50話 漆黒の闇。
……今の、考えてることを読まれたんだよな。
「いかにも。人間との会話はそうせねば不便であろう」
「あんた、神様け?」
「闇の黒竜、ニンゼルクナルガじゃ」
ここでも異世界ディスコミニュケーションかよ。
「ほう御主、稀人かや。先ほどから言葉が通じておるの」
ああ、今までの会話はドラゴン語だったのか。
名前ももう少し短く翻訳してくれれば良いのに。
「発音が難しいのであれば、ニーナと呼ぶが良い」
「それで、ニーナさんは何の御用で?」
腹が減ったので人間を食いに来た、とか言われたらどうしよう?
「ニーナでよい、尊ぶならば闇の黒竜ニーナ、と呼べ」
長いからニーナで良いか。
「なに。湯気が出ていると思ったら、見慣れぬものがあったのでな、見に来たのじゃ」
そうですか。お腹は空いてないんですね。
「ふむ、小腹は少々空いておるが」
「もうすぐ、連れが肉とか捕ってきますんでお待ちをっ」
いやしかし、このサイズの腹を満たすのは無理な気がするな。
「安心せよ。妾はグルメじゃ。生で人肉など食わん。人族の料理は好んでおる。量も主らと同じでよい。ほれ」
そう言うと目の前からドラゴンが消えた。後には人の姿が。
「この姿であればよかろう、存分にもてなすが良いぞ」
長い黒髪の女性の姿であった。
髪の色は正しく漆黒。前髪と横髪が段差になって真っ直ぐに整えられた古風な髪型。
目付きは幾分悪い、訂正、眼差しが強い。
体型も貧、ではなくスレンダー。
「人族の男はすぐにそんなことを気にするのう。それにいかほど価値があると言うのか」
さすがドラゴン、価値観がそもそも違うので気にもならないらしい。
なお、なぜ体型まで判ったかと言えば、人の姿になっただけで、人の服を着ている訳ではなかったからである。
では、素っ裸なのか? いや、違う。
顔以外は黒い鱗の様なものに覆われて真っ暗。全身タイツを着ているように見える。
素っ裸なのは俺だけだな。
「どうじゃ、この姿であれば胴長でも短足でもあるまい」
たしかに、均整がとれた伸びやかな四肢は美しいバランスを保っている。
ドラゴンはそっちのほうを気にする生き物らしい。
「では、食事の用意ができるまで、待たせてもらおうかの」
そう言って、ニーナは湯船に入ってきた。
一応、女性陣が4人で入ることを想定して、かなり大きく作っているから、二人で入っても余裕があるのだが。
「ドラゴンも風呂に入るのか?」
「必要はないが、雰囲気は良いぞ。なかなか、景色も良いではないか。空から見るのとは違う趣があるのう」
そう言ってニーナは海に沈もうとしている夕日に目をやる。
ドラゴンって言ったら、火山の火口でマグマの風呂に浸かってそうなイメージもあったのだけれど。
「赤竜のやつでもなければ、そんな真似はあまりやらんのう」
赤竜はやるんだ。というか、たまにはやるんだ。いざとなったらマグマを地面に満たして攻撃とかどうかな、と思ってたんだけど、通用しないか。
狩りには使えないしな。獲物がダメになるから。
「人の身で、竜と戦うなど考えぬ方が身のためよ」
そうですね、まったく。
「それより、ほれ。先ほどの音楽を続けぬか」
音楽? さっき歌ってたアニソンかな?
異世界ではアニソンが人気あるのかな?




