96話 人の噂も五十三次。
酒場で夕食タイム。
メニューは魚介の煮込み料理だな。うまし。
ただ、なぜか個室での食事である。
酒場に個室があることを初めて知ったよ。
「それで、聞きたいことは何かのう?」
席にはマスターが同席している。
マスターがカウンターから出てきたのも初めて見たよ。
「今日、海岸でおかしな連中に絡まれましたのよ。何か変わったことでもありまして?」
話の主導は当然のようにエレメア。まあ、こっちにふられても困るけども。
なんか、個室とか取り慣れてる感じだな、こいつ。
「帝国の間者じゃろうのう。最近増えておるな」
なんか、あっさり答えてくれるマスター。
情報料の交渉とかするのかと思ったけど、しないみたい。
「地元の若者に見えたのだけれど。三人組で、一人はテッちゃんと呼ばれていましたわ」
「ゴレオンのとこの若いのじゃろ。あそこは帝国との取引きも多い」
「帝国が私に、今さら何の用があるのかしら?」
まあ、お前も結構なトラブルメーカーだよな。目立つってだけでトラブルというのは起きるものなんだよ。チンピラってのは自分が目立つためには何でもするからな。
「最近、お前さんたちの噂も多くてのう。何もせずとも良く耳に入ってくるわい」
本当、巻き込まれるこっちの身にもなってほしいものだよな。
「どんな噂ですかしら?」
まったく、自覚も持っていないとは。かなり重症だぞ、うん。
「なにやら、新しく街を作っておるそうじゃの。そこで特殊な軍隊を育成しているとか噂になっておるぞ」
……ドラスレ君の青年団のことかな?
「新しく人材育成のための学園を作っているという話も聞こえてくるの。軍隊説と、どっちが正しいのかと議論にもなっておる」
学校なんて作ってたの? 知らんかった。
「なんでも、新しい農作物や料理が売られるようになったり、本が安価で流通したり、というのが根拠じゃと。秘密の校舎がどこかに建っていると噂になっておる」
……それな。噂になるほどなんだね。さすがだな、領主様の経営手腕。
「一方で、ストンフォレストから空を飛ぶ魔獣の活動が活発になっていて、それに関わっているのではないかという噂もあっての。不安に思っている住民も多いのじゃが、実際のところどうなんじゃ?」
まあ多分、黒いのとかが目撃されてるのかなぁ。知らんけど。
「山の方から、聞いたこともない叫び声が聞こえたなんて話も聞くのじゃが」
……ナンデショウネ?
「そして極めつけが、最近東側4ヵ国で秘密裏に首脳会談が行われたという噂も流れておってな。帝国は随分と神経を尖らせておる様子じゃぞ」
ああ、あったねぇ、おっさん会議。
「その中心で活動しているのが、あんたらのパーティじゃということになっておる」
そうね。東側4ヵ国多国籍パーティーだもんな。そりゃあ仕方がない。
「最近、近辺の賞金首も、片端から処理されたそうじゃないか。ある程度は根拠のある話なんじゃろう?」
そういって、言葉を止め、こちらを観察する様子のマスター。
情報提供に見せかけて、こっちを探っていたらしい。
「そうね、とりあえず……」
エレメアが杖を構えると、それを俺に向ける。
「会うのが初めてでしょうから、紹介しますわね。今の噂全部の原因になっているのがこの男ですわ」
そんな紹介の仕方はやめてくれ。




