94話 水遁の術。
海岸で上着を脱ぐ。
水中メガネをアースクリエイトして装着。
シュノーケルを、クリエイトした蛇腹金属のホースで伸ばす。
5mもあれば良いかな?
ホースの先を桶のような小舟を作って空中固定。
5mなんて潜ったら、水圧で肺が締め付けられて呼吸は出来なくなるので、口回りに空気を圧縮するポンプを作る。アースアクチュエータに慣れておいたのが役立つな。神通力駆動である。
とはいえ、トラブルが起きる可能性は否定できない。緊急浮上とかしたら、潜水病が怖い。5mくらいならギリ大丈夫とは思うが。
なので、空気を密封したストーンシェルを持って行くことにする。
試してみたところ、海底に触れてさえいれば、大地収納は使えたからだ。海底を歩く感じで行動することになるが、安全第一である。
「ちょっと潜ってくるな」
「……またあなたは、まったく」
「そんな遠くまでは行かないよ。この船の浮いてる下に居るから」
さすがに、付いてくると言われると難しい。
「解りましたわ。ここで待っていますから、椅子と日除けを作ってくださいまし」
お安いご用だ。
ビーチチェアとビーチパラソルをクリエイト。
それっぽい形をした石製だけど。
冷やした果実汁をグラスに入れてストローを添える。
そういえばこの世界って、水着とかあるんだろうか?
まあ、別にエレメアに着ろと言いたいわけでもないのだけれど、完成度の低さがちょっと気になるというか。
ちょっとだけな。
何はともあれ、昆布採りである。
昆布以外でも、ワカメに海苔、貝類やエビ、カニなんかもいるかもしれない。
海の中なら人目を気にせず石化収納できるしな。
まあ、近隣住民の目もあるし、カモフラージュも兼ねて昆布干しもしておく。
海岸に物干し竿を作って、採った昆布を天日干ししておけばそれで良い。
エレメアという監視員もいるし、昆布を盗もうとするような連中も居なかろう。
久しぶりの労働は気持ちが良いなぁ。
おや、なにやら人が来ているな。エレメアが話をしている様子だ。
昆布採りで苦情でも来たなら、応対せねばなるまい。
「だからさぁ、楽しいところ案内するからさ」
「そそっ、一人でいてもつまんないでしょ」
「俺たち、この辺詳しいからさ」
……さて、作業に戻るか。と引き返そうとした俺の後頭部に衝撃が走る。
ゴスッときた。
グラス投げんなや。割れなかった分、打撃力が貫通したじゃないか。
「ごめんなさいね、連れがいますのよ」
なに、あの猫かぶりな対応。気持ち悪っ。
ナンパ三人組は俺に気づいた様子で、エレメアに背を向けたとたん、その顔には暴力の雰囲気が浮かぶ。要するに、俺に向かって凄んでいる。
「なに、おっさん、この子の親?」
「娘さん、ちょーっとお借りしたいんデスケドー」
ゆっくりと与太ってくるので、取り囲まれる前に、迂回してエレメアのところへ。
「一応聞いておくけど、お前の友達?」
「違いますわよ。見れば判りますでしょう」
友達ではない、と。すると……。
「お前の親戚とか?」
「無関係ですわよっ。会ったことも見たこともありませんわっ」
そうか、じゃあ。
「バイトとして雇ったとか、そういう……」
「しつこいですわっ。あれは迷惑なナンパで、困ってましたのっ。あなたが私を庇って、ちょちょいと殴り倒せば、それで済みますのよっ。世のため人のためにもなる善行ですことよっ」
酷い言われようだな。哀の三人組よ。
「はーん、何? やっちゃうの?」
「あーあー、テッちゃん本気出しちゃうー?」
「おっさん死んだなー」
海辺の住民らしく、浅黒い肌に労働で鍛えたらしき筋肉質の体つき。
真面目に仕事してそうな雰囲気もあるのに、なぜ女の趣味はコレなんだろう?
まあ、モテないから拗らせちゃったのかなぁ。
もしかしたら、男女比率が片寄ってるとかあるのかもね。
おっと、いつまでも余裕ぶっこいてもいられないか。三人のうち二人はこちらを取り囲みつつも傍観の様子。一人だけが距離を詰めてくる。
多分、この子がテッちゃん。
「おらぁっ」
拳を振り上げて半身になったと思ったら、そのままステップを踏むように振り下ろしてくる。
足から腰、胸、腕とひねりを効かせてますな。
「土遁、アースハイド」
俺とエレメアを中心として巻き上がる砂と煙。
目標を見失ってテッちゃんの拳は空振り。大量の砂を顔に浴びて涙目になる。
「ぐはっ、くそっ、目に砂がっ」
「大丈夫かよ、おい」
「おい、あいつら、いねえぞ」
「なにぃ」
あたりは障害物のほとんど無い砂浜だが、俺たちの姿はそのどこにもない。
「ちくしょう、逃げやがった」
「やべえよ、オジキに殺されるぞ」
「とにかく、追えっ。まだ近くにいるはずだっ」
バタバタと砂浜を越えて街の方へ走って行く。
あとには夕日に照らされながら、風に吹かれて揺れる昆布だけが残された。




