93話 港町。
港町ウィステラソンは貿易港であり、漁村でもある。
貿易と言っても外大陸ではなく、主に北にあるサウザンド国だ。
海に遠く漕ぎ出せばそこは魔物の巣窟であり、ジェル島の海岸に沿って細々と交易をしているのが実態である。
ただそれだけでも命がけというのだから、つくづく危険な世界だ。
まあ、ストンフォレストがあることで、隣国といえども国境はかなりの範囲で隔絶されている。
そういう意味では、ハンドレット国は陸の孤島のような位置付けだな。
地政学的には半島に近いのかも知れない。
知らんけど。
特産品はもちろん海産物だ。
早速、海辺に並ぶ露天を散策する。
貿易品に関しては、結局ファーレンにも来るからな。目新しくもない。
「んー、しょっぱい」
海の水をひと舐め。
正確には判らないが、塩分濃度は地球とそう変わらないのではないだろうか。
とすれば、3~4%ってところか。
変なところで、地球と似通ってるんだよな、この世界。
問題なく呼吸が出来ているからには酸素濃度や空気の成分も近いのだろうし、太陽や月も違和感がない。
月の大きさすら、腕を伸ばしたときの親指でちょうど隠れるくらい、と同じなのである。
衛星っていうのは丸くないものも結構あるはずなんだがしっかりと円状に満月がある。
冬になったら、オリオン座でも探してみようか。さすがにそこまでは無いと思うが。
夏の大三角? 見ても判らないんだよなぁ。
隣で寝そべって教えてくれる彼女とかいなかったもの。
「いきなり、海の水を飲まないで頂けるかしら? 飲み物ではなくってよ?」
またこいつは、俺のする事成す事、何でも奇行扱いしおってからに。
「海水が塩辛いのは知ってるよ。確認しただけだ」
こういう、地道な情報収集が大事なんだよ。
まあ、それはさておき、魚介だ魚介。
片っ端から買っていくぜ。
見たところ、あまり大きな魚は無い様子。マグロとか鯨とか。
大きいのは鮭かな? トゲ生えてるけど。
ま、売っていたとしても一匹一千万円以上するようなのが買えるわけでもない。そもそも、露天では売らないだろう。
「そんなに買い込んで、腐りますわよ?」
「収納があるから、大丈夫だっ」
俺を止められるものなど何もないのだっ。
「……ああ、そうですの」
そうなのだっ。
を、この壺に入っているのは魚醤か!
干物も売ってるな。
「親父、一つずつ全部くれ」
「あいよ、まいど。旅行土産かい?」
ねじり鉢巻をして上半身裸エプロンの親父が店主か。裸エプロンの需要はないな。
「昆布とか、タコとかイカとか、ナマコとかウニとかは売ってないのか?」
「あんた、帝国の人かい? こっちじゃ食べないもんでな、捕れても海に返しちまうよ」
なんともったいない。
「食いたいなら、自分で取ればいいさ」
ほう、それは良いことを聞いた。
とりあえず、昆布だけでも取っていこう。




