91話 二人旅
さて、では試運転をかねて、前々から行こう行こうと思っていた港町ウィステラソンへ行こうと思う。食材探しに。
負荷をかけて長距離を走ってみて、超音波モーターを動かすのに慣れようという意図でもある。
というか、超音波でもモーターでもないんだよなあ、これ。厳密には。
アースアクチュエータってところか。
まあ、疲れたらスターリングエンジン版に切り替えれば良いし、のんびり一人旅でも、と思っていたのだけれど。
「今回は、私がお目付け役ですわね。席を増やしなさい」
と、なぜかエレメアが、追加した後ろ座席にいる。
「えーと、結局なんで付いてきたの?」
何度聞いてもはぐらかされるのだが、さすがに沈黙したまま走り続けるのはきつい。
予定では片道二日。途中で野宿が入って、向こうで一日過ごし、帰るのにもう二日かけるつもりだったのだ。
「お目付け役と何度も言いましたわ。記憶がないのかしら?」
「いや、なんでお前が俺の保護者みたいになってるんだ、と聞いてるんだよ」
「あなたはもう少し、自分が周囲からどう評価されているか、ということについて、考えるべきだと思いますわ」
「ほう、じゃあ教えてくれ。俺はどう評価されているんだ?」
聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥。
聞いたからにはちゃんと答えてもらおう。
「そうですわね。端的に言えば不審者かしら?」
「まてや、俺のどこが……」
いや、異世界出身なのはバレていたか。しかし。
「ここで重要なのは客観的評価だ。どこが不審者だというのか」
「そうですわねぇ」
ふん、考えるそぶりをして見せても無駄だ。俺は不当な悪評には断固として抗議する。
「おかしな爆音を響かせて、住人から苦情が来そう、とか」
ぐ、いや、確かにあれは悪かった。だが、もうしない。だからオーケーだ。
「いきなり大きな建造物を作っては、飛び降りを繰り返して、気味悪がられたり、とか」
まて、あれは意義のあるテストじゃないか。科学の進歩を馬鹿にするな。と、思いたい。
「ドラゴンを引き連れて、街を破壊しそう、とか」
うぬぅ。それは俺の責任ではない気がするのだが。ノーカンだノーカン。
「貴族とトラブルを起こして、勾留されそう、とか」
むむむ。向こうが難癖をつけて来るのはしょうがないんじゃないか、と……。
「街の入り口で、おかしな乗り物を見咎められて、戦争とか起こしそう、あたりですわね」
「……すみませんでした。付いてきて下さってとても嬉しゅうございます」
「どういたしまして」
まあ、何かあったら、こいつに処理は丸投げしよう。そうしよう。
「でも、そういうのって、いつもはシンディの役なんじゃないのか?」
「当たり前のように言わないで欲しいのだけれど。シンディだって好きでやってるわけではなくってよ」
でもまあ、この国はシンディの地元だしな。
だから、睨まないでくれ。
「シンディは今、王都に行ってますわ」
「へえ、珍しいな、別行動とか」
「今は冒険者の仕事よりも、街の整備なんかの方が忙しいですもの」
それは知ってる。
具体的に何をしてるかまでは知らんけど。
「ちなみに、アイリスやユキでないのは何でなんだ?」
「私だと、不満だとでも?」
「そうじゃないっ。そうじゃないから、杖を降ろせ。単になんでかと思っただけで、他意はないっ」
運転中に危ないだろうが。
「アイリスではまだ保護者には早いですわよ。あの子、しっかりしていても未成年ですもの」
未成年かどうかよりも、出自のほうが問題だと思うんだけどなぁ。
「ユキは、あなたと二人には出来ないでしょう。死にたいのかしら?」
「何もしねえよっ」
どれだけ信用無いんだよ。
「何かの拍子ということもあり得ますでしょ。あの子は男に触れられると反射的に攻撃する癖がありますもの。拳ならともかく、爪やナイフが出ると命に関わりますわね」
何の拍子もねえよ……と言いたかったが、え? マジ? あいつそんな危険人物なの?
ってか、それを癖の一言で済ませるな。
「だから、私が来たことを感謝なさいな」
「へいへい」
そう言われたら、一番マシと思えてくる不思議。
本当か? 思考がバグってないか?
「だから、今日の夕食には、辛いものを用意なさい」
……は?




