46話 試練の行方。
少しまとめてみようか。
魔法による遠隔攻撃は禁止。武器を魔法で作るだけなら良い。
ヘイズジェルの警戒距離は約40m。それより遠ければ反応しない。
そこから走って近づくと間に合わない。野球で盗塁する感じだな、距離的には。
矢を射てば当たるがヘイズジェルは倒せない。突き刺す攻撃ではダメらしい。
大きなものを射出すれば倒せそうだが、速さと両立させないといけない。
そもそも矢が当たるのも、避ける必要無しとヘイズジェルが判断したから、のようでもあり、大きな質量をぶつける場合には獣人戦士並みのスピードが必要なのだろう。
「さて、どうするか」
一旦作戦会議。ついでに昼食を済ませることにする。
「ユキはクリアできるのか? これ」
「普通に走って切れば済むわ」
まあ、それが本来のやり方なんだろうけどさ。
お前が野球選手になったら盗塁王だろうよ。
アメフトでも活躍しそうだ。覆面被って。
「さっきの投石機か石弓のデカイのを作って、ヨシツグを飛ばすとかはダメなのかい?」
「俺が死ぬからダメ」
脳筋は役に立たないな。
「エレメアは何か思い付かないか?」
「魔法が禁止だなんて、おかしなルールですわね」
感想を聞いてるんじゃないよ。
「アイリスは……」
「お役に立てそうに無いです」
肉体派じゃないもんな。
「アースクリエイト」
槍を作り出す。矢よりは大きい。
投げる。
命中させることはできるが、ヘイズジェルは倒れない。
「もっと威力を上げてみるか」
握りを付けた棒をクリエイトする。棒の先は返しがついている。そこに投槍の石突きをセット。
アトラトルと呼ばれる投槍器だ。
思い切り力を入れて投げると、槍はヘイズジェルに突き刺さり、折れた。
そしてヘイズジェルは消えた。
「ん? 今の反応は、刺さった後に逃げたのか?」
「そうね、折れた槍が横倒しになってぶつかりそうだったから逃げたってところかしら」
「結構頭使って判断してるんだな」
どの辺に頭があるのか見ても判らないが。
「もともと、強い魔物ではないもの。力が弱くともしっかりと当てればナイフでも倒せるわ」
「ふーん、じゃ、こんなのはどうだ?」
作ったのは槍だが、今回のものは太い。
「クリエイト」
作った槍をそのまま細く再加工。
普通のサイズの投槍になった。
それを投槍器で投擲する。
槍はヘイズジェルに突き刺さり貫通。そのまま地面に突き刺さって爆裂した。
「よしっ」
ヘイズジェルが消えた後には、緑色のピンポン玉のような核が残されていた。
試練達成である。
「これで文句は無いよな?」
鳥人間に確認する。
「……今のは、魔法ではないのか?」
「攻撃魔法じゃない。ちゃんと槍で仕留めただろ?」
「私も良く解らないのですが、今の爆発は何だったのですか?」
そういうのは後にしようぜ、アイリス。今は試練達成を認めさせることが先だろうに。
まあ、理屈は簡単だ。最初に作った太い槍は中を空洞にしたもの。クリエイトすると内部には空気が密封される。それを再度のクリエイトで圧縮して、圧縮空気を内包した投槍を作ったのだ。
突き刺さった槍はその衝撃で破損し、解放された圧縮空気が爆発を起こす。
割れた槍が効率良くダメージになるように、縦に溝を掘ったりはした。
だから、普通に作るのは無理だし、作ったらすぐに使用しないと誤爆の危険が高い。アイリスにはやらないよ。
とりあえず、爆裂投槍と名付けようか。
皮をダメにするので狩りには使いづらいが。
「では、文句はないわね。私たちはこれで出発するわ」
「しかし、姫様……」
「あら、鷹人族はいつから言葉を違えるようになったのかしら?」
煽るなよ、ユキ。
せめて一晩、村でお休みに、と食い下がる鳥人間。
それくらいは受けてもいいんじゃないか、と思ったのだが、ユキからは却下された。
今から出発しても、途中で野宿なんだけどなぁ。
そんなわけで、再びマイ・ジェットの中。
「あのまま村にいたら、間違いなく父がやって来たでしょうね。呼びに行かせたに決まってるわ。あからさまな時間稼ぎだったもの」
なら、試練自体を止めてくれよ。
「父親に会いたくないのか?」
「そういう訳じゃないけど、面倒になるのよ」
それは会いたくないっていう意味にはならないのだろうか?
「それとも、ヨシツグは私の父に会ってみたかったの?」
「どんな人か知らないんだから何ともなぁ」
というと、話題がユキの父親に関することになる。
なんでも、金色の鬣を持った力自慢で、今の獣人族全体で代表になっているのが猫人族の族長であるらしい。シンディの父親であるヒグマとは数十年来のライバルだとか。
それ、猫科ってだけで、違う生き物だよね。
ユキも白猫ではなくホワイトライオンだったわけか。判りにくいよ、名前はレオとかにして欲しかったよ。
とりあえず、ユキパパには会いたくないな。噛られそうだ。




