95話 港町に潜む闇。
土遁、アースハイド。
アースシェルの応用である。
自分自身をアースシェルで囲むと同時に足元にアースホールで穴を開けて落下。
上の地面を均してカモフラージュすれば完成である。
もちろん、それだけでは近くで見ている人にはバレバレなので、煙幕が必要になる。
先日作ったバイオディーゼル爆弾が役に立った。
採石場でポージングした背後に使うやつね。
専門用語で、セメントと呼ばれるらしい。
「逃げ隠れしなくても、今のあなたでしたらあのくらいの連中はどうとでもなりますでしょうに」
「人を尖ったバイクで走るナイフみたいに言うな。俺は平和主義者だ」
それにまあ、神様からもらったこの力を、暴力に使うのって、なんか違うと思うんだよな。
石長比売様に会ったことがあるわけでも無いのだけれども。
ただ、なんとなく、争い事は嫌いな神様なんじゃないかと思う。
なんとなーくね。
「それで、アースハイド、は判りますけれど、その前のドトン、というのは何ですの? 呪文とも違う様に聞こえますけれど、それ要りますのかしら?」
「様式美だ。世の中にはな、一見不要と思えたとしても、とても重要なものがあるんだよ」
あるのだよ。うん。
手回し式電灯もアースアクチュエータで動く電灯に改良していて、ストーンシェル内での灯りにしているのだが、ゆっくり寛ぐには向かないな、これ。
脳が疲れる。
空気穴を開けて、バイオディーゼルを使ったランプを灯す。
ランプと言っても、あれだ。アラジンのランプ。
燃料を入れたポットに、芯になる紐を付けて、芯の先に着火する。
着火作業も楽になったものだ。マグマの一垂らしで簡単に火が着くからなぁ。
この世界に着たばかりの頃のサバイバル状態が懐かしい。
「いったい、私たちはいつまで隠れていれば良いのかしら?」
「どうせ、もう夜だし、このまま寝ちまえばよくないか? 仕切り作るし」
「もう、外には誰も居ないでしょうに」
まあ、その辺はアースサーチで確認できる、のだが。
「宿に泊まっても、連中が探しに回ってるんじゃないかなあ? あれってナンパの振りをしてたけど、エレメアのこと狙って誘拐かなんか企んでたよな?」
人の事をさんざん不審者だの問題児だのと言っておいて、結局お前がトラブルの原因じゃないか。
「あら、聡いですわね。どこでそう考えたのか、聞いても宜しくって?」
「そもそも、俺とお前が親子に見えるかっての」
最初から、関係者だって知っていたのも、喧嘩を吹っ掛ける前提だったのも明白だったな。
事前に準備した台詞を喋ってる感じだった。
「まあ、テンプレ全開のただの脳筋ナンパ集団って線も無かった訳じゃないけど、追えとか、逃がしたら殺されるとか、あれは完全に黒だろ」
「まあ、確かに御粗末でしたわね」
こいつが、自分で手を出さずに様子見してたのもあるしな。
「でも、ちゃんと宿には心当たりがありますから、大丈夫でしてよ。安全なのは保証しますわ」
「ふーん、じゃあ、そこに行くか」
俺だって、好き好んで野宿したいわけでもないし。
「あー、ほら酒場があったよ、ほらなっ」
連れて来られたのは、見覚えのあるスイングドアだ。
「ほら、カウンターにマスターがいるよ、ほらなっ」
カウンターに座っている顔はいつもの酒場のマスターだ。
「今度は何だ? 三笑亭か? 松竹亭か?」
「なにをヤサグレてますの。店の名前は東亭。マスターはヨハンさんのお父様でヤンガスさんですわよ。顔のシワも多いでしょうに。髪もお髭も白いですし」
「シワとか髭で見えてないだろうが。そういうのは色違いって言うんだよっ」
「あなたが何に腹を立てているのかが解りませんわ」
……別に腹を立てている訳ではないけど。
ああ、もやもやするっ。
「いらっしゃい、泊まりかの」
「二名で一晩、二部屋をお願いしますわ」




