36話 リベンジ。
イーノ=タターク。爵位はない。子爵家三男で現在は王立科学研究所勤務。
まさか、また会うことになるとは。
「タターク子爵家イーノ、王命により馳せ参じましてございます」
ヒグマの前に跪いた姿は、今にも食べられる寸前の獲物のようだ。
「うむ、その方を呼んだのは、世界地図に関する話だ」
地図の編纂もこのおっさんの仕事なのか。手広くやってるな。
実務は部下任せとかそんな感じなのかな。
「机に広げている地図が最も新しい地図で相違ないか?」
「は。ちょうど各地に赴き情報を集めている部下が戻っておりましたので、帯同いたしました。そのものに話させてもよろしいでしょうか?」
やっぱり部下任せかよ。
しかし各地で情報収集とか、忍びとかか?
いるのかな、忍者。
許可を取って部下なる人物が入室する。意外なことに女性だ。くノ一だ。
「マーミャ=リンゾと申します。」
女性はそう名乗った。
地図は最新で間違いないらしい。
ついでに聞いてみたが、ストンフォレストについては直接の確認はできておらず、街から街を渡り歩く形で地図を作っているらしい。
そりゃ確かに、地形にそって測量なんてしてたら何年かかるか判らないし、他国の地図なんて作ったら問題になりそうだ。
それなら、あのくらいは誤差とするべきだろうか。
ってか、あっさり見せられたけど、軍事機密じゃないの? これ。
「この者が言うには、大陸北にはさらに大地が続いているという。それに関して考えを述べよ」
偉そうだな、ヒグマ。いや、偉いのか一応。
「おそれながら、大陸北はエルフの森であり、確かに実際歩いての確認は出来ておりませぬ。編纂した地図はエルフ族との交渉により情報を得たものにございます」
頭を下げたまま、マーミャが答える。
その後ろでは、イーノ研究員が、自分は聞いてないぞ、とか騒いでいるが、とりあえず聞く価値は無いだろう。
「そうか。エルフ族がそう言うのであれば、それについては言及すまい」
あっさり引き下がるな。熊って生き物はもっと執着が強いと聞くが。
それこそ、この場にエレメアがいるのだから、問い質すくらいするかと思った。
女性陣はイーノ研究員が来る前に、後ろの方でお茶会を始めている。第二王女主催の。
俺もそっちに行きたいよ。
「では、冒険者ヨシツグよ」
いきなりこちらを振り返る。せっかく後ろで視界に入らないように気を付けてたんだが、気付かれていたか。
「指名依頼だ。世界地図を作れ。お前が正確と考える方法でな」
執着しまくってました。しかも、簡単に言ってくれる。
まったく、ヒグマは他者から奪うことしか考えない生き物なのか。




