかったか?」

 



「わ、わかった」

 



「それでいい。あ、俺は宇津木うつぎ(あおい)お前の名前は?」

 



「ローザ・ワイス」

 



「名前はローザで苗字がワイスか?」

 



「えっとみんなに呼ばれる名前がローザで、苗字が何かわからないけどどの家の人かわかる名前の部分がワイス」



 

「わかった、ローザって呼んでいいか?」

 



「うん」

 



「俺はみんなに呼ばれる名前が蒼で、家の名前が宇津木だ。蒼でいい」

 



「ありがとう、蒼」

 



 蒼を追いかけるようにして歩き出す。




 蒼は「これは夢か?」「漫画かアニメの話なのか?」「本当にこんなことって……ドッキリ?」「いや、でもこいつが嘘をついているようには見えない」とぶつぶつ言っていたが、私がついてきているかちょこちょこ後ろを確認しながら歩いてくれている。




 歩く道は森のような場所だったが歩道が整備されていて時々貴族でも住んでいるかのような高級だろうならと思う建物がある。そして本来暗い夜のはずなのに魔法のような灯りが浮いている。


 あれは魔法じゃないのかな?森の出口で蒼はこちらを見て私の左手を掴む。

 



「いいか、ここからはいよいよたくさん人がいる。迷子にならないようについてこいよ」

 



 そう言いながらすでに掴まれた手を引かれながら歩き始めてた。蒼が私に言ったことの意味を、私はすぐに理解した。


 見たこともない物体が目の前を駆けている。そこらじゅうが夜とは思えない程明るく、蒼と同じような服装の人がお祭りかと思うほど歩いている。さらにはみんながみんなこちらを好奇心の目で見ている。すれ違う人が何かコソコソ言っているのはわかるが、あまりの人の多さに聞き取れない。


 突如、蒼はベンチの前で立ち止まり私の顔を見た。

 



「いいか、今から乗り物に乗る。乗り物はわかるか?」

 



「ば、馬車?」

 



「馬車は知ってるのか。これから俺たちが乗るのは大きな馬車だが馬はいない」

 



「馬がいないのに走るの!?」

 



「そうだ。とにかく俺が良いって言うまで黙ってろよ」

 



「わかった」



 

 蒼が止まってからスープが沸く程の時間でその物体は来た。貴族の乗るような馬車のキャビンを4-5台繋げた程大きな箱が馬車の倍のスピードで走ってきた。声を出すなと言われていたのでなんとか耐えたけど思わず後退りする。


 蒼が中に入るのでなんとかついて行くと、コーチマンと思われる人の前で小さな本のようなものをかざす。黙ってさらに進む蒼を追うと、5列も椅子が並んでいる豪華なシートがある。お金払わないと怒られるのではと感じたが黙っておく。




 ところどころ人が座っており、空いているところに蒼が座るので私も隣に座る。この大きなキャビンは馬車の3倍程速いのでは?と思うほど速く思わず蒼の服の裾を掴む。


 蒼が黙ってろと言ってくれて助かった。周りの人は寝てる人もいれば蒼がさっき使っていた謎の光を放つ石を見つめている人もいる。緊張しすぎてどれくらいの時間が経ったかわからないが蒼に押されるようにしてキャビンを降りる。

 




 静かな道には人がいないように感じた。ここにも光魔法が浮いているが先ほどの場所よりは薄暗い。

 



「よく黙ってたな。めっちゃビビってたから声出すかと思ったけど根性あんのな」



 

「頑張った」



 

「ここから10分ぐらい歩くけど大丈夫か?」

 



「10分?」



 

「さすがに疲れたか、休憩するか?」



 

「あ、いや……大丈夫」

 



 もうわからないことが多すぎて10分が何か聞けなかった。まあ歩ける距離なんだろうと思う。

 



「まあ歩けそうな顔してるし大丈夫か」

 


「うん」



 

 細い道を進む蒼。

 



「蒼って何歳なの?」

 


「ん?18だけど。ローザはエルフだからその見た目で100とか超えてるの?」

 



「いや、16歳。エルフが長生きするっていうのは何で知ってるの?というかエルフってこの世界にいるの?」

 


「いや、いないけどさ、みんな知ってるんだよ。そんで16って年下かよ」

 


「え、いないのにみんな知ってるの?どういうこと?」

 


「んー、まあ今度説明するわ。その前に説明しないといけないことめちゃくちゃあんだよ。ちなみにエルフって長寿って聞くけど、どれくらいなの?」


 

「まあ普通に生きてる分には死なないかな。エルフは魔物とかと戦ったりして殺されない限り死なないんじゃないかな?」

 


「まじか……じゃあ1000年とか生きるの?」

 


「お母さんは2000年は生きてたかな」

 


「すげえな、じゃあローザお前まだ子どもかよ」

 


「どうだろう、16歳で1人前扱いされることが多いけど。まあそれは人間が16歳で成人するからそれに合わせてそういう扱いを受けるだけで、100歳でもエルフの中では若者扱いされるかな」

 


「まあなんであれ俺より年下な訳だという事実は変わらないな」

 



 なぜか蒼は偉そうだった。

 



「そうだね」

 


「ちなみに俺の家なんだけどさ、多分じいちゃんとばあちゃんはもう寝るだろうし父親はいないんだよね。だから母ちゃんとしかとりあえず会わないと思うんだけど、俺が説明をするからローザは何も言わないでくれ」


 

「わかった。ありがとう蒼」

 


「ん?」

 


「いや、魔法って割と何でもできるけどまさか違う国に飛ばされることなんて想像もしてなかったし。蒼がいなかったらさっきの場所で魔法バンバン使って捕まってたかもしれないし」

 


「いや〜漫画たくさん読んでてよかったわ。まさかこんな形で役に立つとは思わなかったけどさ」

 


「漫画?」

 


「あー、あとで見せるわ。そういえば夜ご飯食べた?」

 


「うん、もう済ませた」

 


「俺まだだから家帰ったら食べるけどいい?」

 


「うん」

 

 

 道中、蒼とはわりとたわいもない話をした。


 やっぱりわからない言葉も多いが、蒼は丁寧に教えてくれることもあれば後でと流すこともあった。気まぐれなのかな?木の柵のような囲いの中央に扉があり蒼はその中に入れてくれた。


 そして玄関の鍵を開ける。その中の景色はやはり見たことのないものばかりだった。






次回、ローザは蒼の家族に受け入れてもらえるのか?

外の世界は不思議がいっぱい、でも家の中だって知らないことだらけ。ローザが初めて日本の文化に触れます。



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