43話 みんなと旅行です。
結局押しきられて全員が乗れるように飛行機は大型化。
と言っても縦横二倍くらいだが。
操縦席の後ろにスペースを作って4人掛けの座席を作った。
窓もつけてみたが、必要な強度が明確に判らなくて怖い。小さめの丸いはめ殺しの窓で、ガラスも厚めにしてある。
船の客席みたいな感じだな。
もし、割れてしまった場合には蓋を閉じられるように配慮した。
座席にクッションをつけたので、そのままでは収納できなくなったのが面倒と言えば面倒。
いざとなれば石化収納することになるだけだが。
パラシュートも4人分追加発注。特に追求はされなかったが、もし出所を問われたときは森の主に四天王が追加されることになる。
ジェットパックは俺にしか使えないので、そこだけ不安が残る。
するとエレメアから、いざという時には風の魔法で落下のコントロールを引き受ける、との提案があった。
女性陣の方はそれで任せることにする。
そのいざという時に俺のことも助けてくれるかは微妙だな。
そして一番の問題だが。
もともとは、一人で丸一日飛び続けるつもりだった。
それは人数が増えた今でも変更はない。
つまり何が言いたいかというと、トイレの問題である。
空には花もなければ雉も居ないのである。いや、雉は居るかもしれないが、銃はないな。
当初の予定では、操縦席から直接出せるようにと考えていた。何を出すかについて詳細は言及しないが、賢明なる諸兄には、外を歩く際には傘を挿すことをお勧めする。
結局、操縦席については当初の予定通りで。使用の際には後ろの座席との間でドアが閉まるように改造。
後ろの座席にはさらに最後部に個室を設置。
まあ、基本的には使わなくて済むように出発前に済ませる方向で。使うときになったらその時に説明しよう。でないと文句を言われそうだ。
そして、ある晴れた昼下がり、では予定が狂うので早朝。
「全員準備は良いかぁ」
「おー」
「大陸一周に行きたいかぁ」
「おー」
「墜落は怖くないかぁ」
「お、……え?」
こういうネタに付き合ってくれるのはアイリスだけだな。残りの3人は白けた顔で見てくる。
昇る太陽へ向けて、飛行機の発着場と化したファーレン南のエスタ湖から、マイ・ジェットは飛び立った。
荷物は最低限。食料もそんなに必要ない。その辺りは冒険者として活動しているメンバーには手慣れたものだった。
武器や鎧は身に付けているので、そこそこ重量はあると思うが。
飛び立って30分くらいだろうか。海にたどり着いた。
「海を見るのは初めてだなぁ」
こっちの世界ではね。
海岸線を辿る都合上、高度は高いものではないが、陸を行くより視線は高い。それでも、海の向こうに大陸と呼べるものは見えなかった。
島ならあるようだが。
「ここから、北に向かうんだよな?」
シンディが操縦席の横に来る。
重量が前に寄るから大人しくしてて欲しいんだが。操縦桿を気持ち引いておく。
「街の上空を通るのもなんだし、手前で方向は変えるよ」
また、射たれたくないしな。
まだ街まで距離はあるが、港の様子は見えてくる。
入り江があり、小さな漁船が砂浜に並んでいる。
外洋船と呼べるような大きな船は見当たらない。漁師の集まる漁港のようだ。
「本当に早いですね。ウィステラソンはファーレンからは王都に向かうより遠かったはずです」
だから、前に集まらないで欲しいんだがなぁ。操縦桿をさらに引いた。
いつか行こう行こうと思いつつ機会がなかったが、これからは気軽に日帰りで来れそうだ。ファーレンでは肉が多いのだが、たまには魚が食べたくなる。
進路を北へ。ここからは海岸を目視しつつ、それに沿って飛ぶ。同時にコンパスで方向を確認。
海岸の角度で大体の現在位置が判るという寸法だ。
今は若干東よりの北向きだから、まだまだ先は長い。
まあ、それは西側に連なる山々を見ても判る。
「うわー、やっぱりストンフォレストは険しいですね。山道の一つも見えないです」
マイ・ジェットの飛ぶ位置よりもさらに高い山が、海からすぐに高い崖となってそびえていて、ずっと続いている。
不可侵の国境線というのも頷けるな。
「東側からストンフォレストを見ることになるとはねぇ」
「もっと高く飛ぶことは出来るのかしら?」
「出来なくはないだろうけど、それはまた今度な」
今回の目的は長距離飛行テストだ。
と、山の上の方は雲に覆われて先が見えないのだが、その奥から散発的な光が見える。
雷って雰囲気には見えないが。
「ドラゴン辺りが争っているのかしら?」
「いるの? ドラゴン」
もしかしたら、くらいの話じゃなかったっけ?
「今のは強い魔力の光でしたわ」
「ドラゴンでなくとも、高い山には強力な魔物が居るものよ。もちろん深い海にもね」
「山の魔物と海の魔物が境目で喧嘩したりは?」
「縄張りが別れてるもの、まず無いわね。陸の魔物は海には行かないし、海の魔物は陸には上がってこない。常識よ」
白猫魔物博士がそう言うなら信じよう。
最初は海も岸壁も見応えがあったんだけれど、さすがにずっと同じような景色が続くと飽きるな。
「♪~」
操縦しながら歌を口遊む。
「あら、聞いたことのない曲ですのね」
まあ、アニソンだからな。
車の長距離運転は、眠気との戦いだったからな。しかも命が懸かる。コーヒーと歌は必需品だ。
「荷物の水筒にコーヒーが入ってるんだ。カップに入れて寄越してくれるか?」
出発前にマスターにたっぷり入れてもらった。
「あら、わたくしを顎で使おうと言うのかしら?」
「……お願いします」
「まあ、いいですわ。その代わり、もっときちんと歌いなさいな」
お前も暇してたってことかい、それは。
リサイタルby俺、が4曲めに突入する頃ようやくストンフォレストを抜けた。
その間、大人しく座ってくれるようになったのはいいが、拍手も感想もタンバリンもない。
BGMになってるだけマシか。少なくとも五月蝿いという文句は言われなかった。
「ここはもう、サウザンド王国なんですねぇ」
「こっちにも港があるねぇ。アイリスは行ったことあるのかい?」
「多分あるはずなんですけど、上からみると随分と印象が違うので何とも。ウィステラソンもそうでしたし」
歩道を歩くのと車から見るのとでも大分変わるしなぁ。
「あまり近づかないように、回って行くぞ?」
街に近づくと危ないからな。海側に迂回して通過する。
さあ、ここからは別の国だ。




