40話 空を飛ぼう。
海の先に大陸があるなんて話は聞いたことがないらしい。海洋貿易とかもないってことだな。
そうすると、自力で海を越えなくてはならなくなる。
この際、本格的に他の大陸を目指そうか。
といっても、無謀な航海に出ようという訳じゃない。海の上じゃ俺の力は使えないものが多いしな。地面がないと収納も出せやしない。
なのに、なぜそんな気になったかというと、やることがないということに気付いたからだ。
エスタ湖で測定をした日から4日。宿で何もせずに寝て過ごした結果、そう結論付けた。
ストンフォレストの探索に行って、約束で貰える土地を見繕う、という話もありはするのだけれど、世界地図を完成させてからでないと、くれないんじゃなかろうか? そんな雰囲気がある。
シンディはそんな俺を気長に待ってくれているようだ。特に何も言ってくることはなかった。が、一日中ダラダラしていた俺を見る目には圧があった。
アイリスは俺が使っていた道具類をスケッチしていたようで、何やらあちこち出歩いている。俺から詳細の説明はしていない。異端審問にひっかかる経路になりそうな最有力候補だからだ。
エレメアは最近、庭木のそばで宙を見上げて小声で何か話していることが多い。妖精さんでも見えるのだろう。年頃だしな。
ユキは姿を見せなくなった。一人部屋を取って籠っている。俺も人のことは言えない。誰しも良くあることだ。
で、久しぶりに研究所へやって来た。ファーレンにある俺専用の方。
「アースクリエイト」
作るのは円筒形。構造はちょっと複雑になる。
中央に熱源部。ここにはお決まりのマグマを熱源として入れる。
そこを挟むように前後にファンを付け、繋いで連動。
ファンの空気が逆流しないように空気弁を設け、一方向に吹き出す機構とする。吹き出し口は漏斗のように絞る。
加熱されて膨張した空気は、吹き出す際に吹出側のファンを回し、それに連動して吸込側のファンが回ることで新しい空気を圧縮して取り入れる。
名付けて、マグマ熱ジェットエンジンだ。
フレームは神様印の強化石材で作っているのでオイルフリーのセラミックジェットエンジンである。
「あっ」
ジェット噴射で押し出されたエンジンは螺旋を描くような起動で飛んでゆく。
「固定してなかったのは失敗だったけど、とりあえず飛んだな。うん、成功だ」
これで空を飛べるはず。
機体はできるだけ軽く。多孔構造でクリエイトする。
ハンググライダーのような手持ち形状のほうが離陸や着地はしやすいかもしれないが、飛行中の疲労を考えると、きちんと着座して車輪で接地できるようにしたい。
そり形状でもいいか。いっそ水上飛行機でも良いかもしれん。
主翼と尾翼が動くようにして、操縦桿で操作できるように。たったこれだけの可動部で操縦しようというのだから、怖い怖い。
まあ、重心になる操縦席を下の方に持ってきて、左右対称を心がければ安定するだろう。
機体重心下部にロープを付けて引っ張り、凧のように浮かぶことを確認する。
とりあえず、エスタ湖で練習するか。人が鳥になるコンテストみたいに。
飛行中に発生するトラブルや墜落に備えて、パラシュートを作りたいと思い、服飾の店に持ちかけた。王家からの指名依頼免状があるので、多少の無理は聞いて貰える。はずなのだが、布では強度が足りない。何度もエスタ湖に飛び込むこととなった。
「さすがに、パラシュート無しで飛ぶのは勘弁してもらいたいしな。どうしよう?」
「強度のある布ですか? 魔物素材とかですかね?」
この頃になると再びみんな食事の時は酒場に集まるようになっていた。
まあ、さんざん湖で泳いだからな、パラシュート製作で難儀して。
奇行扱いされて監視の目が付くようになったっぽい。
「魔物で布というと、シルクスパイダーかしらね?」
ユキはなにげにモンスターには詳しいな。
「それって、何処にいるんだ?」
「サウザンド王国のさらに北、エルフの森からは南側ね。ここの森には獣人も多く住んでいて、シルクスパイダーの布は良く取引されてるわ」
「遠いな。この辺まで流通しないもんかな?」
「どうかしら、運次第かしらね」
「もしかしたら、貴族連中の中に持ってるやつも居るかもしれねえけど」
「宛ては?」
「ねえなあ」
「魔物素材なら、ホーンラビットやグリーンディアの毛皮とか使えないかな?」
それなら、俺がいくらでも捕ってこれる。
「皮加工では大きなものは難しいですね。どうしても繋ぐところで強度が落ちてしまいますから」
それじゃ本末転倒だな。強度が欲しいわけだから。
この辺で大きな皮のとれる魔物というとグリーンディアだが、きれいに皮が取れたとしてもたかが知れている。
その5~10倍の大きさは欲しい。
そして、それだけの大きさとなると、魔物自体も大きくなるわけだ。
「体長10mくらいで、いい皮が取れる魔物とかいないかなぁ」
「ストンフォレストに登ればドラゴンくらいいるかも知れねえけど、無傷で倒せるのか?」
無理だね、それは。
ドラゴンって時点で無理。




