88話 パワーアップ
パワーアップしたい。
何の話かと言えば、マイ・カーである。
もともと、勢いで作った急造品だしなあ。
今のままでも、玩具っぽくて逆に良さもあるのだけれど、パワー不足を解消できるなら、できるに越したことはない。
まあ、使い分けだな。
なので、もっとしっかりしたエンジンが作れないかと思うのだ。内燃機関にするとか。
「とはいえ、ガソリンが手に入るかというと……」
臭い水とか、燃える水とか言ったら、ニーナが探してきてくれたりするだろうか?
「無理だな。食べ物じゃないし」
むしろ、ドラゴンの喉に溜まった痰が燃えるとか言われるまである。
そんなものを燃料にするのは嫌だ。
知らんけど。
「やはり、食べ物で行くべきか」
石化収納で増やして使う分には、食料生産に影響したりもしないだろう。
一度作ってしまえば、容器にいれて石化コピーで増やせば良いのだから。
そんなわけで、用意しました。
穀物。
木屑。
お酒。
まあ、お酒も原料は穀物なわけだけど、さすがに店で買ってきた。神通力だと発酵とかできないからなあ。逆に殺菌して発酵を止めてしまうな。
お酒自体はこっそり増やすけど。
こうして材料を並べてみると、すごく農作物って感じがするね。
穀物からは、以前作った絞り器で油を取り出す。
とうもろこしっぽいので良く取れた。
もちろん、一回で取れる量なんて微々たるものなので、これもコピーで増やす。
木屑はしっかり燃やす。真っ白な灰になるまで燃やす。
お酒からはアルコールを取り出す。
蒸留装置が必要になるけれど、温度管理が大地変容で容易なので、楽なものだ。
要は、78度以上、100度未満の温度を維持して、水が沸騰する前に気化したアルコールを取り出し、冷やして液体に戻すことで分離させれば良い。
気体を通す管を大地変容で冷やせば、アルコールが濃縮されたものがポタポタと滴り落ち、下に置いたカップに溜まる。
「どれ、味見は任せよ」
気配もなく、横から黒い手が伸びてきて、作ったアルコールをかっ拐って行く。
「どわっ。……って、ニーナか。来たのなら声くらいかけろよ」
心臓に悪い。不老が心臓止まって死んだりしたら、笑い話にしかならないぞ。
「これだけ酒の臭いを出しておいて、一人で飲むなど言わぬよな」
腰に手を当てて一気に飲み干す。
「おい、それかなり強い……」
「くぁぁぁぁっ。これはっ、ドワーフの火酒ではないか。お宝じゃぞ」
ただの蒸留酒です。そんなブランドものじゃありません。
「おかわりじゃ」
「ねぇよ。量を飲みたいのなら、増やすの待ってろよ」
まったく、最初からやり直しだよ。
黒ドラゴンに待てを教えつつ、なんとかコップ一杯を確保。石化コピーで増やす。
まあ、犬よりは賢いか。パワーが大型犬どころではないが。
「この、喉が焼けるような酒精も久しぶりじゃ。ドワーフのやつら、この酒だけは死んでも渡さんと強情じゃからのう」
「ドワーフの虐殺してるんじゃないだろうな、お前」
「するわけがなかろう、そんなことをすれば火酒を作るものも居なくなってしまうではないか」
うん、理性的なドラゴンで良かったよ。
「いや、もうこれでお主がいくらでも作れる訳じゃな、それなら……」
「まてまてまてっ。酒ってのはそんな簡単なものじゃないんだぞ。材料で風味が違ったり、香りをつけたり、果物なんかを漬け込んだり、他の飲み物と混ぜたりしてだな……」
と、そこで悪い笑みを浮かべるニーナに気づいた。
「ほんの戯れじゃよ。それより、酒の知識もなかなか豊富ではないか、のう」
これは、引っ掛けられたということか。
しかし、そうすると、ドラゴンの記憶を読む能力も際限がないという訳でも無さそうだな。
少なくとも、俺自身が記憶として思い起こしていないものまで勝手に読み取ることはできないってことか。
「うむ、賢い者は好きじゃぞ。妾とて、記憶のすべてを引っかき回せるわけではないわ。安心せよ」
「別に、心配とかしてねえよ。逆に詳しく説明しなくて良いなら便利と思うまでである」
俺も一口飲んでみる。
「くほっ、きっつ」
火がつくな、これ。ほとんどウォッカだ。
果物でも絞って混ぜた方が良さそうだな。
「そういえば、ドワーフの火酒には別名があったのう。……たしか、竜殺しじゃったか。妾にこんなものを飲ませていったいどうするつもりなんじゃ? 悪い男よのう」
……こいつ、酔っぱらってるんじゃ無いだろうな……。




