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2 きっかけ


「イザベル」

「チャーリー様」

「様はいらないっていってるだろ」

「でも、」


 チャーリーは誘拐され、犯人から逃げる時に無我夢中で森の迷い込んだようだった。

 偶然に出会った人がチャーリーの実家を知っており、彼は馬車と船を乗り継いでチャーリー達を実家に届けた。

 イザベルは初めて見る馬車、すべてが見新しく、森に戻ると言いながらもチャーリーと共に行動し、ついに森から遠く離れたタリアナ大陸まで足を延ばしてしまった。

 チャーリーはタリアナ大陸の海岸沿いの領地、ザッハルト領を治めるシルフィード伯爵の子息であった。

 領地は貿易で栄えており、彼らを助けた旅人は謝礼を目当てにザッハルト領、シルフィード伯爵の元へチャーリーを届けた。行方不明になった跡取りを送ってくれた彼には多大は謝礼が払われ、彼は満面の笑顔で帰っていった。

 森の民とは伝えないでくれとイザベルに頼まれ、チャーリーは彼女の出身をぼかして伝えた。

 それでもどこの馬の骨であることには変わらないので、シルフィード伯爵はイザベルのことを邪険にした。しかしチャーリーが激高して、それ以来、目に見えて彼女を邪険することはなかった。

 しかし平民である彼女を貴族と同等に扱うことはできない。

 なので側仕えの一人として、イザベルはチャーリーの側に置かれた。

 日々珍しいことにイザベルは驚き、環境に慣れていく。

 世界の理も学び、読み書きも覚える。

 そうして二年が過ぎた日、異変が起きた。

 突如、領内で人が獣のように暴れたのだ。最初は力で抑えようとしていたが埒があかず、とうとう殺してしまった。その狂った人間は感覚もないらしく、殴っても腕を折っても痛みを感じる様子もなく動き続けたという話であった。

 この話は領民を恐怖に陥れた。

 しかしそれから半年の間、そのようなものが現れることもなく、人々はおかしな話を忘れていった。

 ただ一人を除いては。


 現シルフィード伯爵には弟マルクがおり、学者であった。

 彼は歴史、医学、薬学、軍事学など様々なことを研究していた。中でも百五年前に起きた世界大戦に興味があった。

 その戦いにおいて兵士は痛みを感じることなく、戦い続けたという。

 今回領内で起きた事件、痛みを感じない、凶暴性がある人間性、動きを止めるには殺すしかなかったという類似点に興味を持った。

 他にも、百五十年前、原因と思われた一族がおり、その容姿は黒髪黒目であることに注目した。

 領内で突然人がおかしくなり、黒髪黒目の女性が屋敷にはいる。

 彼がイザベルに興味を持つのは当然だった。

 そして彼女に内緒で実験を試みた。

 彼女に剃刀の入った手紙を開けさせ、指を傷つけさせる。その血を布で拭き、それを罪人に傷口に直接当ててみた。

 マルクは勘に頼り、この方法を取った。

 効果は直ぐに出て、罪人は暴れ、マルクは気がふれたと言って、狂った罪人を処理した。

 罪人などに構うわけがなく、誰も彼の実験に気が付かなかった。

 確証を得るためにさらに実験をしようと試みたのだが、チャーリーが叔父マルクの行動に気が付き、止めた。

 彼女の血が人を狂わせるとマルクがチャーリーを説得しようとしたのだが、チャーリーは叔父の言葉を信じなかった。 

 その上、自身が証明すると、彼女の血を舐めた。

 その結果、チャーリーに何の変化もなかっため、マルクは実験を断念した。

 チャーリーは叔父がまだ諦めていないと確信しており、父に頼み彼を領地の端に追いやった。


「……やっぱりだ」


 領地にイザベルと共に戻ってから三年、あの実験から半年。

 チャーリーは自分の変化に気が付いた。

 力が強くなり、体が丈夫になっていた。

 身長の伸びも早く、十三歳にしてすでに父の身長は越していた。

 成長期、それで周りは誤魔化された。

 けれどもチャーリーは自身の異常な変化に気が付いていた。

 けれども、その変化は彼に自信を持たせた。

 イザベルとは実質四歳差があり、子供である自身が嫌で堪らなかった。

 早くイザベルを釣り合うようになり、彼女を独占したいという想いがあった。

 イザベルは領民よりも華奢であり、可愛らしいと男たちの中では人気であった。

 チャーリーのお気に入りであるが、身分差も歳の差もある。

 なので、使用人が彼女を口説く姿を見ると気が焦った。


 十三歳の今、チャーリーは身長は高く、ガタイも立派になっており、イザベルと四歳の差があるようには見えなかった。

 なのでチャーリーは積極的にイザベルに想いを伝えた。

 こうなると使用人たちも次期領主の想い人にちょっかいなどかけれるはずがない。

 したがって、彼女の周りから男の影が消えた。

 チャーリーの父は苦々しく思いながらも、愛人にするのであれば構わないと放置していた。


 そんな矢先、ザッハルト領に隣国が侵攻してきた。

 チャーリーの父は隣国の兵力差を考え、王に援軍を打診した。しかし、王は王都を守ることを第一にして援軍を出さなかった。

 ザッハルト領は隣国に蹂躙され、チャーリーたちが住んでいる首都にまで手を伸ばしてきた。

 シルフィード伯爵を自ら馬を駆り、兵を率いた。

 けれども兵力差はどうにもできない。

 数日後、屋敷の敷地内へ兵士が侵入してきた。

 チャーリーは自分も戦えると主張したのだが、彼は次期領主であり、シルフィード伯爵の生死がわからぬ今、領主代理である。

 なので、護衛兵士は彼を守ることを第一にした。

 屋敷を襲った兵士たちは、酷いもので、女性を襲い殺す前に犯す者もいた。

 それを目の当たりに見て、チャーリーは呆然としてしまった。

 そして兵士の魔の手がイザベルに伸び、彼は護衛兵士を振り切って彼女を助けようとした。

 抵抗した彼女を大人しくするため、兵士が彼女の頬を殴った。頬が切れ、血が流れる。兵士は大人しくなった彼女の服を引き裂き、事を成そうとした。護衛兵士の制止をきかず、チャーリーは咆哮をあげ、兵士に殴りかかろうとした。

 その時異変が起きた。

 兵士が突然奇声をあげ、仲間に襲い掛かったのだ。

 意味がわからぬまま、防戦一方の兵士。

 しかし、異常な力を持つ攻撃に兵士は耐えられず撲殺される。その後、狂った兵士はまた別の兵士を襲う。 

 仲間を殺すことはできない。

 けれども異常な様子、一人は殺された状況でとうとう兵士は反撃をし始めた。

 けれども腕を切られても、足を切られても、その兵士は動きを止めなかった。


「あ、悪魔だ!不死身か!」


 兵士は叫び声をあげ、逃げ出す。

 それを見て他の兵士たちも強硬状態に陥った。

 狂った兵士は仲間たちを追いかけ、殺そうとする。

 状況は混乱していたが、これはチャーリーにとっては好奇で、呆然としているイザベルを保護した。

 護衛兵士が彼女に身に着けていたマントをかぶせようとして、チャーリーはきつく制止した。


「も、申し訳ありません」


 嫉妬の上の行動だと勘違いして、護衛兵士は謝り、代わりにチャーリーに己のマントを渡した。


「ごめん。ありがとう」


 チャーリーはマントをイザベルに被せた。

 彼女は怯えて顔をして小刻みに震えていた。


「痛いよね。大丈夫だから」


 チャーリーはマント越しに彼女を抱きしめる。

 彼も彼女同様震えていた。

 それは、隣国の兵士に襲われた恐怖ではなかった。

 イザベルの血が、兵士を狂わせた。

 その事実に愕然としていたのだ。


「イザベル。大丈夫。僕が守る。君を絶対に」


 彼女がどんな存在であれ、チャーリーの愛は変わらない。

 しかも彼女の血はチャーリーに悪影響を与えない。

 むしろ好影響だ。

 なので彼は彼女を優しくなで、そうつぶやいた。



 

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