74話 千客万来
さて、小豆は弱火で煮込めば、あとは砂糖と混ぜて餡子になる。
なんだけど、餡子だけで食べるのってどうだろう?
とにかく早く食べさせろ、と言われたらそれで済まそうかと思っていたが、時間があるなら一工夫入れたい。
「餡子だけで食べるときは、形と色をきっちり仕立てて作品にしないといけないような気にさせられるな」
日本人だからか?
本格的な和菓子屋で、伝統の餡をただの塊で出して、お茶セットでワンコイン、とかなら常連になれそうだけど、その場合餡子はどのくらいつくのだろうか。
まあ、今回はそういうわけにもいかないが。
型に入れてポンと取り出して完成、とかなら楽なんだけど、餡では難しそうだ。柔らかすぎる。
やっぱり、餡は具にしたいんだよな。あんパンとか、大福とか、どら焼きとか。
「たしか、芋ならあったか」
というわけで、芋を刻んで磨り潰す。
餡をパンに挟んで食べるくらいはすぐに出来るとして、違うものも作っておこうと思うのだ。
他にも色々用途がありそうだし。
といっても、作るのはただのデンプン。片栗粉だな。
磨り潰して、水に溶かして、搾って繊維質と分離。
あとはそのまま一晩放置して沈殿するのが片栗粉。
ヨウ素溶液を垂らすと、黄色から紫に変色するはずだ。そんなものは持ってないけど。
すぐに使うのだし、粉になるまで乾燥させる必要も無いな。それは後でゆっくりやろう。
分量計算が適当になるけれども。
そんな作業を朝起きてやっていたら、やかましい声が聞こえてくる。
女が3つで姦しいとは言うが、4つだとなんて読むんだろうね?
「ヨシツグー、起きてるかー」
「起きてるよー」
絶賛調理中である。
「お、真面目にやってるじゃないか。それが例のブツかい」
白い粉を作ってるときに、その言い方はヤメろ。
「豆に、芋ですの? ずいぶん庶民的ですのね」
「いいだろ、庶民なんだから。金箔でも入れろっていうのか?」
「あいにく、金は食べませんわね」
「砂糖は使うんだからいいだろ」
と言えば、4人揃って笑みを浮かべる。
しくじったか。試作品が出来るまで帰りそうにないな。
「……おい、ヨシツグ」
シンディの声のトーンが下がる。
あ、卓袱台の上にワインの瓶出しっぱなしだった。
「まあ、飲むなとは言わないけど、せめてあたしらがいるときに開けようとは思わなかったのかい。一人で空にしやがって」
「いや、ちょっと来客があって……」
「あたしら以外に誰が来るんだよ、ここにっ」
来たんだってば。




