37話 世界は広いな大きいな。
そうして、ファーレンの街へ俺は戻ってきた。
私は帰ってきたぞ。
指名依頼はどうしたかって?
そんなの一日二日でできるわけないじゃん。
鋭意制作中で凌ぐよ。
「あたしが進捗管理してるってこと、忘れてないだろうね?」
帰り道も4人娘が同行している。
「あれ、第一王女じゃないですか? なぜこちらに?」
「しつこい。あたしは継承権なんて放棄してるって言ってるだろ」
第一王女ではあるものの、母親の身分が低く既に他界。そんなわけで出奔して冒険者をやっているだとか。政略の道具は真っ平だとか言って。
王家の気質も力が全ての脳筋で、歴代の王位継承者も武者修行とかよくやるらしい。
世界中にヒグマが出没するわけだ。
でも、継承権放棄したって言ってるの、お前だけだと思うぞ。誰も認めてないんじゃないかな。
父親も妹も溺愛してたっぽいし。
まあ、そうは言っても、俺としても世界地図に興味がないわけでもない。
なにせ、今後ずっとこの世界で暮らしてゆくのだ。不老永命で。
ならこの際、世界の全部を確認したい、というのは至極自然な発想だと思う。
本屋だのネットだので世界地図も旅行情報も簡単に手に入る日本とは違うのだ。
なので、まずやって来たのがファーレンの街から南に広がるエスタ湖である。
「湖の地図から描くのかい?」
なぜか4人娘同伴である。
一応ここって風光明媚な観光スポットで、デートコースに最適とかマスターが言ってたんだが。
どこの世界の話なんだろうな?
働け働けと尻を叩いてくる看守4人に監視されてる気分だよ。
あ、でもそれってある意味夫婦っぽいのかな?
ま、それはさておき。
「うん、聞いてた通り、対岸が見えないな」
広い湖だ。
広すぎて、湖なのに波が立っている。
水質は、観光地というだけあって綺麗なものだ。日本のとある湖のように臭いもなければ異物も浮いていない。
さて、ここでいろいろ作らないといけないわけだが、ギャラリーがいるとやりづらいんだよな。やって良いラインとダメなラインが判りづらくて。
極力、収納から出したんです、で誤魔化すけど。
とりあえず、定規を出す。
これは王都で購入した1メートル定規だ。もちろん金属製。
この世界、長さの単位がメートルなんだよな。自動翻訳の誤訳かもしれないが。
なんでも、建国王の使っていた愛用の剣というのが国宝として保存されていて、その長さを1メートルと決めたんだとか。
見た感じ、だいたい地球の1メートルくらいだ。
波打ち際に石で台を作る。正確に地面から2m。
同じ高さに円筒形の筒。筒の両端にはガラスで作ったレンズを嵌めてある。対物側が凸レンズ、接眼側が小さい凹レンズ。
望遠鏡だ。
ドワーフ工房で手にいれたガラスが早速役に立った。
レンズの形状は実際に見ながら微調整する。大地変容で。
で、何をするかと言えば、波打ち際がギリギリ見える場所を探すわけだ。
対岸を見ると波打ち際は見えない。その代わり向こう岸に立っている木が見える。根の方は水面の後ろに隠れて見えない。つまり、地球と同じく星は丸いってことだ。
ファンタジー風味の平面の大地ではないのが判る。
そのまま、湖の見る位置をずらして行けば、波打ち際がギリギリ見える位置を目視確認ことができる。
まあ、知りたいのは大体の数値だ。正確である必要はない。物理学者でも天文学者でもないんだから。
位置が決まったら、そっちに移動。移動だけで1時間以上かかった。波打ち際にこれまた高さ5mの石柱を建てる。
もっと高い方が精度が増すが、まずはこのくらいで。
元の観測点に戻る。もう昼が近い時間だな。
最初に作った台を石柱にむけて1mの長さに整形し、手前に覗き穴、先に定規を固定。
覗き穴から見た石柱の高さを定規で測る。
「いったい、何をやってるんですか? それは」
「んー、世界地図の大きさを先に確認しておこうと思ってね」
アイリスなら、説明すれば計算してくれるかもしれないが、まあ、一回出せばそれで済む数字だしな。
測定結果は、だいたい1mm。
目視の誤差が大きそうだけど、まあ倍違うとかでなければいい。誤差率10%くらいには収まってるだろう。
なので三角測量で計算すれば、2mの高さから見る水平線までの距離が5kmということになった。
あとはピタゴラスの定理だ。
この星の半径は6,250km。円周が39268.75km。多めに見積もって、だいたい4万km。
ボールを転がしてスイッチを作動させなくても計算だけで数字が出る。
地球と同じくらいなんだな、大きさ。




