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始まり。

 森の民は外の人間を狂わせる。

 だから森の民は決して外の人間と交わってはいけない。

 これは、森の民の掟であり、過去百五十年破られたことがなかった。

 外の人間を見たら、隠れる。

 見つかってしまったら、排除。

 森の民はそうして生きてきた。


「やっぱりあったわ」


 森の民の特徴は黒髪に黒い瞳。

 今年で十四歳になるイザベルもそうで、黒い瞳を輝かせながら、見つけたばかりの野苺を口にする。


「甘い。少し遠くまできてよかった。みんなも呼んで来よう」


 森の民は森深くに村を築き、生計を経てている。

 村を出て狩りに行くのは、訓練をした男たち。

 どうしても村の外にいく時は、狩りの経験が豊富な男たちが同行する。

 この日は、イザベルともう二人の娘三人で、茸、果実、山菜を取るため、村の外に出た。護衛するのは二人の屈強な若者だ。

 外の人間に遭遇した森の民はここ十年ほどいなかったため、護衛する若者も油断していた。

 また若者二人と娘二人は気心がしれていたため、戯れながら、まるで逢引でもしてるかのように森を散策する。

 森の奥深く、四人の笑い声が森に木霊する。

 ただ一人、イザベルだけが山菜や茸収穫に集中していた。

 彼女は料理が好きで、村の外にでて素材を集めるのが好きだった。

 おしゃべりに夢中になる四人の若者たち、イザベルがどんどん遠く行くことに気がつく者はいなかった。


「たす、けて」


 皆を呼びにいくため、戻ろうしたとき、か細い声がした。

 そこにいたのは十歳くらいの少年で、体にいくつもの傷を負っていた。朦朧としながら、助けを呼んでいる。


「外の人間……」


 少年は金色の髪に青い瞳の美しい外見をしていた。

 初めてみる色彩の人間にイザベルは驚いていたが、すぐに怪我をしているを思い出して駆け寄る。


「だ、大丈夫?」

「う、うん?」


 イザベルは周りを見渡し、血止めや消毒に仕えそうな薬草を集めた。


「イザベル!」


 若者たちが姿が見えないイザベルに気が付き、探しにきたのは彼女が傷ついた美しい少年を介抱しているところだった。


 外の人間に関わってはいけない。

 それは村の掟だ。

 けれども、目の前にいる外の人間は十歳程度の少年で、傷ついている。

 だから、四人はイザベルの行動を非難できなかった。

 村に連れて帰るか帰らないかで揉めたが、結局村に連れて帰ることにした。


「捨てろ!」

「殺せ!」


 少年を連れ戻った一行を取り囲み、村人たちは非難する。

 中には武器を取り、少年の首を今すぐ切り落とそうというもの、矢をつがえ少年の心の臓を狙うものなどもいた。

 意識を取り戻した少年は怯え、イザベルに抱き着いた。

 彼女は抱き返して、村人を一斉に睨んだ。


「こんな小さい子を殺そうとするなんて、酷すぎる。私はこの子の怪我を治したら森の外に送るつもりです」


 イザベルは宣言したが賛同する者はなく、仕方なく彼女は村を出ていき、暮らすことになった。

 何度も村の外に出ていたので、獣道も知っており、それを避けて彼女は住処を作る。

 村人の中には少年に同情する者もいて、食べ物や衣服をこっそり届けるものもいた。

 そうした温情を得て、イザベルは少年の看病を続け、三か月後にはすっかり傷は癒えていた。


「チャーリー。もう大丈夫だから。森の外に送ってあげるね」


 森の民は外の人間を狂わせる。

 百五十前の大悲劇、森の民に狂わされた外の人間が互いに争い、外の世界は戦にまみれた。

 原因が森の民だとわかると、外の人間は森の民を迫害して、根絶やしにしようとした。

 そのため、世界の端の森に逃げ込んだ。

 再び悲劇が起きないため、森の民は外に出てはいけない。


 これは村の子供たちが小さい時から繰り返し聞かされる話だ。

 なのでイザベルには外に出るという考えはなかった。

 むしろ、チャーリーを狂わせるのではないかと、元気になった彼を見て心配するようになったくらいだった。


「イザベルも一緒に行こう。僕の家は大きいんだ。イザベル一人くらい増えても大丈夫だから」


 チャーリーからイザベルは外の世界の話を沢山聞いて、興味を持ち始めていた。

 しかし、小さい時から植え付けられた教えはそんなことでは消えない。

 なので、イザベルは嫌がるチャーリーを連れて、どうにか森の外に出た。


「私もここまで来たのは初めてなの。でもきっと他の外の人間が見つけてくれるから。大丈夫」

「イザベル!」


 元気になったらチャーリーとはお別れ。 

 森の民は外の人間と暮らせない。

 これは何度も彼に聞かせた話だ。

 チャーリーは最初森に戻ってこようとしていたが、諦めてようで、足を前に進める。

 それにほっとしてイザベルは森へ引き返した。

 けれども数歩歩いたところで、チャーリーの悲鳴を聞く。

 彼女は慌てて元の場所に戻った。

 すると狼が彼を襲っており、イザベルは矢を放ち、狼を殺した。


「イザベル!」

「チャーリー!」


 チャーリーが泣きながらイザベルの胸に飛び込み、イザベルはそれを抱きしめた。

 彼を一人にしておけない。

 だけど、彼を森には戻せない。

 そう思い、イザベルは掟を破ることにした。

 けれども彼女は直ぐに森に戻ってくるつもりだった。

 チャーリーを外の人間の手に預けたら、すぐに森に戻る。

 だから大丈夫。

 彼女は軽く考え、チャーリーの手を取って、森の外に出た。


 これが悲劇の始まりで、彼女が森に戻ってくることは二度となかった。








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