77話 お金を稼ごう。
「と、いうことで、これが作った菓子だ」
「で、これが原料の小豆という植物の種だ。これも栽培を頼むよ」
さらっとシンディが小豆をドラスレ君に渡す。
ドラスレ君が俺に仕事を投げ、その結果ドラスレ君の仕事が増える。
まさにLose-Loseの関係である。
娘の喜ぶ顔が見れたんだから、頑張れ。
朝から押し掛けたわけだが、ここはドラスレ君の家。結局、別途家を作ったらしい。
洞窟前に建てた家は公共施設扱いで、当面は臨時の宿泊所や集会所として使われる。
四人娘や開拓民チームもここに住み着いている。
ほぼ女子寮だな。
風呂だけ、我が家に毎日入りに来ている。
ほぼ風呂屋だ。
村にもずいぶん建物が増えてきた。
「なんか、あの建物だけ大きめだな」
便宜上、洞窟前は広場のようになっていて、領主の館なんかも広場を囲むようにあるわけだが、そこに建築中の新しい建物だ。
「ああ、あそこは酒場になる予定です。冒険者相手に仕事の依頼なんかも始めないといけませんし」
と、ドラスレ君が教えてくれる。
人が増えればそういう連中も出入りするようになるってことか。で、それを管理するのも領主の仕事か。
わざわざ仕事を用意することまで考えてるんだな。
すでに村とは呼べない規模ではなかろうか。立派な街だ。
というか、最初から街を作るって言ってた気もするな。
そういえば、ここしばらく仕事らしい仕事をしていない。頼まれ仕事ならやったけど。
ほぼ自給自足生活ではあるが、現金もあまり残ってないし、酒場のオープンにはまだかかりそうだ。
たまにはファーレンに行って、獲物でも売ってくるか。
獲物は途中で狩っていけるだろう。
ってことで、移動にはマイ・カーを使う。
街道へ平坦な道が繋がったので、陸路でも小一時間でファーレンまで行ける。
街道の分岐点には、矢印型の看板が立っていた。
北方向にバードマウント。
西がファーレン。
東がウィステラソン。
……リアルであるんだな、こんな看板。
これで、バードマウントがウィステラソンとファーレンの間の宿場町とかになるなら、また別の収入源になったかもしれないが、残念ながら分岐点からバードマウントに行くのも、そのままファーレンに行くのも、大して差がない。
ドラスレ君には、そんなものに頼らない街の運営を頑張って貰いたい。
そうして、ファーレンへと通う日々をしばらく送っていたのだが。
「……またか」
街道に木が倒れ込んでいて、道を塞いでいる。
仕方がないので、木の手前でマイ・カーを停車させた。
まあ、普通なら、人目のないうちに石化収納して、木材確保ラッキーと思う所なのだが、あいにくと人の目があった。
むくつけき男たちだ。
「こかぁ通行止めだぁ。通りたかったら、身ぐるみ置いていきな」
「頭ぁ、どうせ命も置いてくことになるんでやしょ」
「ちげえねぇ、ぼっへっへ」
「ってことで、悪ぃがちょい死んでくれや」
「運が悪かったなぁ」
マイ・カーの前後を挟むように、10人越えの男たちが囲んでいる。
「運が悪い、のかなぁ?」
思うところもあるのだが、とりあえず、囲んだ男たちの身長を目視で確認する。
「アースホール。アースバインド」
その場で穴に落ち、首から上を残して埋まる。
さらに、アースクリエイトで、埋めた穴を固める。
"盗賊です。兵士を呼んで来るので、近づかないでください"と書いた看板を立てて、そのままファーレンへ向かった。
そんなわけで、猪や兎を狩って現金収入と買い出し、のつもりだったのだけれど、思いがけず賞金首が収入源になっていた。




