53話 呼び出し御免。
そうすると、後の可能性としては。
エルフ族もまた、やり方はファティマ教と異なるものの安定志向で、異世界召喚を行うとは考えづらいらしい。
公務員は前例の無いこととか、やりたがらないからなあ。
獣人族はシンディパバ同様の脳筋。こちらも無さそう。
あとは帝国とサウザンド王国ということになる。
サウザンド王国内でアイリスが聞いたことはないそうだが、国内でも知らないことも多いとか。
「なんじゃ、誰に呼ばれたのか気になるかの?」
「そりゃな。こっちから関わる気は無いけど、手配されていたり、狙われていたりしたら嫌だからな」
ぐっすり眠れなくなるじゃないか、昼に。
「人族とは難儀じゃのう。竜であれば、ねぐらに近寄るものは排除すれば済むものじゃが」
そもそも、誰もそんなところ寄りませんから。
「そういえば、ストンフォレストに住み家を作ろうかと思ってるんだが、良い場所とか知らないか?」
せっかくだから聞いておこうか。
「ほう、お主が我らの力比べに参加するというのか? もちろん、高ければ高い場所ほど良い。上のものを倒して奪うのが本道よ」
「そうじゃなくて、そういう争いに捲き込まれない場所を聞いてるのっ」
「なんじゃ、詰まらんのう。それなら、低い場所に構えるが良い。格下に手を出すなど竜の恥じゃ。誰も関与せんよ」
そんなもんですかね。
まあ、それならちょっと、思い当たる場所があるかな。アースサーチであたりは付けておいたから。
マイ・ジェットのお陰で選択肢も増えたしな。
「そういうことならば、これをやろう」
そういうと、ニーナは黒いワンピースの裾をちぎって俺に渡す。
いや、これも竜の鱗になるのか。
「妾の竜鱗じゃ。これを持っておれば、妾からお主の居場所がわかるようになるのじゃ」
GPS監視ですか?
「これを使うとニーナが呼び出せるとか……」
「そんな訳がなかろう。妾が遊びに行く時に目印になるだけじゃ」
あ、そうなんですね。
「次に会うときには、酒でも用意しておくのじゃな。無くしたり、売り払ったりしたときは後悔させてくれようぞ」
むしろ、呪いのアイテムなんですね。解ります。
「そろそろ山の近くまで来たようじゃの。お主らはこのまま東に向かうのであろう。妾は直接帰ることにするわい」
そう言ってマイ・ジェットのドアを開ける。
室内が強い風で煽られる。
とっさにエレメアが魔法でそれを抑えた。ナイスジョブ。
ニーナはマイ・ジェットから飛び降りる。
スカイダイビングの姿勢とは違い、両手を真っ直ぐに左右に伸ばしたその姿勢は、ロボットアニメの主人公のよう。
マイ・ジェットから離れたところでその姿は黒竜の巨体へと変わり、北へ向けて飛び去った。
「本当に自由な奴だな」
迷惑を省みないと言うか。
「まあ、ドラゴンだからねえ」
「ドラゴンの知り合いが出来たのは初めてです」
「鱗族とはやはり違うわね」
「あれが、ドラゴンですのねぇ」
その後、マイ・ジェットの中は静かになった気がした。




