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第十一話 魔法陣、そして初めてのデート

2冊目の日記を開いたローザ。

すこしずつ「さくら」と「母」の関係や、生活が見えてきた。

そこで見つけた事実とは……ローザは考えたこともないようなアイデアだった。

そんな中迎えた蒼の誕生日。

ローザと蒼の関係にも注目です。






 ――蒼の夏休みが終わり、私は2冊目の日記に取り掛かった。


 そこには私の知らない高度な技術と発想が書かれていた




 

 2冊目の1ページ目から10日ほどは、1冊目の後半と同じように手掛かりになるような情報は書かれていなかった。年末で東照社はとても忙しいという内容ばかり。


 その中で私が気になった点は、時々出てくるさくらの父親と兄の性格の悪さだ。薬師をしている兄は、さくらをいつも見下している。父親も、兄に陰陽師を継いで欲しかったと愚痴をこぼしているようだ。日記に書かれているいうことは、きっとそれ以上に言われているのだろう。

 



 ここまで読んでいて私がわかったことは3つ。1つ目は、さくらと与三郎は婚約をしているということ。2つ目は、与三郎とその家族が母をかくまっているということ。3つ目は、母が上野東照宮の巫女として働いているということ。多分、陰陽師の血と上野東照宮が交わったのはここかもしれない。





 そして、上野東照宮でさくらが召喚を行った理由も推測できた。召喚魔法はとにかく目立つ。大きな光も放つので、夜に行えば皆が気づくだろう。人を召喚できるような魔法陣を描くには、それなりの広さも必要である。


 上野東照宮は神社なので、神事を行うことが不思議ではない。召喚場所を、与三郎がさくらに提供したのだろう。また、さくらの霊力の大きさはわからない。しかし人間を召喚できるなら、強い力があるんだとだと想像できる。神事を行える場なら、その力が増幅してもおかしくない。





 さくらとお母さんは一緒に暮らしていないが、日記を読む限りかなりの頻度で会っている。さくらが与三郎と婚約関係があるから、頻繁に会いに行けたのだろう。この時代は幼い時に親同士が子どもの結婚を取り決める文化があったと、うめさんから聞いた。さくらと与三郎もそうなのだろう。陰陽師と神主という関係は、繋がっていてもおかしくないと蒼も言っていた。





 

 9月が折り返したころ、私は気になる内容の日記を読んだ。

 




 

 1635年12月28日


『すす払いの日が過ぎて、与三郎の家の掃除が終わった。これでやっと、自分の家の大掃除に取り掛かれる。

 それなのに父と兄に、1人で蔵の掃除をするように言われた。本当に誰も手伝いにこない。


 ひとりぼっち掃除する中、私はある箱が気になって開けてみた。中には、文字の書かれたかわらけが入っていた。


 神酒拝戴(しんしゅはいたい)に使われるものとは異なり、色は土色。ひびが入っておりあまり文字が読めなかった。


 加えて想像もつかないぐらい、かなり昔の物のようにも見える。読み取れる部分に書かれていたのは「呪符」のようなものに見えた。


 私は家族に内緒で、それを蔵から持ち出した』






 私はスマホで「かわらけ」とは何かを調べた。それは小さいお皿のようなもので、土器のことであった。「神酒拝戴」は神前にお供えした御神酒を、参列者でいただくこと。直会(なおらい)のはじめに、神事に参加した一同で神酒を乾杯する。と書かれていた。


 母が住んでいたのは神社だ。つまり祭祀に使われる土器なんだろう。当時ですらかなり古いと思われるものがに文字が書かれていたのだ。






 紙以外の物に、文字を書くという発想は珍しいと思う。エーデルワイスで文字は紙に書くものであり、石に文字が書かれることもあったが、それはとても古いものだ。「呪符」については以前、まじないのことだとうめさんから聞いたことがある。つまり、さくらが発見したものはまじないが書かれた皿だ。神の力を借りてお祈りするための道具に、文字を入れる。少なくとも私にはない発想だ。






 私がこの内容を読んだ日は、日曜日だった。部屋でゴロゴロしているだろう蒼に、このことを伝えようと思い、蒼の部屋をノックした。しかし応答がない。そっと扉を開けたが、そこに蒼の姿はなかった。リビングに降りると、とうめさんが「蒼は離れ」だと教えてくれた。






 蒼は学校が始まってから、休みの日は離れで過ごすことが多かった。日記の解読は私が進めているし、わからない時はスマホかうめさんに聞いていた。それでも私は、もうちょっとかまってくれてもいいのになんて思っていた。ついそんな蒼に「日記の内容よりも、離れの古い置物や壺など物の方が面白いの?」と聞いたことがある。その時の蒼は「何か見つかるかもしれないじゃん?」と笑っていた。





 きっと楽しげに離れで何かしているのだろう。そう思いながら、私は離れの中をそっと中を覗いた。ランタンのような物を置き、箱の中をゴソゴソとしていた蒼。それは私の想像していた姿と違っていて、とても真剣な面持ちの蒼がいた。魔法陣の話をしようと思って訪れた離れだったが、邪魔をしてはいけないと感じてそっと立ち去った。




 


 それからさらに数日後、私は手掛かりとなる内容にたどりついた。




 

 1636年1月15日


『年末年始は忙しく、2人に会えなかった。藤乃にかわらけの話をすると、少し考え込んで「魔法陣を何かに彫るのはどうか」と言った。そうすることで、毎回魔方陣を描かずに済む。力を込めるだけで空間をつなげることもできるのではないだろうか、という考えだった。その想像を超える考えに度肝を抜かれた』





 かわらけの発見がここにつながった。文字を書くのではなく刻むなんて、どんなに高度な技術なんだろうか。聞いたことのないアイデアに想像がつかない。私もお母さんのアイデアに度肝を抜かれた。


 もちろん発案者である母だってやったことはないはずだ。でももしそれを成し遂げていたのなら……それは世界がひっくり返るような大事件だ。



 なぜなら、エーデルワイスで魔法陣を描ける人はあまりいないからだ。人間なら、魔法学校を首席で卒業できるレベルでないと扱えない。それでも3年は修行が必要だろう。銅像が立つレベルのことなのだ、


 人間よりも基礎魔力が圧倒的に高いエルフですら、8攻撃魔法などを中心に実用的なものから学ぶ。召喚魔法の魔法陣を描ける人なんて、数少ない。私は母から攻撃魔法の魔方陣の書き方を、父から魔法陣の仕組みと構造についてを学んだ。それでも召喚魔法を行ったことはない。





 魔法陣は一度使えば消えてなくなる。それを消えないように彫ったのなら、何度でも使えるのかもしれない。とはいえ魔法陣は、小さければ小さいほど描くことが難しい。反対に大きければその大きさに比例して強い魔法を発生させることができるものの、描くのには時間をそれ相応の魔力が必要になる。


 母が空間をつなぐような巨大な魔法陣を、この世界のどこかに残したとする。だとしたら、それは隠しきれるようなものじゃない。

 




 私の頭はパンクしてしまった。というよりも、重すぎる内容に心が疲れてしまった。





 そんな私が現実逃避をしている間に、実はビックイベントを迎えようとしていた。蒼の誕生日である。



 10月のある日。ニュースを見ていたら、蒼がエクレアを買って帰ってきた。ゆうかさんは紅茶を入れながら、蒼に「2週間後の誕生日は金曜日だからケーキは土曜日でもいいか」と蒼に聞いた。「チョコレートケーキが良い」と答える蒼を見て、私は蒼の誕生日に気がついた。

 



 そういえば7月、じいちゃんの誕生日のお祝いをした時に、蒼は10月が誕生日だと言っていた気もする。じいちゃんの誕生日プレゼントは、肩たたきを頼まれた。いつでもするのにと思いながらも、一生懸命肩を揉んだ。蒼には何をプレゼントしたらよいのだろうか。お金がないし、蒼の欲しい物なんてまったくわからない。


 仕方なく私は素直にそのまま蒼に言うことにした。




 「じゃあ俺とデートしてくれない?」



 「……デートって、2人でお出かけするっていうこと?」



 「あぁ、ダメか?」



 「それはいいんだけど、普段から結構してない?」




 夏休みが明けても、蒼は時々お出かけに連れて行ってくれた。浅草でランチをしたり、ソラマチにもよく行った。森に住んでいた私は、こんなにお出かけをしたことがなかった。特別なお出かけとは何をしたらいいのか、まったく浮かばなった。




 「ローザは行ってみたいところ、ないのか?」



 「わかんない。でも蒼の誕生日なんだから、蒼が行きたいところに行こうよ」



 「じゃあさ、俺がデートプランを考えるから付き合ってくれない?」



 「もちろんいいけど。プレゼントはどうしたらいい?」



 「大丈夫、大丈夫。俺いいこと考えたわ」




 蒼はそのまま上機嫌で部屋へと行ってしまい、残された私はポカンとしていた。






 デート前日の夜、蒼はいつものように髪をしたたらせたまま部屋に来た。私は蒼の首筋にかかっているタオルを取り、蒼の頭を拭いてから髪を乾かす。髪の毛がサラサラになったのを確認した蒼は、私の方に体を向けた。





「ローザ、明日着る服は決まっているか?」



「服?特に決めてないけど」



「それじゃあ、こないだ買ったワンピースを着てくんない?」





 多分蒼は、黒地に花柄の服のことを言っているのだろう。上野のショッピングモールでなんとなく見ていたら、蒼が買ってくれた。

 

 エーデルワイスではワンピースで生活をしていたのに、この世界に来てから上下の分かれた服の楽ちんさを覚えてしまい、最近は着ていなかった。だからそのワンピースも、押入れで眠っている。良い機会だと思い了承した。





 デート当日の朝。ゆうかさんがくれたお小遣いをお財布にしまい、家を出発した。どこへ行くのか気になって蒼に聞いてみたものの、内緒とだと言って教えてもらえなかった。駅まで15分歩き、電車とバスを乗り継いで、目的地に着いたのは10時ちょうどだった。


 蒼に続いて受付を通り抜けると、そこには見たことのない景色が広がっていた。それは暗闇の中に光が躍り、きれいな花が咲いていて、水も流れる体験型のアートミュージアムだった。



 蒼は私に「何かポーズしてよ」と言って笑い、たくさんの写真を撮った。周りを見ると、みんなそうやって写真を撮りあっている。そういうものかと、私も蒼の写真をたくさん撮った。2時間足らずで一体何枚の写真を撮ったのかわからない程、撮りあいっこをした。






「いやー、めっちゃ面白かったな」



「すごく面白かった!あんな魔法使えたらいいのにな~」



「たしかにファンタジーな世界だったな」



「いつか練習するよ」



「練習すればできるのか、すごいな。ってか、そろそろおなかすかない?」



「おなかすいた。蒼は何か食べたいものある?」



「それがこちらも予約済みなんだな~」






 バスに乗って数分。向かったのはエスニックと呼ばれる料理のお店。私は食べたことはないが、蒼がこういう料理を好きなことは知っている。学校の休み時間にエスニック料理を食べにへ行き、その日食べた者の写真を見せられたことがあるからである。



 このお店で蒼はグリーンカレーを、私はフォーを注文した。すぐに料理がテーブルに運ばれ、あつあつのごはんを2人で食べる。お腹一杯になりお店を出ると、次に足を運んだ場所はガラス張りの大きな建物だ。





 ここは何をする場所なのかを聞くと、星を見ることができる場所だと言う。真っ昼間に何を言っているのかと呆れる私を置いて、蒼はどんどんと進んで行く。慌てて私も建物に入ると、中央に大きなエスカレーター、そして巨大なのオブジェクトで溢れかえっていた。蒼はスマホを見てまだ時間があると言い、展示物を見て回ることになった。





 入口に近い部屋には、たくさんのロボットが置かれていた。こちらの声掛けにリアクションしてくれたり、文字の書かれたうちわを見せると話しかけてくるロボット。つい身構えてしまう私をよそに、蒼はとても楽しそうだ。ロボットを撫でたり、つついたりして、ぐるっと3階を見終わったころ「時間だ」と言い歩きだす蒼。向かった先はプラネタリウムという場所だった。





 椅子に座り、入口で借りたメガネをかける。私はメガネが無くても見えると言ったら、蒼に魔法のメガネだからかけておけと言われた。魔力のかけらも感じないメガネを馬鹿にしていた私は、その後すぐに魔法にかかることとなる。



 目の前すべてが大きなテレビのようになっており、ナレーションとともに映像が流れだす。すると、なんと星が浮かび上がり飛んできたのだ。慌ててメガネをずらすと、映像は平面に戻る。なるほど、魔法のメガネとはこういうことかと驚いた。



 この世界に来てから「宇宙」という概念を知ったが、星々を旅しながらその誕生に触れるという内容は面白かった。30分ほどの時間だったが、とても感動的でつい目をこする私。そんな様子の私を見て、蒼はとても満足そうな顔でこちらを見ていた。





 その後プラネタリウムを出て、1時間ちょっとかけて家に帰った。夜はゆうかさんとうめさんの、お手製から揚げパーティーをした。





 チョコレートケーキを食べてお風呂に入り、私は部屋で2冊目の日記の表紙を眺める。


 楽しい時間を過ごし心に余裕ができた私は、やっぱりお母さんのことを知りたいと思った。私は日記の中の「さくらと母の生活」に自分と蒼を重ねた。私は召喚や転移についてだけではなく、母の人生を知るべきだと思った。





 スマホで今日撮った写真を眺めていると、いつも通りお風呂上りの蒼が部屋に来た。私は机の上にスマホを置き、蒼の髪を乾かす。蒼の髪は細くて柔らかい。私がそっと指で髪の毛をなぞると、蒼はびっくりした様子でこちらを見た。





 「びっくりした。なあローザ、今日は楽しかったか?」



 「うん、すごく楽しかった。蒼は?」



 「最高の誕生日になった」



 「ほんと?私ばっかりはしゃいでいた気がするんだけど」



 「マジで楽しかったって。写真もたくさん撮ったしな。俺が撮ったローザの写真、今送るよ」



 「ありがとう。私も送るね」





 すっかり使いこなしたスマホのメッセージアプリで、蒼に写真を送る。しかし蒼から送られてきた写真は、私が撮った写真の倍以上の量があった。




 「いつのまにこんなに写真を撮ったの?」



 「撮られてたのに気づかなかったのか?まあ夢中で楽しんでたもんな」



 「だって見たことのないものばっかりだったんだもん」


 

「それがかわいいなって思って撮ったんだよ。って何言ってんだ、俺……」

 



 だんだん小さくなる声と赤く染まっていく蒼の顔に、こちらまで恥ずかしくなり私も声が出なくなった。ほんの少し、沈黙が続いた。




「ま、まあ今日は楽しかった。それだけ言いたかったんだ。おやすみ」




 そう足早に部屋を去ろうとする蒼の腕を、私は無意識につかんだ。




 「あ、あのさ……昨日も言ったんだけど、その、お誕生日おめでとう」



 「あ、りがとう。ローザの誕生日も祝うからな」



 「うん。……本当にありがとう」



 「じゃあ俺寝るから」




 私はつかんでいた手を離した。






 今夜、私は現実と向き合う覚悟を改めて決めた。母の人生を知るために――。











「魔方陣を彫って空間をつなげる」という母の言葉に、言葉を失ったローザ。

読めば読むほど知らない母の姿が浮かび上がる。すごいという感心と、なぜ何も私は知らないのかという落胆の繰り返し。


しかしタイミングが良いのか悪いのか、蒼の誕生日を迎える。

散々行ってきた2人のお出かけなのに、今回するのは「デート」だと言う蒼。

蒼とローザの距離が近づいてきた奥ゆかしさに私がキュンキュンしてます。


次回12話の更新は10月25日土曜日の13時の予定です。

ぜひブックマークをしてお待ちください。

レビューやリアクション、評価は私の励みになりますので、どんどんよろしくお願いします!

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