6話 水場確保は良いものの。
2時間歩いて川にたどり着いた。途中大きな動物の反応は避けている。
時間は太陽の位置からの概算だ。元の世界とはずれるかもしれないが、太陽の動きを基に1日24分割で時間を計上するのに問題はないだろう。
大地知覚のお陰で方角が判るので、太陽さえ見えていれば時間は確認できる。
最初の場所で太陽が真南だったので、今は午後2時ということになる。
川原には石がゴロゴロしている。俺にとっての生命線になるかもしれない。大量にゲットした。
大きめの石を変容させて石の剣を作る。1mくらいの長さだけれど、ちょっと重い。柄を長めにして両手で持つことにする。
そして、水の確保なのだが。
「さすがに直接飲むのはまずいよなあ?」
生水なんて腹を下すのがオチだ。サバイバルで腹下しなんて命取りになる。
煮沸消毒すれば大丈夫だと思うが、と川を覗いてみた。
「魚がいる」
とりあえず毒ということは無さそうだが、直接飲むのは無理そうだ。魚がいるってことは魚が餌を食べて、排泄してるってことだしな。
「……石長比売様、どうやれば俺は火を起こせますでしょうか?」
マッチ。ない。
ライター。あるわけない。
火魔法。あるのかすら判らない。
「石で火を付けるというと、火打ち石?」
だが、あれは鉄があるから火花が出るのではなかったろうか? 手近な石を2つ拾ってぶつけてみるが、火花は出ない。
「サバイバルだと、木の棒を擦り合わせたりする?」
石でできるんだろうか? 無理な気がする。
「キャンプの知識とかもっとあればなあ。いや、キャンプならライター使うか」
家で生活するより金がかかるのがキャンプだ。サバイバルとは似て非なるものだろう。
「まてよ、キャンプ用品でファイヤーピストンってのがあったよな」
空気圧縮を利用して熱を作り、火を起こす道具だ。
金属製のものもあったはずだし、形さえ作ればいけるのではなかろうか?
「大地変容」
早速、川原の石で作ってみる。外側の筒と、そこに差し込む棒。隙間を無くして表面を滑らかに。サイズを精密にイメージだ。
枯れ草を石で叩いて繊維をほぐし、火口を作る。晴れていたのは幸運だったな。
作った繊維を内棒にセット。ピストンに差し込む。
「そして、力一杯叩きつける!」
ピストンを圧縮した後、すぐに外したなら、そこでは火口が赤く光っていた。
「よっしゃ、成功!」
小さな火種を少しずつ大きく育てる。そして木の棒に着火した。石の剣を作ったのだからこっちはもう要らないだろう。嵩張るし。
あとは石で火を囲う。大地変容を使えば竈のようなものも簡単に作ることができる。
コップも石で作った。そこに水を汲んで火にかける。
「水の確保成功だ」
これで3日で死なずにすんだ。
「次は食料なんだが。魚でいいよな」
大地変容を使えば川原の石で銛を作ることもできる。
問題は、うまく魚が捕れるかだけれど、さすがに自信はないな。
川の水は透明度が高く、泳いでいる魚も探せば目視で見つかる。
石の銛を構える。そして投げる。魚逃げる。当たらない。
「やはり禁断の、石打漁か」
水中にある大きな石に石をぶつけて、その衝撃で魚をとることができる。日本では禁止されている漁法だ。大きな魚だけでなく稚魚まで死んでしまうので、自然破壊になってしまう。
この世界にどんな法律があるか判らないが、まあ取り締まりがあるとは思えないな。
「いや、まてよ?」
岸近くを泳いでいる魚に狙いを定めた。魚は水の流れに逆らって泳いでいるものの、岸から見ると川の流れる速さと釣り合って、止まっているように見える。
「大地変容」
泳いでいる魚の回りを囲うように土壁を隆起させる。
「よし、魚ゲットだぜ」
逃げられないように囲んでしまえばあとは石銛で突くだけだ。あっさりと三匹の魚を確保した。
大地変容で平たい石と石の包丁を作る。平たい石はまな板だ。魚の腹を開き、内臓を捨てる。
石で作った串に挿して火にかける。あとは焼けるのを待つだけだ。
「食料ゲット。快調じゃないか、我が生活は」
食事の問題がこれで一旦解決した。腹が満たされれば人心地もつくだろう。




