32話 あのセリフ。
「光を放つ機械の作成に成功したとのことですね」
今被告席に立っているのは、ドワーフのおっさん。
ってか、あそこは被告席じゃなくて証言台か。被告席は俺が今座ってるところだな。証言台から向かって右側。なんたら子爵の正面。
こっちに座っているのは俺一人だけ。……弁護士居ないの?
「へい。光を放つ装置を作成いたしやした。いくつでも再現できやす」
裁判長の前にある机には、昨日一緒に作った電灯付きの杖が置いてある。
一応、デザインは修正して、杖の先にガラスの立方体がくっついているような形になっている。
イギリス風の街灯を小さくして、引っこ抜いてきた感じだ。
細かい装飾までついてるな。いつの間に。ドワーフの拘りか。
「では、確認します」
裁判長が杖を手に取ると、杖の先が明るく光った。
『おおぉ。』
室内各所、傍聴席からも向かいの席からも、どよめきが起こる。
「では、工房長ファンガスは理の説明を」
「へい。この魔道具は光魔法の魔道具ではなく、雷魔法の魔道具を組み込み、装置を合わせたものでございやした」
うん。なので手回し式電灯とは別物なんだけど、いいのかな? まあ、ドワーフのおっさんが報告しちまったんだからしょうがない。
ってか、あのおっさんの名前、ファンガスってのか。くしゃみが出そうな名前だな。
「雷の魔道具は王技研の別チームが開発したものでございやす」
あー、歯ぎしりしてるな、なんちゃら子爵。
「そちらのチームからは、個人的に装置開発への協力を頼まれていたこともあり、今回の発明に対して、共同開発の形を提案されておりやす」
おお、そんな交渉までしてたのか。さすドワ。
「意義ありっ。ならばこの魔道具は王立技術研究所の研究成果を盗用したものでありましょう!」
件の子爵が立ち上がる、が。
「雷の魔道具に関する使用是非については別件と判断します」
裁判長はそう宣言した。
雷の魔道具については完全に話の対象外だったからな。向こうもあくまで光魔法云々を前提としていたわけだし。
あーあ、真っ赤な顔しちゃって。血管切れるぞ。
「理の説明は成されました。今回の発明に対し、光魔法ライトの魔道具作成に関する研究成果は、関係しないことが証明されたものと判断します。よって、研究成果の盗難疑惑、及び盗んだ成果による虚偽の発明申告に対する疑惑は、共に晴れたものと結論付けます」
こうして、裁判は閉廷した。
無罪、と書いた紙を掲げて出て行きたい、とも思ったが、この国での無罪の文字を知らなかった。今度教えてもらっておこう。
アイリスには何度も頭を下げられたが、まあ、悪意があったわけでもないしな。
うんたら子爵は嫌いだが。




