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その血は人を狂わせる。  作者: ありま氷炎
第四章 アステライゼ
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情報屋のマリーナ

 街へ降りた商人たちは知り得た情報を仲間に伝えた。

 緘口令など引いておらず、「不死身の兵士を眠らせる少年」のことはあっという間に宿舎に広がった。


 リアムは赤毛のニキビ面のジョッシュとして、食事をしながら、「不死身の兵士を眠らせる少年」の話を聞く。

 帽子をかぶっていたため、風貌などは伝わっていない。

 声が高く、背が低く、凹凸がない体つき、男装をしていたため、少年として、レイアのことは広まっていた。

 もたらされた情報で騒ぎが起きている状態をどう治めるか、リアムはチャーリーの出方をみていた。


「静粛に。陛下がいらっしゃる」


 隊長が現れ、騒ぎ立てる兵たちを一喝する。

 すると皆シャンと座り直し、口を閉じた。

 チャーリーは自ら戦場に出ることが多く、兵士たちは彼の強さを知っている。単なる王としてではなく、強い兵士としても尊敬されている。

 王の姿が見えると一斉に頭をさげた。

 もちろん、リアムもみなと同じ動きを取る。


「顔を上げてよい。今日は皆に知らせることがある。私には娘がおり、その娘が何者かによって攫われた。王妃が殺され、私は娘を同じ目に合わせないために、彼女を隠してきた。しかし彼女は奪われ、何者かに利用されている」


 そこでチャーリーが一旦言葉を切る。

 兵士たちの脳裏には「不死身の兵士を眠らせる少年」のことが浮かぶ。


「巷で、不死身の兵士を眠らせると言われている者は、私の娘、王女レイアだ。今回の作戦は内密に王女を奪いかえす作戦だった。しかし、敵は王女を利用しており、私は王女の事を公にすることを決めた。敵は恐らくカルシア王国の滅亡を願っている。アステライゼでは亡国の王太子を担ぐ動きが出ている。王女は恐らくこやつらに利用されていると考えられる。反カルシア軍を壊滅し、王女を奪い返すために、我々はアステライゼへ向かう。皆の者、私に力を貸せ。我が国は世界最強だ」


 チャーリーが語り終わると、兵士たちが立ち上がり、声を上げ始める。

 それはチャーリーを讃えるものに代わり、リアムは疑われないように同様に声を上げた。



「セオ、レイアと共にここに残りなさい。偵察は私一人で十分です」


 テイラーにそう言われ、セオは一瞬不服そうな顔をしたが了承した。

 レイア一人をこの貧民街の一角に置いていけるわけがないし、彼女を連れて偵察など無理だった。


「帰りに揚げパンを買ってきてあげましょう。あればですが」

「ありがとうございます」


 セオよりもレイアは顔を輝かせ、礼を言う。

 テイラーはその笑顔を眩しく感じてすぐに顔を背けた。

 

「それでは私は出かけます。セオ、頼みましたよ」

「わかってるよ」


 胸をどんと叩き、セオは返事をした。

 テイラーは後ろ髪引かれる思いで、家を出て、街の中心部に向かう。時間は太陽が沈み始めた頃で、夜の店が開き始める時間だった。


「いい男だね。安くするよ」


 街角で立ってる女性に話しかけ、それを交わしながら道を進む。

 客の多くは、兵士のようだった。


「うるせーな。これだけ払うって言ってんだろ!」


 そんな声が聞こえてきて、制服を着崩れさせた兵士が女性の腕を引っ張っていた。


「アタシは、売ってないんだよ!」


 どうやら、性を売る商売をしていない女に金を払い、どこかに連れて行こうとしているようだった。

 兵士に喧嘩を売るのは偵察している身で愚かなこと。

 しかもその女は外の人間、自分とは何も関係がない。

 なので、テイラーは見て見ない振りをした。

 背後で悲鳴が上がるが、彼は聞こえない振りをして前を進む。

 そのうち、男の声が上がった。


「いてて、放せ!俺を誰だと思っている」

「カルシアのクソ兵士だろ。自分では戦わず不死身の兵士に戦わせる弱虫野郎だ」

「なんだと!」


 女側に味方が現れ、その両者間で争いが起きた。

 それは周りの兵士を巻き込み大きくなる。

 女側も、その男だけでなく、何人もの屈強な男が現れた。

 

「貴様ら、反カルシア軍だな?いいだろう。俺たちが相手にしてやる」


 兵士の一人がにやりと笑い、小剣を鞘から取り出す。それは赤黒く、何かが滴り落ちている。


「毒薬か!卑怯者が!」

「逃げろ!不死身の兵士に変えられるぞ!」


 女と共に助けに現れた男たち、商売をしていた女たちが逃げ惑う。

 そこに兵士が小剣を投げた。

 一人の女性が小剣を背中に受けて、倒れ込んだ。


「エラ!」


 彼女の仲間が立ち止まり、近づく。

 刺された女性は立ち上がると、仲間だった女性を殴りつけた。玩具のように女性は飛んでいき、どさっと地面に落ちる。


「あはは!素直に俺についてくれば、不死身の兵士になんてならなくて済んだのによ」


 カルシア王国の兵士達は下卑た笑い声をあげ、逃げ惑う人々を狂ったように追いかける『不死身の兵士』を眺めている。

 胸糞の悪い場面だった。

 テイラーは少しだけ罪悪感に駆られてもいた。

 あの時女を助けていたら、少なくても彼女は『不死身の兵士』になることはなかったのではないかと。

 目立つのは自殺行為だ。

 けれども彼は動いた。

 『不死身の兵士』の首を掻っ切り、機能停止させた。

 その上、その場の兵士たち五人すべてを殺した。

 その中には門番をしていた兵士も含まれていた。


「ありがとうございます!」


 生き残った者が集まり、テイラーにお礼を言う。


「あれ、あなた!」


 聞いたことがある声がして、振り向くとそこにいたのはマリーナだった。

 戦闘に参加しようとしていたのか、随分勇ましい恰好をしていた。



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